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これからesportsシーンに参入したい企業に知ってほしいこと(スポンサード編)

今回はesportsに関心がある一般企業が国内のesports市場に主にスポンサーとして参入する際のポイントをまとめる。一案として参考にしてもらえれば幸いである。

【目次】
簡単に金がなる木はない
そもそもesportsである必要は?
esportsの特徴は人とコミュニティ
esportsシーンにスポンサードしてどんないいことがあるのか
誰・何にスポンサードしたらいいのか
スポンサード対象の選定
スポンサーに求められていること
esportsを体験してほしい

※esportsシーンとはesportsを取り巻く環境や人のことを指す(タイトル≒ゲーム、大会、イベント、チーム、選手、コミュニティなど)。一般企業とはesportsに関連する取り組みや事業を行なっていない企業を指す。

※なお、esports市場・業界を概観したい場合には「eスポーツ産業に関する調査研究 報告書(2018年3月)」に目を通してもらいたい。これだけでだいたいのことがカバーできる。

簡単に金がなる木はない

auや三井住友カード、おやつカンパニーなど日本人なら誰でも知っているクラスの企業がesportsの大会やチームをスポンサードする事例が増えてきて、いよいよこの市場も成長路線に乗っかったように見える昨今。

しかし一方で、「eスポーツ産業に関する調査研究 報告書」によると、2017年の国内esports市場規模は5億円未満とのこと。衝撃的なほど小さい。

ただ、これにはesportsがスポンサーにもたらしている利益や、esportsタイトルの売上、制作会社や代理店の売上などは加味されていないので、実際にesports周りで動いているお金はもっと多いと推測される。

※僕が推定する規模は、まるっと含めて1700億円くらい。ただしesportsタイトルとなった『パズル&ドラゴン』や『モンスターストライク』だけで1500億円、『Shadowverse』が100億円と想定)。

きちんと調査されて出てきた5億円未満という数字は夢のかけらも感じさせないが、直近ではバトルロワイヤル系タイトル『Fortnite』の2年間の賞金が1億ドルと発表され、国内でもカードゲーム系タイトル『Shadowverse』の世界大会で100万ドルの賞金が宣言されている。

さらにesportsの話題が大手メディアで取り上げられる機会が増え、大勢の若者がこぞってプレイしているらしいという情報がまことしやかに語られている。そこに金のなる木があるのではと考える企業は(きっと)増え続けているだろう。

その流れは僕のようなesports好きにとって非常に望ましいが、一般企業が安易に手を出すと火傷をして終わるだけというのもesports。うまくやれれば相応の利益を得られるものの、そのための知見を新規参入企業が見つけにくい現状がある。

また、一般企業にとってesportsはあくまで手段である。esportsが流行っているらしいからesportsを使うのでは手段と目的が入れ替わっており、間違いなく失敗の道を辿ることになる。とりあえずesportsに絡み、何の成果も出せずフェードアウトした企業を僕はいくつも見てきた。

そこで、この記事ではesportsに関心を持ち始めた企業が大会やチームにスポンサード(協賛)する際にどんなことに気をつければいいのかをまとめていく。

※チームオーナーになったり、大会の運営や制作を請け負ったり、メディアを運営したりする「esports事業」には異なる知見が必要なので、今回は言及しない。

そもそもesportsである必要は?

どんな企業でも目的があって戦略を練り、施策を行なう。その目的にとってesportsが本当に必要なのかはよく検討しないといけない。なにせ、esports市場はゲーム市場の片隅、本当にこじんまりとした位置を占めるにすぎないからだ(国内ゲーム市場は2兆円)。

また、上記報告書によればesports大会やイベントの視聴者数(プレイヤーではない)は158万人と推定されている。僕の感覚だと多すぎるが、では実際にはどうなのか。

ファンの多いトッププレイヤーが参加するプロリーグやプロツアーのおおよその同時視聴者数(2018年4月~5月頃)を例示する。いずれも僕が自分で確認した数字だ。

League of Legends Japan League(LJL)
約1万人~2万5000人
※ライアットゲームズが提供する『League of Legends』のプロリーグ。開幕戦や優勝決定戦は視聴者数が多い。

RAGE Shadowverse Pro League
約1万人
※Cygamesが提供する『Shadowverse』を用いた、CyberZの大会ブランド「RAGE」の枠組みで行なわれているプロリーグ。

ストリートファイターV プロツアー
約5000人~1万人
※CAPCOMが提供する『ストリートファイターV』のツアー大会。国内外のいろんな単発大会がこの枠組みに入っている。

クラロワリーグ
約6000人
※SUPERCELLが提供する『Clash Royale』のプロリーグ。

コール オブ デューティ ワールドウォーII プロ対抗戦
約4000人~6000人
※Activision Blizzardが提供する『コール オブ デューティ ワールドウォーII』のPlayStation 4版のプロリーグ。国内パブリッシャーであるソニー・インタラクティブエンタテインメントが主催。

レインボーシックス シージ 日本プロリーグ
約4000人~6000人
※Ubisoft Entertainmentが提供する『レインボーシックス シージ』のプロリーグ。

これらは国内esportsシーンの中で見ればトップクラスの数字であるが、物足りなさを感じる企業も多いだろう。たしかにesportsプレイヤーやファンの大半は若年層なので、そこに魅力は感じられるかもしれないが、同時視聴者数の最大規模である2万人にリーチする手段はほかにいくらでもある(それに各チームや選手のファンは視聴者数より少ない)。

若年層への認知度を高めたいなら、モバイルアプリやYouTube、SNSに広告を出稿したほうがいいだろう。esportsのプレイヤーやファンよりユーザーが圧倒的に多いし、ターゲティングも容易だからだ。

視聴者数(≒ファン数)から分かるように、esportsは認知拡大や新規顧客獲得にはあまり向いていない。なので、自社が掲げる理念や達成したい目的にとって、esportsが本当に最適な選択肢なのかは充分に検討してほしい。

※プレイヤー人口から考えると視聴者数が少なすぎるタイトルもあり、大会視聴に関してはこれからの伸び代に期待というところだ。例えば『Clash Royale』世界大会の日本予選には数万人が参加しているし、大規模大会RAGEの『Shadowverse』部門は数千人もが一堂に介して予選に参加している。

esportsの特徴は人とコミュニティ

もちろん、自社の目的に合致するかの判断をするためにはesportsについて詳しく知る必要がある。

esportsの最たる特徴は、ゲーム会社やesportsタイトルではなく、人が中心にいることだろう。プレイヤーやキャスターなど、ゲームに対して何かしら秀でた能力を持つ人たちがシーンの真ん中におり、その周りを囲うようにファンがコミュニティを形成している。

esports界隈には各タイトルに大小さまざまな規模のコミュニティが存在する。そのコミュニティの熱量たるや恐ろしいもので、ゲーム会社の支援なしで自主的に大会やイベントを開催したり、ゲームの攻略情報サイトを運営したりするなど、自分が好きなタイトルを楽しみ尽くすために全力を出す人たちが集まっている。

一般企業など外から見ると、こうしたコミュニティは可視化されていないことも多いのでどこにいるのか分かりづらい。そのため、ついesportsタイトル自体のプレイヤー人口(規模)や大会の賞金額に目がいきがちだろう。しかし、まずesportsは人とコミュニティが中心にあるということを知ってもらいたい(参考記事「なぜesportsにおいてコミュニティが重要なのか——企業とコミュニティの理想的な関係について」)。

なお、プレイヤー人口とコミュニティの有無や規模は相関するとは限らない。プレイヤー人口が多く認知度が高くても、コミュニティがほとんど育っていないタイトルもある。

esportsシーンにスポンサードしてどんないいことがあるのか

さて、一番大事な話である。esportsが認知拡大や新規顧客獲得に向いていないとしたら、一般企業はスポンサードすることでどんな恩恵を受けることができるのか。

ポイントは、コミュニティに注目すること。多くの場合、トッププレイヤーやゲーミングチーム、大会運営団体がコミュニティリーダーの役割を果たしており、その周りにファンが集う構造になっている。

彼らにはタイトルへの熱い想いがある。自分が好きなタイトルのプレイヤー人口を増やし、より多くの人をコミュニティに巻き込み、大きなムーブメントにしたいという目標を持っている。そうなればなるほど、楽しいからだ。

彼らを動かすのは楽しみたいという動機である。中には稼ぎたい、有名になりたい、ファンがほしいという動機も持っている人もいるだろうが、楽しみたいという動機は誰にでも共通している。

一般企業はそこに寄り添うことで、言いかえれば一緒に楽しみながらコミュニティを育てていくことでファンの信頼を得られる。そうすると、自社を熱量のある人たちに支えてもらえるようになる。esportsシーンのファンが、自社のファンとなるわけだ。コミュニティが育てば、その基盤はより大きくなっていくだろう。

その効果を計測するにはNPS(他者に勧めたい気持ちの度合い)やLTV(ファンが生涯においてもたらしてくれる総価値)といったブランディング周りの指標が役立つと思う。つまり、esportsは一般企業にとってファン作りやブランディングに効果を発揮しうるのである。

言うまでもなく、数千数万人のファンをいきなり作ることはできないし、長期的にその規模にするのも難しいかもしれない。だが、数百人のコミュニティであっても心から応援してくれるファンの基盤を持てば、そこから口コミが広がる可能性も高まる。

esportsシーンのファン、あるいはゲーム好きに自社のファンになってもらうことにどんなメリットがあるのか。それを考えることが、esportsシーンにスポンサードをするための検討材料となるだろう。

誰・何にスポンサードしたらいいのか

気をつけたいポイントは、短期的な売上を目標にしても絶対にうまくいかないということ。例えばありがちな失敗として、大会への単発の協賛や、1回きりの大会主催がある。それがきっかけでいきなり売上が伸びることはまずないし、リーチもほかの手段に比べてたいしたものではない。まったく意味がない。

はっきり言って、esportsと短期戦略の相性は最悪だ。本当に意味がない。「1回だけ大会に協賛してみたけれど効果がなかった、もうesportsはいいや」となれば、不幸しか生まれない

だから、長期戦略が重要だ。いかに腰を据えてじっくり取り組めるか。いま大きな効果を上げているデバイスメーカーのLogicoolも、5年前からesportsシーンへの協賛に取り組んでいる。せめて2、3年は予算を組まないと効果は見込めなそうだ。

もちろん、Red Bullのように予算が潤沢な企業ならみずからコミュニティリーダーになればいいが、そうもいかない企業のほうが多いはず。勢いよくチームを立ち上げて「esportsに参入だ!」とリリースを出し、そのまま消えていった企業は数知れないため、自分たちが率先してファンを作らなければならない戦略は最初はやめておいたほうが無難だ。

なので、esportsに初めて取り組むような一般企業は、まずは選手やチーム、大会運営団体といったコミュニティリーダーをある程度長期間サポートする方向で検討するのがいいだろう(参考記事「なぜ~」)。

大会やリーグへのスポンサードも、長期戦略として組み込めるなら有効だ。繰り返すが、1回きりの刈り取り目的では何の意味もない。長く取り組み愛されるための戦略が必要である。

スポンサード対象の選定

では、企業はスポンサードする大会やチーム、選手をどのように選べばいいのだろうか。3項目に分けて考える。

・タイトルの将来性
・コミュニティやチームの性質と将来性
・選手や関係者の人柄と将来性

タイトルの将来性
当たり前だが、プレイヤー人口が減り続けているタイトルを選んでスポンサードするのは得策ではない。少なくとも現状維持が見込めるか、将来的な増加が予想できるタイトルにしたほうがいい。

その目安としては、タイトルの提供会社(メーカー、パブリッシャー)がどれくらい新規プレイヤーの獲得に力を入れているか、esportsシーンに予算を割いているかを見る。既存プレイヤーへの施策やゲームのメンテナンスの頻度、情報発信の頻度、不祥事への対応もポイントだろう。

ただ、基本的には国内で話題に上がるタイトルであれば上記はだいたいクリアされている。

コミュニティやチームの性質と将来性
各タイトルにはいろんなコミュニティやチーム(団体)があるが、活発さや影響力には差がある。大会やイベントをどれくらいの頻度で開催しているのか、それらへの参加者はどれくらいか、SNSやブログでの情報発信はどうかなど、まずは外から観察する。団体によってはあまり情報発信されていないこともある。

また、団体の理念や方向性のチェックも欠かせない。身内でわいわいやるのが目的の団体もあるし、社会貢献しようとまで考えている団体もある。世界一を目指していたり、新規プレイヤーを増やそうとしていたりする団体もある。自社にとってどういう性質のコミュニティが合っているのか検討してほしい。

団体の規模については、すでに多くのファンがいる団体もあれば、これからの将来的に期待できる団体もあるだろう。企業としては前者をスポンサードしたいところだが、引く手数多で自社の存在が目立たない場合もある。そんなときは小規模の団体を一緒に長期にわたってコミュニティを育てていくのもいいだろう。

選手や関係者の人柄と将来性
esportsシーンが未成熟だからかは知らないが、問題や不祥事を起こすプレイヤーやチームが非常に多い。直近で大きな話題となったのは『League of Legends』のプロチームであるPentagramによる在留カード事件。これ以外にもプロ選手による差別発言や暴言、問題行動など、いろいろある。

そうしたチームや選手をスポンサードするのはリスクでしかなく、何のメリットもない。なので、関心を持った選手やチームの過去の言動についてはできるだけ詳らかにチェックしたほうがいい。

選手やチーム運営陣の人柄についても、直接本人と会って確かめるのはもちろん、その人の部下の話や別チームからの評判にも耳を傾けるべきだろう。スポンサーなど権力・権限を持つ人に対しては人当たりがよくても、部下には暴言が当たり前という人もいるからだ。それが露呈した瞬間、チームへの信頼は地に落ち、スポンサーも影響を被る。

このあたりは調べるのが難しいかもしれないが、SNSでの発言や生放送配信をチェックしたり、同じタイトルのチームや関係者に広く話を聞いたりすることで人物像やチーム像を素描できていくだろう(シーンへのスポンサーを考えている企業と話をしたくないチームはほとんどないと思われる)。

選手の将来性については、とりあえず直近の大会の結果を見ると早い。また、情報発信に注力しているか、ファンとコミュニケーションしているかもチェックする必要がある。特に、みずからファンを作ろうとしているかはスポンサーにとって最も重要だろう。これらはチームについても言える。

スポンサーに求められていること

企業はスポンサード対象に要望を押しつけるのではなく、あくまでも求められていることに応える形でサポートすることを主眼に置いてほしい。もちろん、できることとできないことはあると思う。それでもやはり、コミュニティに寄り添ってほしい

そしてまた、例えば支援しているチームがちゃんと情報発信を行なわなかったり、問題を起こしたりしたら、厳しい目をもってきちんと指摘してもらいたい。プロゲーマーなるもの、プロチームなるものが起こす問題に、ファンも辟易としているのだ。

冒頭で旨味が少ない市場だと書いたが、国内でもモバイルゲームを中心に以前とは考えられない勢いでesportsシーンが加速している。次々に新しいesportsタイトルが登場してはプロチームが誕生している。そこに一般企業の目が向き、シーンと一緒に成長を目指してもらえるなら、ファンとしてはこれ以上のことはない

esportsを体験してほしい

ひとまず以上を押さえておけば、大火傷をする確率はかなり押さえられるだろう。

最後に述べておきたいのは、メディアや人づての情報を鵜呑みにせず、自分自身でesportsを体験してもらいたいということだ。下記のことなら、たいしたコストもなく濃くて確かな情報を手に入れられる。

ゲームをプレイする。
トッププレイヤーやチームを調べる。
ゲームの動画や生放送を見る。
大会や番組を視聴する。
大会を現地で観戦する。
大会に参加する。

スポンサードしたいがゲームをプレイしたことはないし大会を観戦したこともない、そんな企業にコミュニティは嫌な目を向けるだろう。

どうか、esportsに夢中になっている人たちをその目で直接見てほしい。誰より強くなろうとし、挫折し、ときに栄光を掴むその瞬間を見てほしい。結局のところ、僕が皆さんに知ってもらいたいのはそれである。

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