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中高生でも分かる「ブランド」のこと──自分らしさを表現するパートナーとして

最近僕は「eスポーツブランド研究家」をあえて名乗っています。eスポーツシーンにおけるブランドの潮流や動向に興味があってのことです。

eスポーツに広く関心が持たれているおかげでTwitterのフォロワーも少し増えているんですが、プロフィールを見ると中高生が(存外)多いことに驚かされます。

そこで思ったわけです、「中高生ってブランドの意味が分かるのか? もしかしてこの肩書きはまったく通じていないのでは?」と。

常日頃からビジネスや仕事に携わっているわけではない、自由に使えるお金が少なく好きなものを好きなときに買いにくい──はたしてそんな中高生が日常生活においてブランドなるものを意識することがあるのか。僕は大学を卒業してもなお、ありませんでした。

そこで、今回は中高生でも理解できるように「ブランドとは何なのか」を簡単に解説します。特にeスポーツシーンにおけるブランドがどういうもので、なぜ重要なのかを知ってもらうことで、チームや選手のファンになることの意味について改めて考えてもらえれば嬉しく思います。

そしてまた、eスポーツに限らず、ブランドを意識して商品を購入することがいかに楽しく、自分らしさを表現しうる行為であるかを知ってもらえれば幸いです。

もちろん、eスポーツに関心がなくたまたまこの記事を見かけた人でも、「そういえばブランドって何なんだ?」と思われているのでしたら、多少は理解の役に立つのではないでしょうか。

メーカー目線の「ブランド」

そもそもブランドとは何か、というところから始めましょう。

いろいろと定義の仕方はありますが、一般的には「作り手(売り手)が果たしたい目的や叶えたい理念を組織・商品・作品などさまざまな形で表現したものであり、ほかの組織・商品・作品と区別するための名称やデザインから想起させられるイメージの総体」と言えます。

難しそうに見えますが、Wikipediaにはもっと難しく書かれており、しかも僕が伝えたいことを書いてくれていないので、ここでは僕が考えるブランドの定義を示しました。何度か読んで噛み砕いてみてください。

一口に「ブランド」と言っても、それが商品やサービスを指しているのか、あるいは作り手(売り手)自身のことを指しているのか、またはイメージのような概念を指しているのか、これらは文脈から判断する必要があります。

ブランドの定義についてもっと詳しく知りたい人はぜひ検索してみてもらいたいですが、そこで気づくことがあるでしょう。そう、ブランドの話題はなぜか作り手(売り手)の目線でばっかり語られているのです。

この記事では作り手(売り手)をメーカーと呼びましょう。そして買い手(使い手)のことはユーザーと呼びます。どちらも、個人の場合もあれば企業の場合もあります。

さて、ブランドがメーカー目線でばかり語られるのはなぜでしょうか。それは、特にビジネスを行なっているメーカーにとって、ブランドを確立して認知してもらうことが死活問題だからです。

ブランドを確立するためのあらゆる取り組みのことをブランディングといいますが、ブランディングを行なってユーザーに商品やサービスのよいイメージを持ってもらうことで、よその商品ではなく自分の商品を率先して購入してもらえるようになります。

また、ブランドは「メーカーの主義を表現したもの」でもあります。このことが最も重要です。

「主義」とは、自分の考えや想い、気持ち、言動、経験、達成したい目的、実現したい理念、大切にしていること、共有したい関心事などを指します。主義以外に適切な言葉を思いつかなかったので特殊な使い方をしていますが、これらの主義を具体的に表現したものがブランドです(主義は「世界観」や「価値観」でもいいですね)。

企業のようなメーカーにも主義があり、それを商品、つまりブランドとして表現しています。例えばお茶を売っている企業であれば、生産者が代々受け継いできた土地を大事にしながらお茶を作っていることを伝えたくて、その想いをブランドとして表現しているかもしれません。

僕のようなユーザーは、先祖から受け継いだ土地を大事にしたいという考え方を持っているので、そうしたことが表現されていないブランドよりも、しっかり表現されている上記のブランドのお茶を買うわけです。

メーカー目線のブランドについてまとめます。ブランドとはメーカーの主義を表現した商品や作品で、かつ、よそのものと自分のものを区別してもらうためのイメージ、ということになります。

しかしながら、僕が今回伝えたいのはメーカー目線のブランドについてではありません。ユーザー目線のブランドについてです。

ユーザーにとってブランドとはどんな意味・意義を持つものなのでしょうか。僕は、ユーザーが自分の主義、すなわち自分らしさを表現するものがブランドだと考えています。

ユーザー目線の「ブランド」

この主張は一見不思議に感じます。メーカーが主義を表現したものがブランドであり、ユーザーはその主義に共感して購入するだけではないのでしょうか。アーティストや作家しかり、主義を表現するにはみずから何かを創らなければならないのでは?

であれば、いったいなぜブランドを購入するユーザーが主義を表現することになるのか?

ブランドにはメーカーの主義が詰め込まれています。先ほどのお茶ブランドの例を出しましょう。このお茶ブランドは、先祖代々の土地を大事にしている生産者によるものだということが表現されています。僕はそのことに共感するので、このお茶ブランドを好んで商品を購入します。

考えてみてください、ユーザーがメーカーの主義に共感するのは、ユーザー自身がその主義を大切にしているからにほかなりません。ゆえにこそ、僕はこのお茶ブランドを購入することで、自分が先祖代々の土地を大事にするという考え方を表明していることになります。

要するに、ユーザーがあるブランドを購入するということは、メーカーの主義に共感することで自分自身の主義を表明=表現していることになるわけです。主義の表現は生産や創作だけでなく、消費によっても可能なのです。

例として──あなたがNIKEのスニーカーをよく購入しているとしましょう。NIKEを好きな理由は「かっこいいから」。言いかえると「NIKEはかっこよさを表現しているブランド」だから。つまり、あなたはNIKEのスニーカーを買うことで、「かっこよくあることを大事にしている」と自分の主義=自分らしさを表現しているのです。

消費・所有することで自分らしさを表現するためのもの、これがユーザー目線のブランドです。このように考えると、ブランドを意識して何かを購入するのが楽しくなってきませんか?

このメーカーはどんな想いでこの商品を作ったのだろう、とちょっと調べるだけでも世界が広がるはずです。自分が使うもの、食べるものにこだわりを持つことは生活に彩りをもたらし、何気ない日を特別な1日にしてくれもします。

また、ブランドを意識することは自分の主義を言語化する行為でもあります。何かを好きになるのはたいてい直感的ですが、好きになったブランドを知る(サイトを見る、創業者の言葉を読む)ことで自分の主義を言語化できます。

なんとなくNIKEのスニーカーがかっこよくて好きだったけど、調べてみたら「スポーツの未来を守る」を掲げているブランドで、自分もそれを大切だと思っていると気づいた、というように。

なぜブランドが大事か

すでに言及はしているものの、改めて、なぜメーカーにとってブランドが大事なのか、なぜユーザーにとって楽しいものなのかを具体的に説明していきましょう。なお、基本的には「商品」としてのブランドに焦点を当てます。

日本では20世紀後半が大量生産・大量消費の時代と呼ばれています。この時代における商品の価値は安くて便利であることが第一で、メーカーの主義はそれほど重視されていませんでした。ユーザーも自分の主義と照らし合わせて商品を買うことはほとんどなかったのではと思います。

そこにブランドという考え方が輸入されました。たまたま筆頭となるブランドが高価な商品を販売していたため、日本では「ブランド=高価な商品」というイメージが広がり、ブランドの商品を所有することは経済的な裕福さを表すイメージが持たれるようになりました(かなり大雑把ですが)。

ユーザーも、ブランドの商品を所有することで「自分はこんなに高価なものを持っている」と自慢していました(なお大阪ではそれをいかに安く買ったかを自慢します)。ですが、皆さんはすでにブランドが必ずしも高価な商品だけを意味しないこと、経済的な裕福さを表現するばかりではないことを知っています。

世の中にもおそらくこの価値観が浸透しつつあるようですが、いまでも高価な商品を買うのは裕福さの見せびらかしのためだとする言説はあります。

そのことに真正面から異論を唱えた本が、進化心理学者のジェフリー・ミラーによる『消費資本主義!』です。紹介記事は以下に。

簡単にまとめると、人は自分が誠実であったり協調的であったり、社会的に善良とされている特徴や性格を見せびらかす(周囲に知ってもらう)ために寄付をしたり商品を買ったりしている、ということです。

この記事に合わせて言いかえると、ユーザーは主義を表現するためにブランドを所有する、となります。「表現する」を「見せびらかす、自慢する」と置き換えてもいいでしょう。

そして、ユーザーには主義を表現したい欲望があります。皆さんもいいねをもらうためにSNSで自分がいかにいい人間で、優れた知性や観察眼を持ち、流行に敏感でセンスがあるかを見せびらかしていますよね。そして、できれば飾らない素の自分を愛してもらいたいと願っていますよね。

いま、メーカーはユーザーのそうした「表現したい、承認されたい」という欲望を満たすためのブランドを作ろうと必死になっているわけです(「役に立つ」は大前提として)。

というのも、昨今は便利で質が高く、さらに安い商品がいくらでも手に入るようになりました。それらは誰でも簡単に真似できるので、ユーザーからすればどのメーカーの商品を選んでも同じことです。だから、メーカーは自分たちの商品が選ばれるための別の理由──ユーザーに共感される主義を表現したブランドを作る必要に迫られているのです。

皆さんも特にこだわりのない商品なら安いものを買うかもしれませんが、こわだりのあるもの、例えば人に見られる衣服やコスメ、健康を左右する食品などはブランドを意識しているのではないでしょうか。そのブランドはたぶん、皆さんの主義に合致したブランドのはずです。

さて、ブランドがなぜ大事なのかがうっすら見えてきたと思います。ブランドは、メーカーにとってはユーザーに選ばれる理由として、ユーザーにとっては主義を表現するパートナー的な存在として大事なのです。

eスポーツにおけるブランドとは

ようやくeスポーツの話に入りましょう。eスポーツシーンにおいても、いろんなところでブランドという言葉を目にする機会が増えているのではないでしょうか。

その理由はすでに明らかなように、メーカーにもユーザーにもブランドが大事だからです。これはPCやデバイス、ゲーミングチェアなどだけでなく、選手やチームにも当てはまります。つまり、選手やチームもいわばブランドだということです。

皆さんにもきっと好きな選手やチームがいることでしょう。あるいはゲーム実況者やストリーマーかもしれません。いずれにしても、彼らを好きな理由は彼らの主義を探ってみることで明らかになると思います。そしてたぶん、その主義は皆さんが大切にしていることでもあるはずです。

選手やチームを好きであること、好きだと表明することは、彼らの主義を自分も大切にしていると表現することになるわけです。もちろん、ファンになるだけでなく、何かを作ることで共有する主義を一緒に表現できれば最高ですね。

選手やチームにしても、自分たちの主義(「世界一になる」など)を活動の源泉にしていますし、さまざまな場所や機会で主義を表明しているでしょう。もしファンを求めるなら、ブランドとしてユーザーに共感されることが非常に重要ですので、いまいち言語化できていないようであれば整理してみるのがおすすめです。

また、ゲーム産業以外のメーカーがeスポーツシーンに参入し、協賛する事例も増えてきました。ユーザーがそのブランドを選ぶ理由は、やはりゲームやeスポーツを大切にする気持ちがどれくらい大きいかということ。それにプラスして、ほかの主義に共感してもらえればユーザーにより選ばれやすくなるのではないでしょうか。

ブランドを通して自分を知る

ということで、ブランドについて知る最初の一歩を踏み出すことができました。資産としてのブランドやブランディングの戦略の話も面白いところですが、それは別の機会に。二歩目に進みたい人は『デジタル時代の基礎知識『ブランディング』』や『誰でもできる「ブランディング」のはじめ方』などをどうぞ。

これらはもちろんメーカー目線のブランドについて書かれています。この記事ではユーザー目線のブランドについて重視してきましたが、これはユーザーの消費活動や表現活動にとって欠かせない考え方です。

なぜなら、ブランドにこだわることでどうでもよかったことを楽しめるようになり、また好きなブランドを深く知ることで自分自身をもっと知ることができるようになるからです。

eスポーツシーンにも、これからどんどんブランドを意識した選手やチーム、あるいはスポンサーが登場してくるでしょう。自分がどんな主義に共感するのかを探るのは面白そうです。そしてそれが明確になったら、ぜひ応援するという形で主義を見せびらかしていきましょう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もしよかったらスキやフォローをよろしくお願いします。