映画感想:『天気の子』は全力で振り切った新海誠オーバードーズ青春現代怪異譚であり、理不尽へ抗う物語だ。(ネタバレあり)
新海誠監督の新作『天気の子』を最速で見てきたので感想を書いていこう。
あといつもどおりのネタバレ全開スタイルでいくので悪しからず。(19/7/21加筆終わり。もう一度見直すといいかも!)
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このぐらい改行すればいいかな?
多分いいと思おう。そうしよう。そうだな……この作品を一言で言うなら……
上級者向け新海誠だ。
前作で大ヒット上映された『君の名は。』は初級者向け新海誠だ。前作見て「君の名は。がよかったので見に来ました〜」というそこのニュービーな諸君、きっと新海誠のオーバードーズで体の節々から血液が流れ出たり滝のように吐くかもしれない。
とりあえず一般向けだとかそーんなのを振り切って「さぁ新海誠だ、喰らえ!!」と叩き付けられるような新海誠である。
多分この作品を見た人ならわかるだろう。まだ見ていない? 情けだ、今すぐUターンして『君の名は。』を見てくるんだ。『天気の子』じゃないぞ。その後で見に行け。
ではお遊びはこの辺にして『天気の子』について語っていこう。
肝心なこと書き忘れていた。分類としては「傑作」に入れておく。心の中で整理したらさらに上がるかもしれないが。
あらすじ
まぁここはざくっと行こう。正直私もあやふやな部分もあったりするのでそこは記憶違いとかで勘弁してもらいたい。
物語は雨の日の病室から始まる。心電図の音と雨音だけが響くその病室で、天野陽菜は廃ビルの屋上に差し込む陽だまりを見つける。病院から出てその廃ビルに赴くと、小さな社が雲の切れ間から陽の光を浴びていた。彼女が「願いながら」その鳥居を潜ると、天空の世界へと誘われていた。
所変わり、家出少年である主人公森嶋帆高は異様な雨に見舞われる東京にやってくる。16歳の家出少年に働く方法もなく彷徨っている中で、拳銃を拾ったり女の子に助けられたり、東京の恐ろしさを痛感しながら、フェリーの中で出会った怪しげな男、須賀圭介とお抱えの美女夏美さんの元で末端のトンデモ記事ライターとして働いていくことになる。そして偶然にも出会った18歳の女の子陽菜と、偶然拾ってしまった拳銃がきっかけで彼らはある秘密を共有しあうことになる。それは陽菜が「祈れば局所的に晴れを呼ぶことができる100%の晴れ女」であるということだ。
帆高と陽菜、そして彼女の弟の凪の3人は雨が降りしきる東京で「晴れを呼ぶ」ことを仕事としていこうと計画し、それが成功する。順調に行っていたものの多忙になったため一旦休業しようと決めた矢先、陽菜の身に異変が起きる。伝承によると古来より「天気の巫女」と呼ばれる存在がいたが、彼らは力を使うとより空と繋がって人柱として消えてしまう運命にある。同時に帆高も銃の所持と発砲により警察からお尋ねの身となり、3人は帰る場所を失ってしまう。そして逃避の果てに陽菜は、帆高から託された指輪だけを残してこつ然と姿を消してしまう。
数カ月ぶりに晴れた青空と残された指輪を見て、陽菜の消失を確信した帆高は彼女を取り戻すことを決意する。警察の追跡を振り切り、雨に沈んだ東京を駆け走りあの廃ビルに辿り着く。最後に待ち構えていた障害をも振り切り、社を越えて陽菜と再会した帆高は彼女を現世へと連れ戻す。三年の保護観察処分を終えた帆高は東京へ戻る。いろいろなものと、三年間一度も会えていなかった彼女と再会するために。
とまぁ意図的にざっくり書くとこんな感じであろう。
ではその魅力を書いていこうね。
魑魅魍魎の東京で青春大暴れ現代怪異譚
はっきり言おう、今作の主人公帆高は滅茶苦茶法を破りまくっている。
銃刀法違反だろ、発砲だろ、公務執行妨害だろ、誘拐……は多分違うか。ええと線路の上も走ったし侵入もしたしいろいろやりまくった。16歳のガキがやるにしてはどえらいことをいろいろやりまくった。
だがな、現代怪異譚を描くならそうじゃなきゃおかしいのである。警察は怪異的やオカルト的なことを一切信じてなどくれないし協力もしてくれない。だから彼らに逆らわなければ事態は一向に好転しないしやらなきゃいけないのである。そもそも帆高が拳銃を持ってしまったのも偶然の成り行きであったし、それを使ってしまったのも止むに止まれぬ事情というものである。
そうしなければいけない以上に東京と警察と大人って怖いところなのだ。それ以上に恐ろしい天という神がいるのにね。帆高君はそれら全部に立ち向かったのである。試練に立ち向かう英雄というのが物語のセオリーだが、そこに官憲まで加わるのが現代なのだ。
帆高君は特段天才的な頭脳や力を持っているわけでもないガキであるが、総合的に見れば目的を果たすためにあらゆる障害を跳ね除けるその意志の力はとてつもないものであった。そんな彼が動くのは何のためか?
陽菜への恋だ。
青っっっっっっっっっっ臭い!!! 青春!!!! バッチコイ!!
ここらへんでもう新海誠のオーバードーズでウボァーとなりそうなとこだが我慢してほしい。とにかく帆高君は、前作の瀧君に負けずとも劣らない主人公っぷりで現代怪異譚という難しい試練に立ち向かったのである。
なんというか、年齢的にはすっごく青臭い!!!!と思ってしまうほどにガキなんだけれど、応援してあげたくなる説得力がある。
結局最後まで彼がなぜ家出したのか具体的には描かれてはいないんだが、物語の肝ではないしブレるから省略したのかもしれないね。
相応の幼さと未熟な大人さが入り混じった一人の少年が、東京という魑魅魍魎の大都市でひとりの少女に恋をして奔走する現代的な英雄譚であり怪異譚だ。
新海誠のフェチ全開
最初この映画見た時にものすごく「細田守」っぽさを感じたのである。
日常に並列する非日常、ゴミゴミとした町並みに隣り合う存在だとかなんとなく成長劇っぽいところとか。なんだか……新海誠っぽくないな……という違和感。
と思ったら蓋を開けてみたら生々しい新海誠の過剰摂取が始まるのである。妙に色っぽい大人のお姉さんだとか、水商売とか愛人とか東京の怖いヤクザやチンピラや拳銃や廃墟だとか、はてには逃亡に使ったラブホテルだとか陽菜の肉体の美しさとか、すっっっっっっっごく生々しいオーバードーズがもたらされる。
ありのままをそのまま描きつつ、現実には存在しないであろう突拍子もない存在(巨乳の美女のお姉さんとか若輩にしてレディキラーでプレイボーイな弟君)を違和感なく存在させ、奇妙奇天烈な現代怪異譚をその場で展開してしまうこの異常さ!! 新海誠の美麗な空と建物の描写と、降りしきる雨の写実的な描写にこれが絡んでくるから、すっごく奇妙な気持ちになる。
前作『君の名は。』で言うところの「三葉に入れ替わった瀧君が自身の胸を揉むところ」みたいな、一見気持ち悪いけれど実際その場にいればそうするわな、というような合理的な非日常をまざまざと見せつけられるような感じである。非日常が実際起きたらこうなるだろうという姿をまざまざと押し付けられる感じ。
多分それこそが新海誠成分じゃないかなって思っている。
バスローブをはだけて半透明の裸体を見せる陽菜のシーンとかすごく綺麗だなぁと思ったな……うん。あれは芸術的でもあったしフェチだった。
「君の名は。で童貞を捨てた新海誠が天気の子で童貞を取り戻した」と称するのが一番しっくりきそうだ。どういうことだよ。
で、そこに叩き込んでくるのがもう一つの新海誠だ。
モラルもルールも粉砕して容赦なく襲いかかるストーリー
青春成長物語にするつもりかな?
違います! 切り離します!! さよなら家族計画!!!
さすがに法律や警察が絡んだら手のうちようがない……?
違います!! 警察が追ってくるなら逃げてやる!!
このまま幸せにいけばいいのに……?
違うね!! はい別離!!!!
東京と彼女の二者択一なら……
捨てるわきゃねぇだろぉがーーーーー!!
とかいろいろやりたい放題である。主人公の帆高君も大暴れ青春するし陽菜もかわいいし夏美さんは肉体的に美人でエロだ。そしてある人物に対しても「そういうところだぞ新海誠!!」といいたくなるくらいに綿密な描写をやりやがる。
ちょっとストーリー的には複雑な部分もあって一口で飲み込めていない部分もあったりするし『君の名は。』ほどスマートではないか。ただそれでも抜き放った刃はちゃんと鞘に戻って物語を終えているし、ストーリーとしても見事であったよ。
序盤で放り投げた拳銃が最終盤でちゃんと転がっているとか、序盤のオッスオラ野沢雅子!いっちょ占ってみっか!なおばちゃんが、龍神様や力を使いすぎると神隠しに遭うとか伏線をきっちり貼ってるなどいろいろ緻密でもある。ちゃんと答えを先に出して「そういうことだったんだぞ」と後で背中から斬ってくるのが新海誠なのだ。
空の伝道師新海誠
そしてその映像の美麗さだ。
今作では本編通してほぼ雨の天気の東京が映されるのであるが、陽菜が「晴れ」を呼ぶたびに、澄み切った青空や荘厳な夕焼けや太陽がスクリーン全体に広がる。あの雲やあの空気は新海誠にしか描けないし、このストーリーを描くならば彼にしかできない所業である。
音楽の使い方も相変わらず良く、挿入歌も適度にほどよく物語を盛り上げてくれる。ああ青春。ああ青臭い。
ずっと昔から、『ほしのこえ。』から応援し続けていた新海誠監督がこれほどのエンターティメントを連続して創り上げられるようになったことに、大いなる感動を覚えた。だからこそ称賛せずにはいられない。
商業作品でここまで一気に上級者向けにあげていいのかという不安は残りつつも、新海誠オーバードーズをやりながら傑作をもう一つ創り上げたことが、一発屋ではない証明になったのが心から嬉しいのである。
追記(19/7/20)
もうひとつトピックを追加しておこう。この物語の超重要人物についてだ。
須賀圭介という大人
この物語のもうひとりの主人公とも言うべき存在。彼は10代の頃に東京に家出するように飛び出してきて、そしてそこで妻となる人物と出会い、大恋愛の末に結婚し子供を授かる。
しかし突然の事故によって死別させられ、喘息持ちの娘は(おそらく母方であろう)祖母の元へ引き取られてしまい、末端ライターとして廃れた日々を送るという状態だ。
物語の冒頭、フェリーで帆高が出会った彼にたかられて、別れ際に渡される名刺には「K&A事務所」と書かれている。さてなんのことかと思えば物語後半でそれが判明する。酔い潰れた彼が「明日香」という名前をつぶやくのだ。
K&A、ケイスケとアスカ。圭介の薬指には今も二つの結婚指輪が輝いている。
とまぁここに気づくと、あまりに無念に思うのである。
本当にあの事務所が本来家族3人で住むはずのものであったんだなとか……本当に不条理な事故で別離したんだなぁとか……
柱に娘の小さい頃の身長が刻まれてたりとか……
玄関に子供向けの三輪車があったりとか……
男の一人暮らしらしく書類やゴミやらで埋もれた汚らしい事務所は、本当は家族3人で住むマイホームの成れの果ての姿だったんだなぁとか……
しかも娘と離されている理由が祖母の言う「タバコを吸いそうなイメージがあるから」という理不尽なものである。実際娘は喘息であるし、雨の日には調子が悪くなるほどだからしょうがないけど……
圭介にとって、雨とは理不尽の象徴である。
しかし圭介は大人だし父親だ。いかにだらしがなくてもそうでなければならない。娘を引き取るためには不用意なことをできない。
だから帆高が警察に追われるという理不尽に被られても、突き放す他なかったのである。
そして東京の雨が上がり、事務所の中にまで床上浸水するほどに水没したりもする。空は澄み切った青空だ。忌々しい雨は消え去った。
しかし圭介はそれが陽菜という天気の巫女の犠牲によるものだと知っているし、その上に帆高が彼女のために今も警察という理不尽から逃げるという愚行を続けている。彼女のためにだ。
そんな彼が無意識の上に涙を流すのは、なぜだろうね。大人になったはずの彼がね。
須賀圭介という最後の障害
晴れ澄み切った青空の下で警察からの大逃走し、ついには社のある廃ビルに到着する帆高。しかしそこに待ち構えていたのは「須賀圭介」である。
理不尽を押し付けられた男が、今まさに理不尽を押し付けられている少年に「大人になれよ」と諭して止めようとする。
だが帆高は止まらない。拳銃をぶっ放すという最悪のルール違反を犯そうとも彼女を救うという意志を貫こうとする。理不尽を跳ね除けようとしているのだ。
警察の追いつき、刑事に取り押さえられる帆高。それを端から見るだけの大人の圭介だ。そりゃそうだ、警察に歯向かえば娘を引き取る話はどうなる。
だが、彼はようやく理不尽に抗ったのだ。
シンパシーを感じたのか同情したのか、それとも何かの衝動に突き動かされたのか。それははっきりとはしない。だけど帆高を助けるために公務執行妨害をやらかしたのだ。
そして逮捕される圭介。帆高が陽菜を助けられたかどうかなど知るよしもない。しかしパトカーまで連行される最中、あの青空は突然に崩れ去り、滝のような大雨が東京全土に降り注ぐようになる。
もう、雨は理不尽ではなくなったのである。
これを青臭いと言わずになんという!!!!!
最高だよ新海誠監督!!!!
最高の対比構造
須賀圭介は理不尽を押し付けられても、大人だとか父親だとかそういう社会的なものによって涙を流せなかった男だ。
その一方で主人公である帆高は理不尽に立ち向かい続ける少年だ。力も金もないし、だけど理不尽だと思ったら幼稚であっても抵抗し行動し続ける。目的のためになら手段さえも選ばないほどの大暴れっぷりと青臭さの権化だ。理不尽に泣きもするし、歯向かう。
須賀圭介がいるからこそ、この対比が完璧に成立して、どこまでも青い空のように青臭さを強調させられるのである。
理不尽に抗う物語
現実には多くの理不尽がある。そして本作の登場人物は理不尽を抱えられた者たちが集っている。
帆高は家族への不満や東京という社会や警察からの追跡。
陽菜は天気の巫女を与えられた役割と、弟と二人で生きていくという現状。
夏美さんは就職活動が上手くいかない社会への不満。
圭介については上に述べた通りの、娘や祖母の問題だ。
主要人物には降り注ぐ雨のように理不尽がのしかかってくる。新海誠監督の綿密な描写により、風俗の広告やラブホテルなどあまりにも生々しい表現をしてくる。しかしその中でも空は変わらず美しいし、恋はせずにはいられないし、世界には美しいもので溢れている。
どれだけ青臭いと言われようと、嫌な理不尽には抵抗していいのだ。そういうことを教えられたような気がする。
本当に、いいものを見せてくれた!!
みんなもぜひ見に行ってほしい。オーバードーズするほどの大量の新海誠を堪能できるよ。
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私は金の力で動く。