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「わたしはアナタの視線から、生まれてきた」

 この度、尊敬する友人であり、女優のサヘル・ローズさんと写真詩集を刊行しました。サヘルさんの詩と、私の写真で作り上げた『あなたと、わたし』(日本写真企画)。

 さっちゃんと初めて出会ったのは福岡、高校生向けの講演の場でした。8歳でイランから来日し、熾烈ないじめや、貧困の中で生きた日々を、率直に、真っすぐに語る姿に、高校生たちが自然と引き込まれていくのを会場の空気と共に感じていました。

 児童養護施設から彼女を引き取ってくれたお母さんと日本へやってきたものの、誰も頼れない環境で一時路上生活に追い込まれたこと、外国出身者への偏見も重なり、学校の階段から突き落とされたり、やっとの思いで買った薔薇の花を目の前で踏まれたこと。「疲れた、もう死のう」と思った日のこと。

 そんな真っ暗闇のような日々にも、一筋、また一筋と光がさしていったといいます。「大丈夫?」と声をかけてくれた給食のお母さんや、背中を押してくれた最寄り駅の駅員さんの存在によって。

 彼女は決して「だからあなたも、乗り越えるべきだ」と自分の体験談を押し付けない。「だから、大丈夫だよ」とまず、子どもたち自身が抱える複雑な感情を肯定し、抱きしめる。

 そんなさっちゃんの言葉の、温もり、陰り、その深みに惹かれ、一緒にそれを形にできたら、というのが私の夢でもありました。抱いている闇さえも愛せる人だからこそ、放てる光があるのだと、彼女の言葉は私に教えてくれます。

 背表紙に抜粋させてもらった、「わたしはアナタの視線から、生まれてきた」という言葉は、サヘルさんの命を引き受けたお母さんのことを思っての言葉なのだそう。引き取られる前、施設で暮らしているとき、誰にも自分を見てもらえなかった。学校でいじめられているとき、クラスメイトから無視されていた。こうして誰の視界にも入れないとき、まるで自分がこの世界に存在していないかのような感覚に陥ってしまう。だからお母さんに見つめられて、「あたなと、わたし」という関係を結び、初めて「私はここにいる」と透明ではない存在になれたのだそう。

 表紙の写真を決めるとき、「最近、本と目が合わない」とさっちゃんが語った言葉が、写真選びの軸となっていきました。真正面から見つめ、見つめ返す距離を意識して。

『あなたと、わたし』刊行前、本には掲載しきれなかった詩を特設サイトに毎日一編ずつ載せてきました。こちらもぜひぜひ、ご覧下さい。

さっちゃんのこれまでの歩みを知りたい方はぜひ、インタビューを読んでみて下さい。


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