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【詩】「nameless」

あの教会がもうすぐ完成するんだってさ
高校時代に読んだ教科書では
出来上がるまでまだ100年以上かかる、と
書かれていて

僕が生きている間は
完成した姿を見ることはできないんだな
そう思っていたのでビックリした

そういえば
犬や猫の言葉は分からないままだけど
同じ人間の意思の疎通は
機械がだいぶ助けてくれる

技術は進歩しても、ただ学校の時間割は
今もそんなに変わんなくて
英数国が大事みたいだね

単語や公式を必死に詰め込んでも
社会に出りゃ、使うことは少ない
忘れていてもググれば何とかなる

肩に食い込む膨らんだカバンを
引きずるように通学してた昔の僕に
機会があればそう言ってやりたいけど

タイムマシンもいつか完成するのかな
今は途方もない与太話だと思っているから
昔の僕は何も知らないままでいるしかない

やり直せない時間の中
常に全力で生きてきたわけじゃない
目標は不安定でフラフラだった

卒業式の後、担任だった先生が僕に
「お前なら、もっと上に行けたのに」
ため息まじりに声をかけてきた

今なら分かるような気がするよ
先生もその経験を経てきたから
僕の姿に歯痒さを覚えたのだろう

あの時の僕は確か苦笑いで
「みんなみたいに頑張れなかったですね」
そう答えたんだっけ

とり戻せない時間の中
光の中だけを歩いてきたわけじゃない
手探りで進んだ道もある

もう顔も思い出せない恋しかった人
飽きるほどに抱き合ったのに名前は忘れた人
今を生きるために思い出は霧に煙るみたい

会心の出来事も痛恨の出来事も
詳しく語れるほど全てを覚えられやしない
号泣や爆笑をしてきたことだけ覚えてる

名付けることはできないとしても
それなりの経験が僕を僕にした
そして、多分これからも僕であることを重ねてく

あの異国の教会みたいに堂々と立っていなくて
月極を「げっきょく」と最近まで読んでいたぐらい
母国語の日本語すらあやしいもんだ
近所の犬にはうなり声をあげられたりして
ちっとも華々しくない地味な日々

やり直せない時間の中
とり戻せない時間の中
右往左往しながら
一喜一憂しながら

何とか生きている
そのことに歯痒さを感じないと言えば
嘘になるだろうな

すれ違う人々にとっては
盛り上がりも教訓もない
名もなき物語に過ぎない

それでも生きている
生まれた時の思い出話を
振り返ってみれば
僕にはいつだって過ぎた幸せ

たとえ目標や夢というものが未完成なまま
この命が終わるとしても
その時まで生きた
それだけで僕にはきっと完成だろう

その時まで生きる
例えば歯痒さや悔しさや恨みつらみや
この身にこの心に渦巻いている
名もなき想いたち全ても含めた
そんな果てにあるはずの
名付けることがまだできないものを
その時まで探し続けていく

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