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見知らぬ誰かとつながる手紙 ~水曜日郵便局~

赤崎水曜日郵便局の様子(写真:森賢一)

1. 水曜日郵便局とは

水曜日郵便局を知っていますか?

郵便局、といっても
日本郵政株式会社のことではありません。

自分の水曜日の物語をつづり、ポストに投函すると、
誰かの水曜日の物語が返ってくる、
というちょっと不思議なアートプロジェクトです。

(写真:森賢一)

宮城県東松島市宮戸島。今は使われていない旧鮫ヶ浦漁港に、水曜日だけ開局する不思議な郵便局があります。
自分の水曜日の物語を綴り、その郵便局に宛てて手紙を投函してください。
しばらくすると、見知らぬ誰かの水曜日の物語が返ってきます。

公式サイト https://samegaura-wed-post.p3.org/

2. プロジェクトが生まれるまで

元々は、2013年6月に熊本県津奈木町のつなぎ美術館主導で、
閉校した旧赤崎小学校を利用して「赤崎水曜日郵便局」が開設されたこと。
2016年3月までの2年9ヶ月間で国内外から約1万通の手紙が寄せられました。

閉局後、多くの再開局の要望があり、プロジェクトの発案者である映画監督の遠山昇司さんが新たな開催地を求めて全国を巡り、宮城県東松島市宮戸島の使われなくなった旧鮫ヶ浦漁港を次の開催地として選んだそうです。

行き交うのは、無数の小さな水曜日の物語です。
決して大きな物語にかき消されてはいけない、ささやかな、しかし生き生きとした小さな私たちの物語。

鮫ヶ浦水曜日郵便局は、そんな小さな声を交換するためのプラットフォームなのです。

公式サイト https://samegaura-wed-post.p3.org/


3. 現在は閉局 知ったきっかけは小説

この不思議で素敵な取り組みについて、
『水曜日の手紙』(森沢 明夫さん)
という小説を偶然手にして知りました。

(水曜日郵便局をテーマにした小説。
登場人物たちが、手紙のやりとりでつながり、
影響しあうお話。でとても面白かったです。)

残念ながら、この水曜日郵便局は
2018年12月に閉局しているそう。


では、
なぜ今更このプロジェクトを紹介するの?

それは、
誰にでも物語があって、
そのパワーってやっぱりすごい!
と思ったからです。

4. 全国から集まった5,664通の手紙

プロジェクト開催地であった宮城県を筆頭に、
47都道府県から 手紙が届き、
4 歳から100 歳 9ヶ月までの幅広い年代が参加。
届いた手紙の総数は、5664通にもなりました。

集まった手紙は、
個人情報を伏せた上で無作為に交換し転送されました。

例えば、
ー 結婚して名字が変わるので、その前に使っておきたかった。
ー 思い出のカフェが閉店してしまって寂しい。

知り合いに出すのもなんだか気恥ずかしい話。
家族や友人にも言えない話、言わないでいい話。

見知らぬ誰かに向けて、自分の物語を書く

手紙の中から住民が数通を選んで、
毎週水曜日にラジオNIKKEIで全国に配信されていました。
公式ブログでは、手紙が多数掲載されており、
そのうちの2つを紹介します。
(今もアクセスできます!)

お手紙① 筆名:なし  年齢:31  都道府県:沖縄

赤崎水曜日郵便局の存在を教えてくれたのは、あの人でした。
あの人と私は何年も文通をしていました。
私はその間、いくつか恋をしたり、失恋したり、また恋をしたりしました。たわいもない日常のことや、恋愛のことを手紙につづっていました。
そんなあの人は、私の心の支えになっていました。

いつしか手紙のやりとりをする回数は減ったものの、たまの手紙はすごく嬉しかったです。
私はあの人に恋をすることはなかったけど、とても大事な心の引き出しの中にいて、辛い時にそっと取り出すような、そんな存在でした。

あの人から突然「結婚しました」とメッセージが来たのもちょうど水曜日でした。
出張先の宮古島でとても驚いたこと。
そして予想以上にさびしくなったことを覚えています。
結婚の報告を受け、赤崎水曜日郵便局の存在を知ってから手紙を書こう、書こうと思っていたのだけれど、気がつけば1ヶ月経ってしまいました。

私は今、恋人がいます。恋人はお出かけ中。
あと一時間もすれば帰ってきます。
それまでにポストに入れなきゃ。

「ありがとう。そして結婚おめでとうございます」
あの人に届くといいな。

2014年12月17日(水)

https://akasaki-wed-post.blogspot.com/2014/

お手紙② 筆名:なし  年齢:なし  都道府県:なし

拝啓

インターネットで水曜日の郵便局を知りお手紙を出しています。
この手紙が私の知らない所へ飛んで行って、どんな人の手に取られるのか、少し怖いような、フフフと笑ってしまうような…。
今週の水曜日、奈良の郊外にある般若寺へハイキングに行きました。
寺の縁起は飛鳥時代にさか登りますが鎌倉時代に再建されたお寺で楼門は国宝です。
十三重石宝塔も重文ですが、それが住宅街の中に何に守られる訳でもなく有るのです。
奈良には、いたる所に国宝級のものが有り枠も柵もなく手で触れられる物がいっぱい有ります。
その寺は花の寺と云われ秋はコスモスで有名ですが冬は水仙です。
石仏ととても良く似合いました。
夜は奈良市にもどり瑠璃絵というイベントを見に行きました。
大仏様のお顔が窓から拝めるようになっていたり、一面青いイルミネーションで天の川のようになっていたりでステキでした。
そして、いっしょに行ったお友達は…。
五十年ぶりに奇跡のような再会をした初恋の人です。
どちらも70才と71歳になっています。
違う人生を歩んで来てお互い大人としての分別は有りますが、時を越えて、なつかしい思いで「介護だよ」とか云って手を繋いでくれると温かな気持ちになって、心は歳を取らないのだと知りました。
まだ厳しい冬の風も気持ち良く本当にうれしい一日でした。
私の親友にも云わない冬の一日のお話でした。
かしこ

https://akasaki-wed-post.blogspot.com/2014/04/

見知らぬ誰か宛て、だからこそ、
思ったことを書けることがあるのかも、と感じました。

5. おわりに ~どんな人にも物語がある~

さきほどご紹介した2つの手紙は
どちらも2014年に書かれていたものです。

私が感じたことは、
10年前の文章でも、
こんなに心が動くんだ
ということ。

そして
誰であれ、一人ひとりに物語があって、
そのパワーってすごいなぁ

ということです。

ワカメ・昆布の養殖をしていたけど、
東日本大震災で店が流されてしまった人。
乳がんの化学療法中の人。
生きざまが垣間見える、
そんな手紙もありました。

わたしたちが
今生きている毎日は、
かけがえのない時間。
そんなことを感じさせてくれた
素敵なプロジェクトでした。


#人生 #note #エッセイ #小説 #幸せ


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