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容姿のトラウマで恋愛ができない。


醜い自分が容姿に優れたAさんと会ったところで失望されてうまくいくわけがないし、わたしは関東、Aさんは関西に住んでいる。

変に踏み込んで失恋したり、好かれようとまた食事や運動に囚われるのもうんざり。恋愛ごっこで寂しさが埋まれば満足。付き合うとか会うとか現実的なことは避けたかった。

そんな気持ちを知るはずもないAさんに、やきもち妬くこともわがままも許されて、Aさんとの仲が深まるに連れて終わりへの不安が芽生えていた。

この距離感は続かない。

だからこそ少しずつAさんを避け、嫌われるように振る舞い始めた。

3月に入り、社会人生活と同時に一人暮らしが始まるAさんは就職先の研修と新生活の準備に追われて、電話できるタイミングもズレ始めた。

それを理由に理不尽にいじけて、距離を置こうとした。

頭の回転がはやく、口がまわるAさんは淡々とわたしの矛盾や言い訳を指摘して、「はっきり言えよ。」と避けている理由を問い詰めた。

「ブスだから嫌われたいです。」

「なにそれ。意味わかんない。俺からしたら他の男とゲームする言い訳にしか見えないよ。」

「いいよ。わからなくて。」

「もう切りたいの?飽きたの?俺の事。」

「飽きたわけじゃない。どうせ終わるの見えてるしあとで傷つくくらいならって。」

「見えてるってなに?まだ付き合ってもないけど。」

「そうだね。」

「好きっていうくせに会わないのはなに?」

「会っても終わるから会いたくない。」

「会わなかったら始まりすらせんわ。」

この頃、落ち着いていた過食がまた始まって友達と会うことさえ避けていた。外に出ることさえ憂鬱なのに、好きな人に会えるわけがないし、容姿が理由で恋愛できない人生にもうんざりだった。

「俺がいつ嫌いになるって言ったの。」

親友の「なては行動しないし視野が狭いと思う。会えばなにか変わるかもしれないのに会おうともしない。」という言葉を思い出した。

会ったら終わるかもしれない。

けどなにもせず、この距離感でいてもいつかは終わる。

わたし以外の女の子と電話して、わがままを許していたら。

別の子と付き合ったら。

絶対に後悔するし嫉妬する。

言い訳して努力から逃げて人生に絶望する毎日と、大変かもしれないけど好きな人の為に奮起する毎日なら後者の方が輝いている。

1度会おうと気持ちを固め、同時に会いたいけどコンプレックスが強かったことを正直に話した。

自信家で俺様気質なAさんは下手に共感したり優しい言葉をかけるでもなく、終始「だからなに?」「それがなに?」と相槌を打ち、最後に「ちなみに俺、むちむちが好きだから。」と自慢気に言った。

「でた。男性のいうむちむちは細いからね?」

「いや俺のむちむち好きは本物だから。」

「いいってそういうの。」

話しの方向性がむちむちの許容範囲に代わり、Aさんは「これが俺の好み」とどこからか画像を引っ張りだしてきた。

「本気で言ってるの!?」

「安産型が好きなんだよ。」

Aさんのいうむちむちは世の中の男性が大きく勘違いしているそれとは確かにかけ離れていた。

身長180センチ、顔はもちろん指まで綺麗な今どきのいけめんは、すらりと細くて自慢できるような女の子しか相手にしないと偏見を持っていた。

「かっこいいんだから、綺麗な子と歩きたくないの?」

「思わねーよ。どうでもいいわ。むちむちと並んでるほうがえろいやろ。」

骨格ウェーブ、安産型、全ての肉は下半身につく。

恨みに恨んだ自分の体質に少しでも安心したのは初めてだった。

それでもやっぱり猶予は欲しい。

Aさんは休みに合わせて会いに行くと言うけれど、可能な限り延期して、気休め程しか変わらなくてもできる努力をしたかった。

1ヶ月後、関西で試合がある。

「5月のこの日は?」

提案すると、かなり不規則なAさんのシフトともぴったりだった。

「よかった。なてちゃんは会いたい気持ちないと思ってた。」

いつもは自信しかないAさんの弱々しく、けど安堵した声を聞いてこれでよかったと思えた。

どうなるかわからない。がっかりして振られる可能性も十分ある。

でも、不安と戦うのは長い人生のうち1ヶ月。

1ヶ月さえ乗り越えたその先に可能性があるなら、賭けたいと思った。


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