めんへらって他人軸でチョロい。
実家の押し入れに眠ったはずのps5が今一人暮らしのアパートにある。
お正月休み実家に帰省するもアラサーを迎えた今、友達は家庭を持ち捕まらず、サッカーはオフシーズン。
ベットだけ残された殺風景な部屋で目をつけたのがPS5。
懐かしさを感じながら、当時遊んだFPSを立ち上げると思いのほか楽しくて、数時間後には当時のようにSNS仲間を募集し遊んでいた。
たかがゲーム。それでも募集で出会う人はみんな楽しく、繋がりもでき、お正月で終わるには名残惜しくなりアパートへ持ち帰った。
以前のような熱が戻ったわけではない。
ひとりで家にいる時間が苦手な自分にとって、ゲームを通して気軽に誰かと会話できる環境がありがたかった。
2月のはじめに出会った6つ下の男の子Aさんとは、ゲームをしなくても毎日電話をする仲になった。
Aさんはプライドが高く、俺様気質の自信家でかなり論理的。
自己肯定感が低く、共感性が高く、感情論で生きてきた自分とは真反対。ほかの惑星から生まれたのかと思うほど対極だった。
お世辞にも気が合うとは言えないAさんと出会ったとき、ゲーム復帰したことで元カレと再び連絡を取り、切れずにいることを漏らした。
「さっさと切れよしょうもない。」
「切るよあとで。」
「あとで切るわけないやろ。俺が聞いてるうちに消せよ。」
ため息交じりに真っ当な意見をぶつけられ、勢いのまま2年越しに元カレを消すことができた。
「なてさんってチョロそうだよね。」「だめな男好きになって”だっていいとこあるから”って切れずにいそう。」
知り合って日も浅いうちから痛いところを突かれ、反論したくても否定できないところをからかわれていた。
大学生最後の夏休みでひまを持て余したAさんとは、初めこそゲームをしていたけれど、彼が卒業課題に追われる数日間はただただ電話を繋げていた。
どちらかが寝てしまうこともあって、自然と毎日電話したまま寝ることが習慣になった。
Aさんはいわゆる”めんへら製造機”だった。(アラサーにもなって「めんへら」という単語は避けたいけれど伝わりやすい。)
めんへらに好かれる人間にも色々あると思う。
ありきたりなのは優しく、肯定するタイプ。
自己肯定感が低く愛情不足の人間に、存在を認め、努力を認め、ひたすらに優しく愛情を注げば気持ちが傾くのはそう難しくないことだ。自分もこれまでこのタイプで痛い目をみた。
もうひとつ。
決断力があり意思決定能力を奪う、悪い方へ行けばモラハラになるタイプ。
意思が弱い人間にとって、判断能力がありリーダー気質、カリスマ性がある人間は魅力的に感じる。ましてやそんな真逆の性質を持つ異性に可愛がられたり必要とされれば、無意識のうちに依存しその人が離れたときには空っぽになってしまう。
どちらのタイプにせよ、極度に自信の無い人間は他人軸で生きている。
他人からの評価、他人からの愛、他人から向けられた言葉が自分を作っている。
Aさんは後者のめんへら製造機だった。
持ち前の器用さで、こちらが嫉妬や寂しさで八つ当たりしたときの対応はやけに手慣れて、面倒臭がるどころかいくらでも話し合いに付き合う。
こちらが「もういい」と女特有の言い逃げをみせでもすれば理論詰めして、最後は必ず「ごめんなさい」と言わせる。
ゲーム関連のイベントにAさんがフォロワーの女の子と2人で行ったことがある。
それを聞いたときは彼女でもないのに「さいてー。」とだけ返した。
実際いい気はしなかったけど、本気で惚れている訳ではなく”お気に入り”。寂しさを埋める恋愛ごっこに近かった。
「なてちゃん誘っても来てくれないでしょ。来るならなてちゃんと行ったよ。」
「イベントだけ見て帰ってくるからその日の夜には電話できるよ。」
大人げなく拗ねるわたしにAさん言い続けた。
当日。AさんはSNSにリアルタイムでその様子を載せ、イベント後も解散どころか新たに1組の男女と合流して飲み歩き、宿泊した。
書いた通り、Aさんとは恋人でもないからショックで泣いたり、怒りの連絡を入れたりはしなかった。
ただ”気があるフリしてたくせに”と嫌悪感のような熱が冷めるような感情になった。
Aさんからは連絡がきていたし、翌日の帰宅直後もまた連絡があったけれど、他の女と一晩過ごした男なんて興味ないやと全て既読無視して過ごしていた。
「ねえ」
「なに」
「拗ねてるやん」
「拗ねてないし」
「なんで無視するの」
「ほかの女とヤッた人とかどうでもいいから」
「まって。ヤッてない」
どっちでもよかったのに、Aさんは弁明と同時に女の子や一緒にいたメンバーとのやり取り、証拠の数々を提示した。
電話口でも事細かに説明され、本人に聞いてもいいと何度も言われ、最後は「もうわかったよ。」と笑ってしまった。
「ごめんなさいは?」
「なんで?」
「俺、悪くないのにここまでされたんだよ。」
「でも泊まってたでしょ。」
「勝手にヤッたと決めつけてずっと無視したでしょ。説明もさせてもらえず。」
「・・・」
「ごめんなさいは?」
6つ下のAさんにわたしはいつも転がされていた。
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