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あるプレイヤーがesportsチームのRush Gamingファンになるまで【体験編】

esportsチーム事業にとってファンの存在は生命線の1つ。ファンをいかに増やしていくかは以前に書いた。その具体例として、いま最も戦略的にチーム運営に取り組んでいると思われるRush Gamingを取り上げる。

Rush Gamingは『CoD: WWII』を舞台に活躍するプロチームで、ゲーム関連企業向けのエージェンシーであるWekidsがオーナー。精力的に情報発信することで、熱心なファンを獲得している。ほかのチーム、あるいはファンを作っていきたい企業や個人にとって、彼らの工夫は示唆に富むだろう。

とは言っても、Rush Gamingの戦略をただ紹介するのではなく、今回は「ターゲットがチームの存在を知り、ファンになり、グッズを購入するまで」の体験をストーリー形式で描く。そうすることで、そのターゲットがどういった状況でどのタッチポイントに触れ、どのような情報を得ているのか、そしてどんな感情の変遷があるのかを、簡略化したものであるが明確にする。

なぜ「グッズ購入」をゴールにするのか。これはチームにとって非常に重要な収益源となるが、その柱として確立しているチームはまだ少ないように見受けられるからだ。また、Tシャツなどの物品購入という意味だけでなく、サブスクリプションのようなファンがチームに直接的にお金を使って支える行為を象徴したものだと捉えてほしい。

この【体験編】(いわゆるカスタマージャーニー)の考察や分析は【分析編でより詳しく解説する。事業においてファンを作っていきたい場合に「どんな人がどういう経路を辿ってファンになるのか」をイメージし、ターゲットやファンとのコミュニケーションにおいて自分たちが立てるべき戦略や取り組むべき施策の一助としてもらいたい。

【目次】
大会のレポート記事でRush Gamingを知る
プロ対抗戦を知ってツイートする
観戦してTwitterでフォローする
YouTubeでチームのことを知る
初めて公式サイトを訪れる
応援したくてグッズを買う
特別な待遇に満足する
旅を終えて

※なお、これは僕の経験を現在の状況に照らし合わせて整えたまったくの創作で、時系列などは多少無視した。要点を整理したカスタマージャーニーマップは最後に掲載している。

大会のレポート記事でRush Gamingを知る

結局今年の闘会議には行けなかったが、けっこうesports系のブースが多かったみたいだ。ずっとプレイしてた『Overwatch』は当然のごとく大会も何もなかったのが悲しい。PCは無理でも、TGSで「ソニー対スクエニ」なんていう面白イベントもあったのに。

まあ、『Overwatch』はちょっと飽きてきてて、最近はPS4で『CoD: WWII』をプレイしてる。日本でもかなり売れてると評判だったからだ。CoDシリーズは初めて手を出してみたけど、これがけっこう面白い。どこかの記事で書かれてたCoDシリーズの面白さがよく分かる。腕前は……パッドでFPSをやるのが久しぶりすぎるのもあって、まあ慣れながら上達していければいいかなって感じ。

実は闘会議で『CoD: WWII』の大会があったらしい。そこまで熱心にプレイしてるわけじゃないから興味なかったけど、闘会議のレポート記事を読んだらけっこう盛り上がってた。優勝したのはRush Gamingってチームで、写真も載ってた。6月に世界大会?に出場できるそうだ。

最近いろいろプロゲーマーが生まれてるらしいけど、『CoD: WWII』のプロゲーマーって日本にもいるんだろうか? Rush Gamingはよく知らないが、DetonatioN Gamingは『LoL』のチームがあるのは知ってる。ということは『CoD: WWII』のチームもプロということか。

でもまあ、そこまで興味があるわけでもないし、他人の試合を観るより自分でプレイしたほうが楽しい。特に友達とやるのは。勝たなくても、ミスも笑えてしまう。もうしばらくはこのゲームで遊べそうだ。

プロ対抗戦を知ってツイートする

なんとなくTwitterのタイムラインを眺めてたら、CoD友達が気になるツイートをRTしてきた。なにやら明日、『CoD: WWII』のプロ対抗戦ってのをやるようだ。

そのツイート(CoDの公式アカウント)からプロ対抗戦のサイトを見てみたら、DetonatioN Gaming、それにあのRush Gamingが出場していることが分かった。大会は全部合わせて6チームがリーグで試合をして、日本最強チームを決める。月1回で行なわれてて、すでに1回終わったと。いまのところ1位はRush Gaming。やっぱり強いんだ。

CoDのプロ対抗戦で1位のRush Gamingって強いんだなぁ。闘会議のときも優勝してたよね

とツイートしてみた。明日は暇だし、家で観戦してみようかな? 最近ちょっと勝てないし、うまい人のプレイを見たら参考になるかも。とりあえず開始時間をカレンダーに入れとこう。

そんなことを考えてたら、Twitterに通知があった。さっきのツイートをいいねされたようだ。見てみたら、Rush Gamingの公式アカウントだ! ちょっとびっくりしつつ、自分のツイートに反応してもらえるのがなんか嬉しかった。

観戦してTwitterでフォローする

翌日、YouTubeでプロ対抗戦を観た。Rush Gamingが圧倒的すぎた。自分の参考にはならないくらいに。中でも印象に残ったのはGreedZzというチームのリーダーだ。キル数自体はほかのメンバーほどではなかったけど、立ち回りで相手チームを制圧してる感じで、自分と同じゲームをやってるとは思えなかった。

Rush Gamingすごすぎた

試合が終わったあと、それだけツイートして友達とリプライのやり取りをしてたら、またRush Gamingにいいねされた。さすがに気になるから、アカウントをフォローしてみた。ついでにGreedZzもフォローした。いったいどんな練習をしたらんあんなプレイができるんだろうか。

YouTubeでチームのことを知る

GreedZzとチームのアカウントのツイートはけっこう目に入ってきた。特にチームのアカウントはすごくて、メンバーが上げた動画とか彼らが何をしてるかみたいな情報が次々に流れてくる。でも、選手の日常風景って正直どうでもいいから、GreedZzが上げてるプレイ動画をいくつか観ることにした。

というか、どれを観ても真似できる気がしない。ちょっとずつは取り入れてみてるけど、結局はチーム内での連携が大事だ。とりあえずGreedZzのチャンネルは登録して、友達にも動画をお勧めしておいた。こういうのができるようになったらもっと勝てるってことで。

GreedZzの動画やRush Gamingのツイートにはチームのほかのメンバーも出てくる。NamiとNgtとWinRed。みんなうまい。うまいし、動画が参考になる。友達はなんかWinRedがお気に入りみたいだ。サムネの顔芸が好きらしい。たしかに笑える。プロゲーマーってゲームがうまい人ってイメージだったけど、普通に面白い人もいるんだな。

その友達がしつこいからWinRedのチャンネルも登録した。それと、ほかのメンバーとチームのも。Twitterもフォローしておいたほうが動画の更新情報が分かりやすい。4人のツイートは見てるだけでもけっこう楽しいし、めちゃくちゃ練習してるっぽいからこっちもCoDをやるモチベーションになる。

動画を観てたらちょうどGreedZzの生放送が始まったけど、今日は友達とプレイしないと。配信を観るのは時間がかかるし、やっぱりゲームは自分で遊んでこそだろう。

初めて公式サイトを訪れる

『CoD: WWII』の世界大会が開催されるということで、日本からはRush Gamingがいち早く渡米した。闘会議で優勝したときのやつだ。で、いろいろあってどのチームでも参加はできるようになったらしい。ほかにDetonatioN GamingとSCARZ、それとプロ対抗戦には出場していないXIAも行くとのこと。

Rush Gamingは何週間か前に到着してて、現地からの情報を発信してくれてて意外と楽しい。泊まってる家の紹介動画も上げてて、庭にプールがあるだけで大騒ぎしてた。GreedZzがイキってバナナをスプーンで切ってるのを茶化されてるのは笑った。

あと、向こうのトッププレイヤーとさっそく対戦してるのはさすが。まだ実力差があるってことだけど、どこまでやれるんだろうか。勝ってほしいなと思う。自分たちより全然強いのが分かってるチームばっかりの環境、しかもいつもとは全然違う空気の場所に乗り込んで戦おうとしてるわけで、素直にすごいなと感じる。

みんな、どういうモチベーションでプロになったんだろう? ていうか、Rush Gamingってどんなチームなんだ? そんなことに思い至って、ググって公式サイトを見てみた。ツイートと動画はかなり見てたのに、サイトを見るのは初めてだ。

サイトトップにはアメリカ遠征の写真が出てる。チームとしても、やっぱり大きな挑戦なんだ。それと、どこかでサインしてる写真。たしか、Rush Gamingの人気ってすごいらしい。プロゲーマーにサインをもらうのって普通のことになってきたのかな?

そのままスクロールすると、Rush Gamingの設立について書いてある。へぇTwitterアカウントの名前に書いてるWekidsっていう会社がスポンサー契約をしてプロチームになったんだ。そういえば前にツイートをいいねしてくれた人の名前にWekidsって書いてる人がいた気がする……あ、チームページに載ってるこのUlaraって人だ。フォローしとこう。

それと、三井住友カードのページもある。今回の遠征だけ支援してくれてるスポンサーってことで、Twitterでお知らせされてた。わりと誰でも知ってる企業だし、本当にすごい。いま使ってるのは別のカード会社だけど、ここで作ってみようかな?

選手のグッズも売ってるみたいけど、ちょっと高いし、そんなにほしいとは思わないな。

ゼンハイザーのページもあるんだ。GreedZzは2年以上も使ってるって書いてる。愛用してるからスポンサーになってくれたのかな。ヘッドセット、かっこいいし性能もよさそう。

応援したくてグッズを買う

世界大会、Rush Gamingは下のほうで負けてしまった。うーん、残念だ。日本で一番強いチームでも勝てないなんて、世界のチームはやっぱり強い。でも、メンバーは誰も諦めてないし、むしろもっとやる気になってる感じ。こっちまでCoDモチベが高まってくる!

週末にはプロ対抗戦の第3日が始まる。この短期間でどれくらい強くなったんだろう。PVとかインタビューとかの動画がいっぱいツイートで流れてくるし、みんなの試合がすごく楽しみだ。友達にも大会の日は一緒に観ようと言っておいた。Discordで喋りながら大会観戦するのは初めてだし、今回も圧勝してほしい。

そして本番……どうしてこうなったのか、Rush Gaming は2連敗して首位陥落してしまった。負けた瞬間の選手の顔はたまらなかった。悔しい。選手とチームが負けたことをツイートで謝ってた。でも、謝ってほしくなかった。第4回で挽回すればいい。きっとしてくれる。

しばらく2連敗のショックが続いて自分のプレイにも身が入らなかった。選手の生放送を観るのもちょっと辛かった。一プレイヤーでしかないけど、何かチームのためにできることってないんだろうか。

そんなとき、ちょうどチームのTwitterアカウントからグッズのお知らせがあった。こういうのを買えばチームにお金が入って、それで練習のための費用になるのかな? そう思って、勢いでフーディを買ってみた。ロゴがかっこいいし、普通に着てもよさそう。

さっそく届いたから、写真を撮ってTwitterに上げてみた。

Rushのフーディ買った! プロ対抗戦、次は勝ってほしい! #rushgaming

そしたらGreedZzがリプライをくれた! 動画とか配信で観てるだけだけで遠い人ってイメージだったから、かなり嬉しかった。もちろん「応援してます」ってちゃんと返した。チームのアカウントでもいいねしてくれて、Rush Gamingがもっと好きになった。

それに、公式アカウントを見てると自分と同じように応援してる人たちがいるのが分かって、全然知らない人なのに親近感が湧いてくる。

特別な待遇に満足する

そのしばらくあと、Rush Gamingからメールが届いた。何だろうと思ったら、グッズ購入者だけに届くメルマガだ。TwitterやYouTubeには載ってない、チームや選手のここだけの情報が書かれてた。休みの日の選手の写真もある。もちろんアンケートには回答した。

自分ではただ応援したくて買っただけなのに、こんなふうに特別なことをしてくれるなんて。もちろんGreedZzのサイン入りTシャツのキャンペーンも応募した。今度の、グッズ購入者だけが参加できるチームイベントは絶対行きたい。CoD仲間も誘って。

残念なのは、Rush Gamingが出場する大会が多くないのと、せっかくやってるプロ対抗戦は観戦ができないってことだ。観戦できるなら行きたいのに。

あ、イベントか大会か、もし会える機会があるならサインがほしいな。何に書いてもらうのがいいんだろう……そういえば、最近ヘッドセットの調子がよくない。せっかくだからゼンハイザーのを買ってみるか。

旅を終えて

実際の顧客体験はこんなにうまくいかないし、きれいにまとまるわけでもない。ただ、自然現象と同じく、複雑な物事ほどこうしてモデル化することで分析しやすくなる。カスタマージャーニーを描くということは、自分たちの主要なターゲットとのコミュニケーションプランを
立てるために彼らのことをより深く知ろうとすることにほかならない。

上記では、かつてPCで『Overwatch』をプレイし、esportsを認識しプロゲーマーの存在も知っていて、いまはPS4で『CoD: WWII』を友達と遊んでいる人物、つまりゲームの既存プレイヤーをターゲットにした。いろんなタッチポイントを行ったり来たりしながら好意を蓄積していることが分かると思う。

最後に、今回のストーリーをカスタマージャーニーマップとして簡単にまとめておく。

次の【分析編】ではこの【体験編】とRush Gamingの取り組みを参照しながら、特にターゲットとのコミュニケーションプランにおける指標について考えていく。

Rush Gamingに学ぶ、チームや選手のファン作りに役立つ戦略と指標【分析編】
商品としてのプロゲーマーをより魅力的にするための戦略と施策

※2018年7月6日:Wekidsの説明を修正。

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