「ことば」の持つ力
ことばの専門リハビリ「言語聴覚士」
病院で勤務している言語聴覚士です。
「特定機能病院」と分類される病院で、最先端医療を提供する総合病院に勤務しています。
言語聴覚士ってなに?って思う方が大半だと思います。
理学療法士や作業療法士、医師や看護師、管理栄養士などその方に合った医療チームを組み、協力しながらリハビリを行っていきます。
職業柄、コミュニケーションや言語などを中心としたリハビリも提供しているため、「ことば」に対して考えることが多いです。
毎日20人近くの患者様のリハビリにあたっている中で、患者様だけではなく、家族様やお見舞いにきた方々とお話をする機会も多いです。
そのお話を聴いている中で、印象に残った言葉やフレーズを考えていきたいと思っています。
病院という患者様や家族様の個人情報をとても大切に扱う場所なので、詳しい背景や個人情報を伏せながら、紹介していきますのでご安心ください。
ただただことばの意味を考えながらお話していきたいです。
この言葉を言われたら、自分はどう思うか
この言葉を言われた人は、どう思うだろうか
この言葉がもつポジティブな意味、ネガティブな意味はなんだろう
前置きが長くなってしまいましたね。
記念すべき第1回です。
今回は「ことばの持つ力」について考えていきたいと思います。
ことばってなんだろう
「わかったら苦労しないし、この記事なんてみないわ!」って私でも思うこのタイトル。
現在26歳、言語聴覚士として働いて約5年。まだまだ答えは見つからずです。
ただ間違いなく言えるのが、
言葉が与える影響は大きい それだけは言えます。
上司や恩師、友だちや家族からの一言で人生を変えるきっかけを手に入れて成功をした人もいます。
逆に、その人に一生の心の傷を与えてしまうこともある。
言葉って、雪解けになることもあれば、ナイフのように刺さってしまう。
本当に奥深く、難しく、正解はない、見えない大きな力をもっている。
それが「言葉」だなと思います。
よく「空気を変える~な言葉〇選!」「会社の適切な言葉」などコラム記事で目にします。
すべてを否定するつもりはなく、もちろんその中で素敵だなと感銘をうける言葉もあります。
しかし、その言葉が全員に刺さるかと言われればそうではなく、かけてほしい言葉や嬉しい言葉はひとりひとり違うと普段の生活で感じます。
ドラマでよく「このセリフめっちゃよかったよね~」なんて友だちと話をするときも、自分にはあまり心に響かなかったセリフだった、よくある話ですよね。
当たり前なことを言ってしまいますが、人には千差万別の性格や価値観があり、その人にとっての「適切な言葉」って人によって違うんです。
「今日からお母さんの代わりだね」
先が長くない母親をベッド横で看取り、幼児の妹をもつ児童がお見舞いに来た方にかけられた言葉です。
お見舞いにこられた方からすると、そこまで深い意味でいったわけではなく、これから先の人生を母親なしで生きていく2人にとってできるだけポジティブな声掛けをしたのでしょう。
その声掛けに対する反応は
「うん、頑張らないとあかんやんね」
その声は震えていて、目には涙をためて、小さな拳を握りしめていました。
児童はこの言葉をかけられて直後から家族とともにお家へ帰るまでの間、妹のお世話をし、1度も涙をみせることはありませんでした。
帰る時に看護師さんにこう聞きました。
「お母さんってどうやったらなれるん?」
まだ小学生でありながら何を思い、このような質問をしたのか。
喪失、後悔、怒り、悲しみ、様々な感情があるでしょう。
「妹のために母親代わりにならないといけない」
「母親代わりになる私が強くならないと」
「お父さんだけじゃなくて私も家事頑張ろう」
その小さいからだが抱えるにはあまりにも大きすぎる葛藤と覚悟があり、お母さんのなり方を聞いたのだと思います。
その言葉がけがあって、その子が母親として生きる覚悟をもって、その人生が幸せだったのかなんて、何十年後の本人でないと分かりません。
途中で母親という役をおりたとしても、その言葉をかけた人はなにも咎めることはないでしょう。
周りが子供らしく生活することを求めるかもしれないですもんね。
ただその子にとって「これからの覚悟」をするには十分すぎる一言だったと思います。
もし、その場にお見舞いで居合わせて、その子供たちに皆さんはなんと声掛けをしますか?
「大変だったね」
「今までお母さんを支えてくれてありがとうね」
もちろん言葉に正解はないです。不正解もないです。
ただ、その人にとっての「適切」と「不適切」はあるんではないでしょうか。
私はそう思います。
私たちは自分の経験と価値観を知らず知らずの間に押し付けていることがあります。
でかけた言葉をのみこみ、深呼吸をしてから、「相手にあった言葉」を選ぶのが大事だと思います。
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