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【詩】「深い春」

あなたと過ごした季節は
僕のこれまでで一番他人を大切に想えた季節

舌足らずなまま
あなたをそっと抱きしめた
そのときの温もりはもう腕には残ってない

時間は無情に流れていき
僕らだけが意味を探してしまう
つかめないものをこの手に留めていたくて
秒針が動くただそのことに名前を付けている

あなたが隠していた不安を取り除きたいと思った
それは思い上がりだっただろう
でも時折見せた横顔の固さが幼い僕に痛かった

どちらからともなく伸ばした手を繋いだ
「あったかいね」と呟いたあなたの
その言葉がまだ心に残っている

景色はゆっくりとぼやけていき
今の僕独りが立ち尽くしている
忘れたくないことばかりを忘れてしまって
僕に残されたのは途切れ途切れの思い出が少し

あなたを想った時間は
僕のこれまでで一番心が震えたかけがえない時間

過ごしていくことでこぼれていく
暮らしていくことでいろあせてく
それでも振り返らずにはいられない

どれだけ時間が流れても
どれだけ景色が変わっても
あなたがこの胸から消えない

あなたの名前と同じ季節がまた巡る
僕は行き場ないそれでも手放せない
想いをもてあましながらも日々を繋いでく

この想いがあったから今の僕になれた
深い春を知ったからこの僕でいるんだ

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