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夕映えにゲットバックGet Back『ショートストーリー』#2000字のドラマ


#2000字のドラマ

「入ってるよ! 拓ちゃん。フリーWi-Fi使えるようになった。マイクセッティングOK! 課長に報告写メ! パチリと」灯台の形をしたマイクの近くで、スマホを操作する詩織(25歳)。

その風景がPC画面に映ってる。
「詩織、もうちょっと喋って・・・」
「もしもし・・・拓海殿、愛してますよっ」カメラ近くでおどける詩織。
「やめろよ・・・」照れる、拓海(25歳)。

「なになに・・・。明日の結婚式の練習ですかぁ・・・。拓海さん、このギター、ここに置いときますね。テレキャスターでしたよ。年季、入ってますよね。これ、お父さんのですか?」
「預かりもの」
「そんじゃ、残りの楽器類は、明日の朝に運ぶんで・・・失礼します」Wi-Fi、音響設置し終えた電気工事士 庄司(23歳)が拓海に挨拶する。
「庄司君、会社に戻るの?」と尋ねる詩織。
「(市役所)本庁舎に報告と見積書持っていきます。行きますか?」
「ああ、乗せてって。拓海、あとで電話するから・・・」

「あの・・・。昨日、メールで予約した者なんですけど・・・」とライダースーツに身を包んだ真壁が拓海に声をかける。
「お待ちしていました。こちらです」灯台マイクの近くに移動する。傍らにPCとスマホ用のスタンドが置かれている。

「パソコンの画像は固定です。こちらで送信、録画できます。この画像が気に入らなければ、こちらのスタンドで、ご自身のお持ちのカメラ、スマホを調整して送信願います」
「了解、了解。俺もITの端くれで、やってたんで・・・面白い企画ですね」
「真壁様が、最初の方となります」
「うわっ、なんか・・・緊張するなぁ・・・。一発撮りだよね・・・YouTubeにもアップするの?」
「検討中です。本日は、実験でマイク、画像の調整を行う上で内容を私共の関係者が拝見する事になります。私を含めて5名です。確認終了後、画像等は責任もって破棄いたします。この同意書にサインを頂けますか」
「了解です」と『同意する』のチェック欄にレ点を入れる真壁。
「ありがとうございます。終了したら、場所をご移動願います」一礼して、その場を離れる拓海。

スタートボタンを押す真壁。「真壁敦、28歳です。アプリの開発に携わっていました。22日前に、会社を解雇させられました。世間では、コロナ解雇って言うらしいですね。なので、現在、無職です。何か掴みたくて、何かしなきゃという思いがあって、以前より夢描いてた日本一周を行動に移しました・・・」大きく、深呼吸をする真壁。「(大声で)日本一周、3分の一消化っ! 絶対、完走するぞっ! コロナに負けないぞ!」

「せつなさすぎる・・・トップバッターがこれだと・・・へこむ」千里ヶ浜海水浴場近くの道路を走る庄司の車の後部座席で、スマホに映った真壁の様子を見て、呟く詩織。
「割れてないですね。声。普通、大声上げたらマイクが割れるでしょう・・・」運転する庄司。
「外したよ。当然じゃん」とバックからマイクを取り出し見せる。
「おお、なるほどですね」
「28歳かぁ・・・。私よりも3歳上かぁ・・・。奥さんとかいるのかなぁ・・・」
「日本一周するぐらいだから、どうですかねぇ・・・しかし、よく通りましたよね。Wi-Fi設置。公民館とキャンプ場入れて、15カ所でしょう。相当な金額ですよね」
「この間の大雨もひどかったけど・・・。2年前の大雨の時に、避難所生活が長い人も居て、寝てばっかりで、退屈で、不安で、それなりに必要だと感じたし、アフターコロナに向けての観光対策としても絶対必要と、拓海と課長が推してくれたのよ。あるものを出してね・・・」

PC画面のスタートボタンを押す女性。
「札幌から来ました。美和と・・・早く、早く、ソーシャルディスタンス、そう、それぐらい・・・」
その傍らで、はにかみながら「薫です」と挨拶する。
「見ての通り、双子です。あ、綺麗っな夕陽!。薫、ちょい声出そう・・・あ~」
「あ~」と薫が返す。いつのまにか、ハーモーニーになる。ポケカラから選曲して、二人、歌い出す。

テーブルに、『10年後の私たち』の書籍が置く詩織。
「あるものって、これなんですね」と庄司。「市が合併して、都市計画の一環として作られた本。この地域の中学、高校にそのタイトル通りの募集があって、私達の班がこの地域の観光の未来をテーマに企画を出して・・・」パラパラと捲りながら、10年前の拓海と詩織を発見する庄司。「その中に、ほら・・・灯台広場をライブ会場にして、Wi-Fi設置して世界にこの地域を広めたい、発信させたいというのが、私達の班のまとめたものだったの。当時、15歳。中学校3年生。それを今回の会議に持ち出したのが、その当時のインタビュアーであり、この記事をまとめた、あの課長です」女性課長島崎と目が合う庄司、会釈する。「最強のシナリオだ」とこぼす庄司。

灯台マイク、PC関連機器を片づける拓海。辺りは、すっかり暗くなっていた。
エレキギターのメロウな曲が聞こえてくる。その方向を見る拓海。
白髪交じりの男性が、テレキャスターを弾いていた。
「『時間よ止まれ』ですね。その曲」
「よく知ってるな・・・。親父から聞いたのか?」
「ええ、まぁ・・・」
「明日、結婚式に出てくれますよね・・・詩織、逢いたがってますよ」
「ああ・・・」
「それと、浅沼さん、寄付金ありがとうございました」
「夢だったんだろ・・・。ここで、演るの、Wi-Fiつけるの」
「ああ、はい」
「俺も、お前の親父とここで歌ったよ。昔・・・。おい、アンプの電源入れるぞ」ギュ-ン。ズタズタズタズタズタズタズ-ズン♪ 

ゲットバックを弾きだす。
歌い出す浅沼。リズムを刻む拓海。
月の光が、二人を照らしていた。


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