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#21 黒髪清楚と不良と私

風の丘ガーデンでの研修21日目。
今日は所用があって午後休を頂いたため、勤務時間は午前だけ。マリーゴールドの出荷作業のみとなった。

ハウスを覗くと、ほぼ全てのカーネーションの蕾が破れ、色を確認できるようになった。ここから1週間が出荷に向けた最終段階。来週はきっと、ハウスの中はカーネーションの楽園と化していることだろう。

一面に広がるカーネーション


さて、今回は「黒髪清楚と不良と私」というタイトルを掲げた。ここから記すのは、花の研修とは全く関係ない、個人的な恨みと悲しみとやるせなさである。ただし、誰しも、特に男であれば共感してくれると期待して記したい。

以下、想像してほしい。

昔、気になっていた女の子。
綺麗な顔立ち、細身のスタイル、艶やかな黒髪が印象的な清楚系美少女だ。

数年の時が過ぎ、彼女と再会することができた。
相変わらず美人なままだ。すると、あまり知りたくなかった事実を知る。

子供がいるらしい。

そっかあ、、もうお母さんなのかあ、、、
と、彼女と仲睦まじい夫婦になるという世界線は実現不可能なことを知る。歯痒い気持ちを抑えながら会話を続けていると、衝撃の事実を知る。

「夫はもういない。帰ってこないの」

なんということだ。
こんなに綺麗な女性と、そして、きっと可愛いであろう子供たちと家族になる権利を自ら放棄する不届き者がこの世に存在するのか。
聞けば、子供がまだ幼いため、仕事も満足にできないそうだ。ご飯も満足に食べられていないらしい。そんなピンチは放っておけない。独身貴族の私に任せなさい、と言わんばかりに、彼女を助ける毎日が始まった。

彼女を助ける日々は充実感に満ちていた。
美味しいご飯を奢ってあげるととても嬉しいそうに笑ってくれる。甘えた表情を見せられれば悶絶する以外の受け止め方を知らない。私は度々、喜んで右手を財布の入ったポケットに伸ばしていた。

そんな幸せな日々を過ごしていたある日、
彼女の家の近くで不良を見た。
世界の全てを睨みつけるような悪い目つき。
太った身体。髪のダメージが目立つ茶髪の髪。
ふてぶてしい見た目をしていた。

なんでこんなところにこんな不良が…と思った矢先である。
男の直感というべきだろうか。
この不良が、彼女の夫であり子供たちの父親だと思わずにはいられなくなったのだ。
子供たちを見せてもらったとき、母親ではない誰かの面影を感じた。その面影が、この不良にはあるのである。

間違いない。こいつが子供たちの父親だ。

見た目に反して実は家事に積極的とか子供好きとか、そういったギャップ補正は全て受け付けない。
きっと、ギャンブル狂でタバコ好きで酒乱持ちに違いない。
今日は無くなったお金を彼女からせびりに来たに違いない。

こんな男がタイプだったか…。

自分が全く違うタイプであることが悲しく思えてくる。
後日、彼女に聞いてみたところ、やはり事実だった。
「根は良い人なの!!」とか、
「なんだかんだで好きなんだよね」とか、
「この子たちの父親はあの人なの!!」とか、
聞きたくない言葉の羅列に気が狂いそうになる。

それでも、
「優しいよね」とか、
「いつもありがとう」とか、
「頼りにしてる」とか、
耳心地の良い言葉の羅列に気が惑わされてしまう。

そして、今日も満面の笑みで彼女を支援してしまうのだった。

以上、妄想。


先週の金曜日、ハウスの中に1匹の猫がいた。
いつも目にする黒猫ではない、薄茶色と白の猫。
眼光が鋭く、野良猫とは思えない太った身体。ふてぶてしい見た目をしていた。

すると、ふと記憶が蘇った。
子猫の姿である。
若干薄茶色の毛が生えていたように思えた。母親は黒猫なのにである。きっと父猫の遺伝子かな?と呑気に考えたりしていたのだが、あの猫が父親だとするとなんとも悲しい気分になってしまう。そして、上記のような妄想が止まらなくなってしまった。

私は、ただの都合の良い男だ。

そんな悲壮感に浸っていながら、今日も餌を準備していた。
すると、クロがやってきた。
可愛いなあ…と思っていた矢先、物凄いスピードで私の視界から消えた。どうしたんだろう?と思ってクロを覗き込んでみると、口の中にトカゲがいた。ちなみにまだ生きている。

必死に抵抗するトカゲ。
切れた尻尾は本体以上に暴れている。

「バキッ、ボキッ、ボキボキボキ、、、」

クロはその華奢な体からは想像つかない顎の強さでトカゲを食いちぎる。そして、骨を取り除く気配もなく、頭も体も全て顎で破壊していた。

そして綺麗さっぱりトカゲを1匹完食した。

ホームセンターで餌を選んでいた記憶が蘇る。
「出産後であまり体力が無いだろうから食べやすい餌にしよう!」
「お腹を壊しちゃいけないから消化に良さそうな餌にしよう!」

そんな私の気遣いを「ただの過保護」と認定するようなトカゲの食べっぷり。

黒髪清楚系美女と思っていた猫は、実はワイルド美女だった。

トカゲを全て食べ切った後、いつものように甘い声で餌を求めてくる。お触りもOKだ。
しかし、これだけ逞しいのだったら、そりゃ強そうな雄が好きだよなと思った。あのふてぶてしい猫、確かに強そうだったもん。だって強くなければ野良猫であんなに太れないし。

失恋とはまた違う、複雑な感情。
とりあえず、過度な心配と妄想は不要だということが分かった。

あたい、弱くねえから







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