私は台詞が読めない

まずは、私と妹の会話から。

「この漫画、ちょっと前にアニメやってなかった?」
「うん、アニメも見たんだけどねー」
「けど?」
「思ってたのと違ったんだよなあ」
「……“思ってたの”って?」
「漫画読んでる時に想像してた声」
「漫画読む時に、キャラクターの声を想像するの?」
「え、しないの?」
「……どうだろう?」

ちょっと考えてみたところで、はたと気づきました。私は、本や漫画を読んでいる時に、登場人物の台詞を、頭の中で音声として再生していない。もちろんオノマトペも同じです。おそらく、文字として読んで、そのまま視覚的な情報として処理しているのです。
だから、漫画でしか読んでいなかった作品を、映像で見た時に、キャラクターの声に違和感を覚えることはありません。むしろ、そのキャラの声を初めて聞くわけですから、「ああ、この子はこんな声だったんだなー」と、ただただ納得してしまうのです。


そしてこれは、演劇の台本でも同じで。

以前、縁あって、演劇の稽古場で、役者さんたちの読み合わせに立ち会う機会がありました。(※読み合わせ:演劇の稽古のひとつ。役者が、台本に書かれている台詞を声に出して読む)
たった今もらった台本を、その場で読んでいくのです。私からすると、信じ難い行為。そんなことができるのか……。

私も台本をいただいたのですが、やはり「文字」にしか見えません。自分の声を通したとしても、それは正真正銘の「棒読み」になってしまい、「文字」の域を出ないでしょう。もちろん、その台本に描かれた会話の内容から、楽しいシーンか苦しいシーンかは推測できますが、「声」としては全く想像もつきません。

全員がざっと台本に目を通し終わったようで、いよいよ読み合わせが始まります。私は、息を殺してその瞬間を待ちました。


演出家の合図とともに、役者の第一声が空間にはじけました。

するともう、次々に会話が進んでいきます。すべて「声」です。私が「文字」として見ている言葉が、完全に別のものに姿を変えているのです。手元にある台本に、黒いインクで印刷された記号(文字)。それが、音になって聞こえてきます。

ああ、不思議だ。会話している!

演出家が、会話のテンポやテンションについて指示を出すと、その会話はさらに色とりどりに変化していきます。



そうか、声だ。
演劇には、「声」があるんだ。

当たり前のことかもしれませんが、そう思いました。



本を読んだり絵を見たり、映画を観たり音楽を聴いたり、音楽に合わせて踊ったり……私が今までに経験したものには、自分から発する「声」を使うものはなかった。歌うのも「声」だけど、決まった旋律とリズムがあるから、またちょっと違う。


そうか、演劇って「声」の世界なんだな。



色とりどりの声




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?