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ファンに選ばれるブランドへ、そのためにサッポロビールはeスポーツシーンに伴走する

いわゆる大企業がスポンサーとしてeスポーツシーンに注目するようになって久しい。

eスポーツとの距離感や協賛の方法はそれぞれだが、eスポーツ業界自体もあらゆる取り組みが試行錯誤の現状、どの企業も「何ができるのか」「どんな効果が得られるのか」と暗中模索の段階なのは間違いない。

そんな状況下において、スポンサーにとってチームや選手、大会やイベントはどういう存在なのだろうか。

eスポーツシーンとのさまざまな付き合い方がある中で、プレイヤーやファンを根本から見つめて戦略を組み立てている企業の1つがサッポロビールである。

そして、同社でeスポーツ領域を担当しているのが福吉敬だ。福吉はメディアプランニングやデジタルマーケティングを主戦場としているが、eスポーツシーンにおいては講演やインタビューにも登場しているので「サッポロビールの顔」として知っている人も多いのではないだろうか。

弊誌では今回、幸いにも福吉にインタビューする機会に恵まれた。チームと大会に協賛しているサッポロビールはeスポーツにどんな価値を見出し、何を得ようとしているのか、そのあたりを詳しく尋ねることができたので、ぜひ皆さんにも知ってもらいたい。

福吉の言葉から受け取れる同社の姿は、ただお金を出して成果を求めるだけの広告主ではなく、eスポーツシーンに伴走するパートナーであり、熱狂を生み出そうとしている開拓者のようだった。その結果として、ゲームやチームのファンに選ばれる存在になることを目指しているのだ。

あなたがスポンサーの立場なら、これからどのようにeスポーツに向き合えばいいのかの参考になるだろう。あなたがチームや大会の関係者なら、スポンサーとどんな付き合いをすればいいのかが見えてくるだろう。あなたがプレイヤーやファンなら、好きなeスポーツタイトルや選手を盛り上げるために何が必要なのかが掴めるだろう。

なぜeスポーツが必要だったのか

最初に、スポンサーにとってeスポーツがどういう位置づけになるのかを明らかにしておきたい。簡単に言うと、オーガナイザーやプレイヤーにとってeスポーツは業務や意識の大半を占めるたいへん重要な存在だが、スポンサーにとっては自社の商品やサービスを訴求するコミュニケーション手段の1つでしかない(協賛される側は常にこのことを意識しておかなければならない)。

サッポロビールにおいても、eスポーツ以外のコミュニケーション手段はいくらでもある。なのに、なぜeスポーツを活用することになったのか。同社におけるどんな課題や背景がeスポーツを必要とさせたのだろうか。

福吉によると、かねてゲームには注目していたという。その理由には大きく2つあり、まず国内の酒類市場が漸減していることが挙げられる。

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酒類市場の規模は2011年度が3兆6500億円、2018年度には3兆5100億円と上記調査で「底打ちがみられない状況が続いている」とある。サッポロビール(下表の国内酒類)はその中で売上増と営業利益増が続いてきたが、2018年度は昨対比でマイナスになっている。

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これらの傾向は、いままでと同じことをしていたら売上はさらに減っていくことを予測させる。だとすると、もっとテレビCMなどマス広告を増やしてリーチを広げればいいのではないか? しかし、それだけでは心許ないもう1つの理由がある。テレビをまったく観ない人が増えており、従ってテレビCMだけではコミュニケーションできない人が増えているのだ。

総務省の情報通信白書によると、特に10代と20代でテレビの視聴時間(リアルタイム)と行為者率が顕著に減ってきている。要するに、若年層ではテレビCMが目にされる機会自体が減ってきているのだ(録画はそもそもCMがカットされてしまう)。

とは言っても、テレビはいまだ最も多くの人にリーチできる手段で、テレビ以上にその力を発揮できるメディアはない。それでも、福吉はまったくテレビを観ない人たちがいることを強く意識しているという。なぜなら、その人たちには自社が主力としてきたコミュニケーション手段で接触することができないからだ。さらに、将来的にそういう人はますます増えていくと見込まれる。

そこでテレビCM以外の手段が必要となる。テレビを観ない人がいったい何をして過ごしているのかを調べるには、社会生活基本調査が有用だ。最新の平成28年の調査では、前回調査(平成23年)と比較しながら 「趣味・娯楽」の種類別行動者率を見ることができる。

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行動者率が増加している項目はいくつかあるが、この中で「サッポロビールがアプローチできていない人たちがおり、行為中に熱狂したりのめり込んだりできて(楽しくお酒を飲めて)、テレビと関連の弱い趣味・娯楽」は何か。

「映画鑑賞」や「音楽鑑賞」、「カラオケ」は増加率が高いが、お酒を飲みながら楽しむのはすでに日常的なことだ。「趣味としての読書」や「遊園地・動植物園・水族館などの見物」、「美術鑑賞」は熱狂するようなものではない。「園芸、庭いじり、ガーデニング」「写真撮影・プリント」は行動者率が減少しているし、お酒を飲みながらするイメージは思い浮かびづらい。そのほかの項目は行動者率が低く、テレビを観ない人の割合も少ないだろう。

とすると、残されるのは「テレビゲーム・パソコンゲーム」だ。ゲームならお酒を飲みながらでも楽しくプレイできる。しかも対戦ゲームなら、勝敗が伴うため熱狂(祝杯!)が生まれやすい。テレビをあまり観ない人も多そうだし、なによりゲーマーは同社ではこれまであまりアプローチしてこなかった層である。

出鼻を挫かれるもeスポーツと邂逅

福吉はまず、ゲーム内にオブジェクトとして広告を設置するプロダクト・プレイスメントに着目した。プレイヤーは画面に集中しているので、広告が表示されればその注目率は高くなると考えられる(下記は『ストリートファイターV』の事例だが、RPGやアクションゲームとの相性がよさそうだ)。

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現状、国内でゲームのプロダクト・プレイスメントを取り扱う広告代理店はたぶん存在しない。当然ながら、ゲームを開発するゲーム会社が全権を握っている。だが、福吉によると、社内での合意は取りつけたものの肝心のゲーム会社にはまったく相手にされなかったそうだ。「自社のゲームに他社ブランドの広告を入れる想定で制作していない」と。

そのとおり、真っ当な疑問だ(いいアイデアだと言ってくれる人たちもいた)。しかし、いまや『Fortnite』ではコラボと称したプロダクト・プレイスメントが当たり前になっており、日本でもモバイルゲームではIP同士のコラボが施策として成立している。今後はゲームをプラットフォーム(GaaP)と捉える潮流がより加速していくように思われる。

さておき、門前払いを喰らった福吉は、海外のeスポーツシーンの盛り上がりを知りながらも、国内で踏み出すのにはやや躊躇があったという。2017年頃はシーン自体の存在感が弱く、全体的にプレイヤーや視聴者数も少なかったせいだ。

けれど、プロダクト・プレイスメントが実らなかったそんな折に、RAGEを展開するCyberZを紹介された。さらに、サッポロビールがオフィシャルパートナーを務めるプロバスケットボールチームのレバンガ北海道から、同チームがRAGE Shadowverse Pro Leagueの創設時に参戦することになり、協賛の話が舞い込んできた。そうして、サッポロビールはその機を逃さずレバンガ☆SAPPOROのオフィシャルパートナーとなった。

チームも大会も単なる広告媒体ではない

ここまで、福吉がどのようにeスポーツへと辿り着いたのかを見てきた。次に、サッポロビールがeスポーツをどんな存在として捉えているのかを詳らかにしたい。

先ほど、スポンサーにとってeスポーツは数あるコミュニケーション手段の1つでしかないと述べた。つまり、チームや大会はそのファンや視聴者にメッセージを届けるための広告媒体(広告枠)であるということだ。それは客観的な事実としては正しい。

しかし、福吉は「チームや大会はパートナーであり、一緒にコンテンツやシーンを作っていく仲間」だと考えている。

福吉はチームのファン数やインプレッション数、大会の視聴者数や視聴時間といった定量的なデータをきちんと要求する。だが、それに加えて、スポンサーという立場からeスポーツシーンに伴走して市場や業界を育てていこうという強い意志も持っている。

僕が以前「チームとスポンサー企業はクリエイティブパートナーの関係であるべきだ」と書いたのと同様に、福吉にとって、スポンサーは単にお金を出して効果を求めるだけの存在ではなく、またチームや大会はスポンサーの広告を掲載するだけの存在でもないのだ。

この考え方の根底には、福吉がコンテンツマーケティングやネイティブアドを重視していることがある。ディスプレイ広告やリスティング広告など、ダッシュボードを操作して「枠」の売買をするだけの広告にはあまり注力せず(アドフラウドや広告ブロックの懸念もある)、関係者同士で密に打ち合わせをして作り上げるコンテンツを通じてブランドや商品に関心を持ってもらおうとしているのだ。必要とあらばステークホルダーに自社の持つデータを開示するという。

つまり、「サッポロビールが気になる」「試しに黒ラベルを飲んでみよう」といった態度変容に繋がる深いエンゲージメントは、サッポロビールが主体的に関与するコンテンツを楽しんでもらうことから生じると考えているわけだ。

上記が強く表現されている具体例としては、サッポロビールが協賛しているPUBG JAPAN SERIES(PJS)を見るのが早い。下記はリーグ戦の中で特に印象に残ったアーカイブしておきたい試合をキャスター陣とゲスト選手によって議論する動画コンテンツ。「サッポロビールプレゼンツ」とあるように、冒頭で全員が黒ラベルで乾杯をする。

PJSではこうしたコンテンツや大会番組内のコーナーをスポンサーと一緒に作る取り組みが次々と実践されている(大会のライブ配信のクオリティも国内随一)。ほかではあまり見ないコンテンツであり、「プレゼンツ」と謳いながらも商品を押しつけず、シーンのそばにあるという印象を与えてくれる。

※ちなみに、「伴走」という言葉はサッポロビールが1987年から箱根駅伝をサポートしていることにも関連する。

プレイヤーやシーンの文脈に寄り添って

大会のスポンサーというと、それまでの試合の流れや盛り上がりをぶった切ってロゴや商品を前傾姿勢で強調したがるイメージを持つ人もいるかもしれない。けれど、eスポーツシーンにおいてそれは最もやってはいけないことの1つだ。大会を楽しく観戦している人に対して突如雰囲気をぶち壊すCMを観させたところで、いったいどんないいことがあるのか。

そもそもテレビCMですら待ち望んでいる視聴者は少ないだろう(CMが流れて喜ぶのは……?)。福吉が文脈に埋め込むネイティブアドを重視するのはこの点も関係している。だから、大会番組の配信中に過剰にCMを挿入する気持ちはなく、ロゴや商品を画面の目立つところに置くこともない。

言いかえると、サッポロビールでは熱狂しているプレイヤーや視聴者の邪魔にならないよう、最大限に彼らの文脈を尊重したうえで、スポンサーとしてできることを行なっている。それと、ゲームや大会を作っている人たちの想いにも配慮している。個々のeスポーツタイトルの文脈を共有し、スポンサーとしてそのシーンをサポートできてこそ、ゲームやチームのファンと深い繋がりを得られるからだ。

「チームや大会と伴走して一緒にコンテンツとシーンを作っていく」という言葉は、スポンサーとして権限を振りかざすのではなく、まさしくeスポーツ側の文脈を尊重し、頼られるパートナーになることにほかならない。贔屓のチームが優勝した、グレネード1発で敵チームを殲滅させた──そんな熱狂の瞬間にブランドが寄り添えるように。

スポンサーがこう考えているのだとしたら、チームや大会の側もスポンサーと一緒に何ができるのかをしっかり検討・議論し、よい関係を作っていくべきだろう。福吉はさらに、スポンサー同士も協力してシーンを育てていきたいと話してくれた。

※もちろんeスポーツ以外にも近しい領域で協賛をしており、昨年のニコニコ超会議などがその例である。

大会協賛の効果のほどは?

当然ながら、協賛の効果が芳しくなかったら関係は続きにくい。サッポロビールでは、いまのところ協賛を続けられるほどの成果を得られているそうだ。

特にPJSでは定量データと定性データのレポートが大会終了後にすぐ届くため、社内で協賛への理解が進むと同時に、次にどんなことをすればよりよい結果を出せるのか検討しやすいという(福吉は「レポートが送られてくるのが早すぎる」と主催のDMM GAMESを称賛していた)。

定量データは、基本的には大会番組の視聴者数と視聴時間である。これは配信プラットフォームに記録されるのでまとめてレポートするのはそう難しくなく、どこのオーガナイザーも必ず実施している(と僕は信じている)。

視聴に関する定量データがあると、例えば大会協賛とディスプレイ広告を比べて、注視時間(視聴時間)やクリック数(視聴者数)などの1単位あたりの費用がどれくらい効率的かを示せる。PJSでは非常によい数字が出ているそうで、サッポロビールとしてもeスポーツへの協賛をより推進する手がかりとなっているとのこと。

一方、定性データは調査・集計しているオーガナイザーが実は多くない。これはだいたいが視聴者やファンへのアンケート調査のことだ。僕が知るところではPJS以外ではあまり実施されていないように思うが、アンケートでは「スポンサーを知っているかどうか」「大会を通じてスポンサーの印象がどう変わったか」などの質問が用意されている。eスポーツが強みを持つエンゲージメントの観点からすれば、こうした定性データが重要である場合は多い。

福吉はほかの大会やリーグでもアンケート調査を実施すべきだと話すが、僕もまったく同意見だ。上述の視聴データからではスポンサーへの好意度が分からないので、スポンサーのいるチームや大会はアンケート調査をできるだけ実施すべきであるし、そのための方法論も業界として体系化していくことが望まれる。集まった回答がポジティブであれネガティブであれ、具体的な声ほど改善の役に立つものはない。賛否に程度をつけて数値化もしておけば、次回の調査と比較もできる。

また、福吉が社内理解の促進や協賛効果の把握において重視するのがSNSの投稿である。大会に際してチームのファンや視聴者がスポンサーの商品を撮影し、Twitterに投稿しているのだ(下記は僕が先日ツイートしたもの。皆さんはぜひPJSやサッポロビールなどの検索に引っかかりやすい言葉を入れるべきである)。

この現象は大会の開催をサポートしてくれたスポンサーに視聴者が感謝を表明すると同時に、観戦時にスポンサーの商品をお供にする風潮ができ上がりつつあることを示している。これほど端的にスポンサーとシーンの良好な関係を表す証拠はない。こんな風景が当たり前になればとても素敵だ。

福吉自身も、こうした投稿を見つけて初めて「家で晩酌をしながらテレビで野球を見るのと同じだ」と気づいたそうだ。それまではスポンサーへのエンゲージメントが高まる瞬間として、オフラインの会場で大勢の観客が集い、大声を上げて熱狂する様子を主にイメージしていたという。

ただし、福吉は協賛がまだ直接的な売上に大きく波及しているわけではないと注釈する。理想は「協賛すれば売上が増える」ことだとしても、現状のeスポーツシーンの規模では簡単ではない(計測もなかなか難しいだろう)。だからこそオーガナイザーやチームは協賛によって何が可能になり、どんな結果を得られたのか(視聴者数が伸びたのか、関連ツイートが増えたのかなど)をスポンサーに報告する必要がある。アンケート調査やSNS投稿の集約はその一助となる。

※とは言っても注目したい事実として、福吉は黒ラベルの検索関連ワードに「ゲーム」が挙がってきていることを教えてくれた。ヱビスなどほかのブランド商品では起こっていないとのことで、eスポーツシーンへの協賛が功を奏している結果の1つと言えるだろう。

チームとスポンサーの関係

ところで、サッポロビールはレバンガ☆SAPPOROのオフィシャルサポーターも務めている。福吉はスポンサーとチームのあり方についても、一過性のものではなく中長期で関係を作っていく必要があると説く。

こういうことが一緒にできないか、チーム側から一緒にやりたいことはないか、と意見を持ち寄って施策を検討するそうだ。このとき、チーム側からブランドを訴求するアイデアを出してもらえると、いい関係が作れているなと感じるという。

福吉はチームとスポンサーがプレイヤーを選手としてのみならず、彼らの将来のことも考えて人間としても成長できるように手助けするべきだと強調する。そのために先のアンケート調査も有効だ。選手に対するコメントを、SNSの投稿だけでなくしっかりまとまった形でも届けることで、モチベーションに繋げられるのだ。

時に辛辣な意見もあるかもしれないが、SNSでの一言二言ではなく意見や感想の理由もちゃんと書いてもらえば、大会の際に選手がどう見られているのかを客観的に評価することもできる。

こうした複数の視点から選手を評価できないと戦績だけですべてを決めてしまうことになり、負けが込んだ選手は次々と入れ替えられてしまう。それはチームにとっていいことではないし、ファンにとっても嬉しいことではない。チームやオーガナイザーにこうした取り組みの推進をお願いしたいとのことだった。

スポンサーがシーンのためにできること

もう1つ、サッポロビールが既存顧客向けにもeスポーツを知ってもらおうとしていることを紹介しておきたい。

サッポロビールではCHEER UP!というオウンドメディアを運営しており、そこで同社の商品がさらに好きになるようなさまざまな記事コンテンツを掲載している。同社で働く人への取材だったり、ビールの楽しみ方だったり。下記のようなeスポーツ関連のコンテンツもある。

福吉はもっとeスポーツ関連のコンテンツを増やしたいと話す。既存顧客にeスポーツを知ってもらうことでシーンが拡大すれば、結局は自社のメリットになるからだ。

これほどまでにeスポーツの文脈を理解しようと努力しながら、さらにシーン発展のためにいろんな協賛・協力の形を模索する心意気が感慨深い。

協賛タイトルの選定理由

同社が既存顧客にeスポーツを知ってもらううえで懸念したのが、ルールの複雑なeスポーツタイトルだと紹介しづらいという点だ。これは『PUBG』(PJS)が選ばれた背景の1つでもあるが、すでに『Shadowverse』のチームに協賛していたため、そこにまたルールが複雑なタイトルを持ってくるのは避けたほうがいいのではと考えたそうだ。

試合の過程や勝敗の分かりやすさから、シューターゲームが俎上に載るのは不思議ではない。シューターゲームはたいてい、より多く敵を倒すか相手を全滅させれば勝ちだ。バトルロイヤルなら最後まで生き残ればいい。

こうなると必然的にタイトルが絞られてくるものの、ビールメーカーとして暴力のイメージが強いタイトルは避けなければならない。シューターゲームはどうあれ「人を撃つ」ため、描写や設定がリアルすぎるのもNGだ。また、主要プレイヤーの年齢層が低いタイトルも避けたい。

そこで目星をつけたのが『PUBG』だったという。福吉はほかにもシューターゲーム以外で盛り上がっているタイトルを検討したそうだが、とりわけ憂慮したのが大会番組のチャット欄やコミュニティ内で交わされる言葉の質だった。汚い言葉や悪口、ヘイトが並んでいる横に自社のブランドが掲示されるのはよろしくない。既存顧客に知ってもらうのも憚れる。

例えばディスプレイ広告においても、広告主はエログロ暴力や過激思想が含まれるコンテンツやサイトに広告が表示されないように配慮する。サッポロビールはブランドセーフティの観点から、プレイヤーや視聴者の間で荒い言葉が日常的に交わされるタイトルは避けなければならなかった。

その点で、PJSは基準をクリアしていた。視聴者の年齢層がやや高めだったのもあるかもしれない。同社はいま、PJSや視聴者ととてもよい関係を構築できている。福吉はしきりにDMM GAMESの頼もしさを強調する。

そういえば、福吉はシューターゲームを「『エクスペンダブルズ』のような映画が好きなら誰でも分かる」と説明してくれたのだが、これはSunSisterに所属するCrazySamのツイートから拝借したそうだ。

直接協賛していないチームの選手が夜中の2時に投稿したツイートがインタビュー中にぱっと出てくるあたり、福吉の情報収集力と見識の深さには恐れ入るものがある。

ファンに選ばれる存在に

さて、ここまで福吉がいかにチームや大会に真剣な眼差しを向け、スポンサーとしてシーンと伴走しようとしているかを述べてきた。

途中で紹介した既存の記事やインタビューと重複するところもあったと思うが、この機会に読み直してもらえると福吉やサッポロビールへの理解がさらに深まるだろう。そのうえで大会を観戦しながら黒ラベルを飲むと、きっと特別な味わいがするのではないだろうか。

最後に、福吉が現在目指すゴールを紹介して記事を終えたい。

サッポロビールはこれほどに盤石な考え方と柔軟な態勢で協賛に取り組んでいるとはいえ、真に求める結果が出ているかといえばそうではない。まだまだ道半ばなのだ。福吉はまず実現したい目標として、武道館で黒ラベルを飲みながら大会を観戦してもらうことを挙げてくれた。

また、「サッポロビールはeスポーツシーンにおいても選ばれる存在でありたい」とも。福吉が講演などで繰り返すように、「eスポーツのファン」はいない。個々のタイトルや選手のファンがいるだけだ。そしてそういうファンは、プレイするタイトルや応援する選手をみずから見つけ出し、選んでいる。ビールを飲む人も、自分の好みに合ったブランドを選ぶ。その共通点は、一度選んでもらえれば長い関係を作れるということである。

日本では娯楽がネガティブに捉えられ、ゲームもお酒も悪いものとして見られることが少なくないが、eスポーツへの協賛を通して「楽しいことっていいよね」と気軽に言える社会にしたいと福吉は話す。これからどんな面白い仕掛けを見せてくれるのか、次の一手が待ち遠しい。

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