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忘れられた景色と祖父のauto110|前編

1月10日、110の日ということで、いつかまとめたいと思っていたauto110(オートワンテン)との出会いと思い出について書くことにします。

冷え切った空っぽのリビング

はじまりは、2021年4月。仕事で地元の札幌を訪れた私は、父の家を訪れた。父は札幌の閑静な住宅街で、5+2L2D2K+庭・車庫・音楽スタジオ付きという、無駄に大きな家に1人で暮らしている。正確には、1人と猫2匹。
かつて、祖父母、両親、兄と私の6人が住んでいた、私の生家である。

1980年代後半まで祖父母が住んでいた1階のスペースは、猫たちがうろうろするぐらいで、現在はほとんど使われていない。冷え切ったリビングには一部の家財がそのままの姿を残している。

祖父のスキー部の後輩だった登山家・三浦雄一郎さんのサイン入り写真も、ずっと無造作に壁に貼られたまま。母が言うには「六花亭」の花の絵で有名な坂本直行さんとも交流があり、お祝いでいただいた原画があったはず、らしい(それは行方不明)

そんなわけで、がらんとした部屋ではあるが、まだまだいろいろなものが手付かずで眠っている雰囲気がある。

写真は、2019年にもらってきたクラーク博士の胸像。祖父が同窓会の記念に企画・制作したオリジナルのものらしい。今は私の家に飾っている。

祖父が残した謎のカメラを見つけるが・・・

話を戻して、2021年4月。幼い私と兄と祖母が3人で写っている写真があったことを思い出し、1階のリビングボードを調べていた。棚の扉を開けると写真はすぐに見つかった。手のひらサイズの小さな見開きの写真フレームに、私・兄・祖母の写真と、反対側には旅先で撮られた祖父と祖母の写真。

この写真はどのぐらいの間、ここに放置されていたのだろう。
「ほかにも何かいいものないかな・・・」と好奇心が湧いた。

いくつかある戸棚や引き出しをそっと開けてみる。すると、一番下の戸棚に、キャメル色の小さな革製の四角いバッグがあった。今まで見たことがなかったが、その存在感から何か大切なものが入っているような気がした。
バッグの中には、とても小さな黒いカメラが入っていた。まるでおもちゃのようなサイズ感。でもおもちゃにしてはずっしりと重く、精巧な作りに感じた。

祖父はカメラが好きで、よく写真を撮ってくれた。フィルムカメラ、ポラロイドカメラ、たくさん持っていた。特別な行事、お出かけ、家での日常の景色まで、とにかくアルバムにまとめきれないほどの写真が残っている。今思えば、とてもありがたいこと。

ポラロイドを握りしめる兄と私

祖父のものであろう、謎の小さなカメラ。当時は特にカメラに興味がなかった私は、そのカメラをそのままそっと戻し、誰に話すこともなく、すっかり忘れ去っていた。

1年後、再び

時が経ち、2022年6月。周囲でフィルム写真を撮る人がちらほら増えて、何十年も昔のカメラでも、状態がよければじゅうぶんに使えるらしいことを知った。

そしてふと、1年前に見つけたあの小さな黒いカメラのことを思いだした。あれはたぶんフィルムカメラだけど、使えるんだろうか?

父に電話をした。「あのカメラは普通のカメラと違う。普通のフィルムが使えないし、たぶん古くてもう使えないよ」と父は言った。普通のカメラと違う。その意味がよくわからなかったが、とりあえず送ってもらうことにした。

そして、数日後に手元に届いたカメラ。1年前はちらっと覗き見ただけだったが、バッグからすべて取り出して、しっかりと確認してみる。

auto110と残されたフィルム

専用バッグから取り出されたaouto110とレンズ

おもちゃのような小さな黒いカメラは、キズもなくとてもきれいだった。「auto110」「ASAHI PENTAX」と書かれている。
カメラの裏面を見ると、中にフィルムが入れっぱなしになっているようだった。それ以外には、レンズがもう1本。外付けのストロボ。説明書。
そして、見たこともないカートリッジが1本。それを見て「普通じゃない」の意味がわかった。私が知っている35mmフィルムとはまったく形状が違った。

12枚撮りのモノクロフィルムが入ったまま

「こういうときはSNSで聞いてみよう」と直感した私は、その日のうちにTwitterに投稿した。

予想以上に多くの方々がこのカメラの情報を教えてくれて、SNSのすごさをあらためて知った。カメラのこと、電池のこと、110フィルムのこと、現像のこと。110フィルムはまだ入手できることがわかり、現像してくれるお店もある。電池を交換すれば使えるかもしれない、ということもわかった。

そして、カメラに入っていた12枚撮りのモノクロフィルムと、一緒に保管されていた24枚撮りのカラーフィルム。祖父が撮ったのだろうけど、いつ何を撮ったものなのか、写真はちゃんと残っているのだろうか。

カメラとともに保管されていた110フィルム

とにかくまずはこれを現像したいと思った、いや、現像しなければ。40年近く前にあの家を去り、その10年後に他界した祖父が残したカメラとフィルム。誰も知らずに忘れ去られていたカメラとフィルムを、私が見つけてしまったんだから。

つづく




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