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展覧会「ルーヴル美術館展」@国立新美術館〜太陽王は魔女アルミ―ダの恋物語がお好き♡

3月3日、「ルーヴル美術館展 愛を描く」(国立新美術館)に行きました。
夜間開館を利用して鑑賞しました。会期がはじまったばかりで、お客さんは少なめ。おかげで作品が他の方々にさえぎられることがほとんどなく、ストレスのない状態で観られました。
 
ルーヴル美術館のコレクションは、太陽王ルイ14世(在位1643年−1715年)の美術コレクションを礎にしています。
絶対王政の全盛期を築いたルイ14世は、国王の権力を誇示するため、優れた美術品を収集しました。即位した時点で数十点だった絵画コレクションは、王が収集に励んだことによって2,500点に達したといいます。
そしてルイ14世がヴェルサイユ宮殿に居を移すことにした結果、王宮であったルーヴル宮殿は、1692年以降王室の膨大な美術品を展示する場となり、現在のルーヴル美術館へとつながっていきました。
 

ルーヴル美術館

本展は、そんな歴史をもつルーヴルのコレクションから、「愛を描く」という切り口で選ばれた作品群を展覧しています。
 
この切り口、好きです!多くの人が親しみやすいと感じているのではないかと思います。
このような明快なテーマがあると、展示全体にストーリー性がもたらされ、有名か否かに関係なく一つひとつの作品がより興味深く楽しめるような気がします。
古代ギリシアとキリスト教が西洋文化の源流である点を押さえているところ、神・教会中心の価値観から人間中心の時代へ……と移っていく大きな流れに沿って展開しているところも、私的にはポイント高いです!
 
さて、私が出品作品で気になった題材は、魔女アルミ―ダ(仏語でアルミード。以下、アルミード)の物語です。

アルミードはイタリア・ルネサンス期最大の叙事詩人、タッソ(1544年−95年)の叙事詩『エルサレム解放』に登場、魔力や妖術を使って男性を誘惑します。本展にはアルミードにまつわる絵画が2点展示されていました。
 

ドメニキーノ《リナルドとアルミ―ダ》1617年-21年頃
仏語だとリナルドはルノー、アルミ―ダはアルミードです!
Tokyo Art Beat HPより引用
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/louvre_love_news_20231215(2023年4月7日閲覧)


遡って2022年12月9日、私はジャン=バティスト・リュリ(1632年−87年)作曲のオペラ『アルミード』(北とぴあ)を鑑賞しました。

アルミードはリュリが完成させた最後の、そして最高傑作のオペラです。フランス・バロック・オペラの最高峰と評されています。その日本初の全編本格上演でした。
 

オペラ『アルミード』(北とぴあ)チラシ
同チラシ裏面
表裏とも北区文化振興財団「北とぴあ国際音楽祭2022」HPより引用
https://kitabunka.or.jp/himf/9624/(2023年4月7日閲覧)

『アルミードあらすじ
美しい魔女アルミードは、敵国の勇者ルノー(伊語でリナルド)を殺そうとしてもどうしても殺すことができず、彼を愛していることに気付きます。アルミードはルノーに魔法をかけ、自身の宮殿へ連れていきます。そして魔法のおかげで念願かなって彼に愛され、真実の愛ではないと知りながらも、悦楽にひたる日々を過ごします。しかし、アルミードの留守中にやってきた昔の仲間たちによって魔法を解かれたルノーは、我に帰り、彼女のもとを去っていきます。残されたアルミードは苦悩の末、ルノーへの復讐を誓って宮殿を飛び去るのでした。


リュリはルイ14世の寵愛を最も受けた宮廷音楽家
です。
イタリアの貧しい粉屋に生まれたリュリはパリに移り、1652年頃からルイ14世の宮廷に仕えました。やがて作曲家として認められ、61年に王室の楽団総監督に就任、宮廷音楽家としての地位を上りつめます。72年にはフランス・オペラの独占的上演権をもつ王立音楽アカデミーを手中に収め、王の側近として権力を振るいました。
 
ルイ14世の絶対王政下において、オペラの主題を決めていたのは国王ルイ14世だったといいますから、驚きます。王はオペラ創作のあらゆる段階に関与し続けたそうです。リハーサルに立ち会うこともあって、それは一種の宮廷行事になっていたとも。
 
アルミードが開幕して驚いたのが、最初のプロローグでした。魔女アルミードの物語と全く無関係な内容が繰り広げられたのです。
大勢の合唱隊やダンサーが登場、ルイ14世を素晴らしいと褒め称え、華やかなパフォーマンスで称賛と感謝を表現しました。王のおかげで上演できるわけですから、そうする気持ちはわからなくもありません。が、どうにもご機嫌取りに見えてしまいます。ともあれ、本作が間違いなくルイ14世の面前で上演された演目だということが実感されました。

なお、このオペラは、バレエ好きだったルイ14世の好みをしっかり取り入れています。ただしバレエといっても、今日私たちがイメージするバレエとは少し異なって見えました。どちらかと言えばフォークダンスに近いような……。検索してみると、どうやら「バロックダンス」とも呼ばれているようです。

ルイ14世の肖像画(左)と『夜のバレエ』でアポロ(太陽)を踊ったルイ14世
光藍社HPより引用
https://www.koransha.com/contents/402/(2023年4月7日閲覧)


ついでに言うと、オーケストラは古楽器で編成されているようでした。(オーケストラピットは設けられず、舞台の後方に陣取っていました。指揮者もいませんでした。)今の管弦楽とは違う、どこか温かみを帯びくぐもったような独特の音色と雰囲気はオルゴールを彷彿させます。本公演は古楽の研究に基づいて創られ、キャストも古楽を研究しているオペラ歌手が加わっていました。従って17〜18世紀当時の楽団もこれに近いものだったかと思われます。
 
……話がずいぶんと横道にそれてしまいました(汗)。
 
『アルミード』は 1686年2月の初演で大成功を収めました。その後も1696年、97年、1703年、13年、14年、24年、46年、47年、61年、64年に再演されたとのこと。この頻度から、ルイ14世がいかに気に入っていたかがうかがわれます。
 
以上のように、魔女アルミードの悲恋は、ルイ14世にとって大層馴染み深い物語でした。大好きだったと言って過言ではない、かと。
ルイ14世の、すなわちルーヴルの絵画コレクションにそれを描いた作品があるのは当然でしょう。恐らく当時の画家たちはよく描いたのでないかと想像します。今回出品されたのは2点でしたが、もっとたくさんあるに違いありませんし、もう少し展示してもよかったのではないかと感じました。
 
私たち日本人と欧米の人々は、異なる文化的背景をもちます。私も神話には馴染みが薄く、解説パネル・キャプションを読んで「ふ~ん、そうなんだぁ」と受け止めることがほとんどです。今回たまたまアルミード(とルノー)を知っていたものの、それ以外に関しては、もっと詳しければより深く楽しめたのではないかと思うことしきり。
 
本展を観て、自分の引き出しをもっと増やしたいと思いました。興味の赴くままに楽しみながら!



……以上、いっぱい寄り道して長文になってしまいました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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