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人生を彩るQuartette(カルテット)

2023年7月5日〜9日、茅場町のJCA Galleryにてグループ写真展が開催された。これまでの写真展よりも大規模で、参加するコミュニティのメンバーと、記念になる写真展となった。

これまでも何度かグループ写真展には出展してきたが、わたしはいつも、あまりやる気がなかったほうだと思う。初めて出展したときのわくわくも、毎月にように続けて出展するうちに、「ああ、もう準備しなきゃ」「今回はどうしよう」と、少しだけ義務感のようになってきている自分に気づいた。そして、そんなふうに細々と出展しながら、いろいろな方の個展を訪れるうちに、はっきりとわかったのは、わたしには「作品を創る」とか「観てほしい」という意欲があまりないこと。詳しくはこちらの記事で触れている。

いつも写真を出展するときは、〆切がギリギリまで近づいたところで、なんとか写真を選び、主催者の方のお店に額縁を持って駆け込み印刷、というのがお決まりのパターン。ちょっとレタッチしてもらい、紙の選定もお任せ。キャプションも一緒に印刷してもらって、パネルに貼ってもらって出来上がり。何もわからなかった頃はそれでよかったかもしれないが、そろそろ自分ですべてやってもいいんじゃないか。

一緒に出展するメンバーさんのなかには、イメージした写真が撮れるまで何度も何度もチャレンジしたり、撮りたい景色を求めて遠方まで足を運んだり、最高の仕上がりを目指してプリントを試行錯誤したり。まわりのみなさんの真剣な姿に、わたしはちょっと申し訳なさを感じるようになった。そのため、ここ最近はあまり写真展に出展していなかった。

今回の写真展も、企画がオープンになってから、すぐには申し込まなかった。ちゃんと真剣に取り組めるのだろうか。お付き合いとかやっつけで出展するぐらいなら、出さないほうがいい。数週間ほど悩んだが、やはり今回はコミュニティが設立してから1年という記念の写真展。ちゃんとやろう!と心に決めてから、やっと申し込んだ。

そんなわけで、初めて「作品づくり」というプロセスで今回は挑んだ。コンセプトを決める。撮りたいイメージを固める。そのイメージを目指して、何度もシャッターを切る。そんな当たり前のことを、わたしは今までやったことがなかった。

テーマは自由。とにかく好きなものを撮りたいと思った。真剣に向き合って、何度でも撮りたいもの。現実的に無理なく撮れるもの。「猫とピアノ」にしようとすぐに決めた。それぞれ大好きで、セットになったイメージも好きだった。

印刷も、ポイッと額装プランを卒業して、しっかり自分で選ぼうと決めた。初めてキャンバスプリントを試してみた。キャンバスの風合いが、モノクロの猫の写真と予想以上にマッチしていて、このまま部屋に飾りたいと思えた。自分の作品を好きと思えたのは、以前出展したフィルム写真以来だったと思う。

猫、ピアノ、そしてカメラ。それぞれわたしにとってどんな存在だろう。

カメラは、外の世界の美しさを教えてくれるもの。カメラを通して知らなかった景色に出会う。いろいろな場所に連れて行ってくれる。たくさんの人と出会わせてくれる。わたしにとって、外の世界とのつながり。

ピアノは、自分の内面に向き合わせてくれるもの。ピアノを弾いているとき、脳はとても活発に動いているが、その奥に自由な思考空間みたいなものが広がる。昔の記憶を思い出したり、最近の出来事を振り返ったり。思考と心が旅をする。わたしにとって、内なる自分とのつながり。

猫は、無条件で愛しいもの。彼をどうこうしようとか、言うことをきいてもらおうとか、まったく思わない。ただ、いてくれるだけでいい。生きているだけで尊い。しあわせ。みんなが人に対してもこんなふうに思えたら、きっと世の中は平和だろうと思う。わたしにとって、愛のかたまり。

それから、こうして作品を観たり、キャプションを読んだりしてくれる人のことを考えた。いろいろなきっかけで、こうして観てもらうことができたのは、当たり前のことじゃない。今これを読んでくれている、あなたもそうです。ありがとうございます。

カメラ、ピアノ、猫、あなた。大切なものが4つ並んだ。わたしを取り巻く、しあわせを構成してくれるものたち。それが頭の中で、音楽が流れるようにつながった。「4」という数字と、ピアノから連想される音楽のイメージ。

「四重奏」という言葉が浮かんだ。わたしはブラームスの「弦楽四重奏」が大好きでよく聴く。それぞれの音が重なって、より深く豊かな音色が調和する四重奏。大切なものに囲まれて、しあわせの相乗効果が起こるような、今回の作品のイメージに重なった。

こうして、タイトルはすぐに決まった。「四重奏」だとちょっと見た目の印象が重いので、表記は「Quartette(カルテット)」にした。

生きていくうえで、生命を維持するために必要不可欠なものがある。食べ物とか、睡眠とか、身体の健康とか。猫もピアノもカメラもあなたも、なくてもきっと、わたしは生命としては生きてはいける。でも、それだと味気なくてつまらないと思う。

人生には、彩りがあったほうがいい。自由な感性を持って、心が喜ぶ瞬間を大切にする。そして、感謝の気持ちを忘れない。当たり前なことなんて、なにひとつないのだから。我が家の猫は、今日もしあわせそうに眠っている。

追記:写真展から数日後、大好きな人からDMをもらった。なつこさんの作品が一番好きだった、と言ってくれた。観てほしい、伝えたいなんて強く思っていなくても、観てくれて、受け取ってくれる人がちゃんといる。なんてありがたいことなんだろう。それだけで、じゅうぶん。

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