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esportsシーンの発展に欠かせない大会観戦者を増やすための戦略と施策

LFS 池袋 eSports Arenaの長縄実の言を待たずとも、日本のesports業界ではかねて大会観戦者の増加がesportsシーンの発展と普及に不可欠であると言われてきた。

しかし、具体的に観戦者を増やすにはどうすればいいのか、誰がその責を負えばいいのかといったことはあまり語られてこなかった。当たり前だが、かっこいい大会を開催すれば勝手に観戦者が増えるわけではない

そこには戦略と施策が必要だ。というわけで、この記事ではesportsシーンの観戦者を増やすための検討を行なう。ゲーム会社からファンまで、esportsシーンの発展と普及に観戦者が必要だと感じている人、なぜ必要かはっきりとは分からない人、自分で何をすればいいのか知りたい人に読んでもらいたい。

【目次】 1万2000字
esportsシーンに観戦者が必要な理由
主立ったタイトルにおける観戦の現状
誰がなぜ観戦するのか
誰に観戦してもらうのか
誰がどうやって観戦者を増やすべきなのか
何もしなければ誰も観戦してくれない

※オンラインとオフラインを問わず大会を観戦する人を「観戦者」と呼ぶ。区別が必要な際はオンライン観戦者を「視聴者」、オフライン観戦者を「来場者」と呼び分ける。

※この記事で言うesportsシーンとは「大会を中心とした生態系」を指す。

esportsシーンに観戦者が必要な理由

まず、esportsシーンの発展と普及になぜ観戦者が不可欠なのかを明確にしておこう。あまりにも自明のように思えるが、無視するのが難しい例外「観戦者が不可欠ではないケース」があるからだ(もちろんesportsシーンに関心がないプレイヤーには観戦者は必要ない)。

あるタイトルで小さなコミュニティ大会がたくさん開催されている状況を想像してほしい。そこに集う人は全員が大会の参加者だ。大会の様子を配信しなくても、参加はせず観戦するだけの人が1人もいなくても、きっと盛り上がるだろう。こういう大会はesportsシーンの一部でありながら、観戦者が必要ない(もし大会の盛り上がりを通して新規プレイヤーを増やしたり、既存プレイヤーの活性化を図ったりするなら、観戦者は必要ということになる)。

では、esportsシーンにおいて観戦者が不可欠なケースとは? それは、観戦者の存在が誰かの何らかの利益に繋がるときだ。観戦者が存在すること、増加することで誰が喜ぶだろうか。

もちろん第一はスポンサーだ。スポンサーの目的の1つは大会の観戦者へのプロモーションやブランディングである。

となると、スポンサーを必要とするチームや選手も観戦者がいると嬉しい。特に、ほかのチームや選手ではなく自分たちを観に来てくれる人がいるなら、スポンサーに対して強いアピールポイントとなる(加えて、ゲーム会社やオーガナイザーに活躍の場となる大会を開催してもらうには、彼らの利益に繋がる観戦者が多いほうがいい)。

チームや選手のファンにとっても、自分以外の観戦者の存在は重要だ。なぜなら、応援しているチームや選手の観戦者がいないとスポンサーがつかず、チーム解散や選手引退という悲しい事態を目のあたりにすることになってしまう。

オーガナイザーにとってはどうか。主な収入源がスポンサー収入やチケット収入、放映権収入であることを考えれば、観戦者はなくてはならない存在だ。何かしらの別事業を展開している企業がesports大会を主催するのは自社商品のプロモーションが目的なので、もちろん観戦者がいなくてはならない。

国内外を問わず、ゲーム会社がオーガナイザーの役割も兼ねることが多いが、その場合も同様に観戦者がいないと利益に繋がらない(ここで言う利益は売上のほか新規プレイヤーの獲得なども含む)。ただ一方で、プレイヤーのためのエンドコンテンツとして大会を開催する場合、観戦者は必要ない。ゲームプレイと観戦はいわば競合するところがあるのだ。また、コミュニティもゲーム会社やオーガナイザーに近しい。

大会の制作や運営を請け負うプロダクションは直接的には観戦者を必要としないが、継続的に仕事を受注するには、ゲーム会社やオーガナイザーが大会を開催する理由となる観戦者の存在が欠かせないと言えるだろう。ただし、プロダクションは観戦者の増加を仕事として受注しない限り、そこに直接的な責任を負うことはないし、増加の施策を行なう必要もない。

動画や生放送のプラットフォーマーは、別にesportsシーンの観戦者がいなくなってもそこまで困らないだろう。しかし、広告やサブスクリプションなど主要な収益源は視聴者数に依存するため、大会の観戦者が増えるのは望ましいことだ。

実況解説などキャスターにおいては、立場的にはプロダクションと同様である。とはいっても、たとえ観戦者増加を仕事として請け負わない場合でも、多くの観戦者を呼び込めるキャスターのほうが仕事を発注されやすい。

以上の議論で、実に多くのesportsステークホルダーが観戦者を必要としていることが分かった。esportsシーンをより広く発展させるには、観戦者の存在が不可欠なのである。

主立ったタイトルにおける観戦の現状

それでは次に、国内のesportsシーンを概観し、観戦の現状について把握することにしよう。以下で、7つの大規模大会の同時視聴者数を一覧する。

基本的には2018年に開催された大会で、最高値と見なせるものを採用している。「EVO Japan 2018」のみが誰でも参加できるオープン大会、それ以外は招待制または選抜性となっている。

同時視聴者はその大会がどれくらい注目されているのか、盛り上がっているのかを教えてくれる指標だ。記載しているのは複数プラットフォームで配信された大会番組の同時視聴者数を目視で確認し、すべて合算したおおよその数字である(オフライン開催分の来場者数を扱うと複雑になるので省略した。またAbemaTVは同時視聴者数が分からないので総コメント数から概算)。

また、国内の累計プレイヤー人口も目安として記載している。これには公式発表によるダウンロード数やサードパーティの販売本数データなどを用いた(ダウンロードは1人のプレイヤーが何度も行なっているかもしれないが、区別しようがない)。推定できる場合はアクティブプレイヤー人口も記載した。

加えて、SPP(Spectator Per Player)という指標を採用した(僕が勝手に作った指標)。これは「累計プレイヤー人口に対する同時視聴者数の割合」のこと。これまで1度でも当該タイトルをプレイしたことのある人のうち何%が視聴しているかを表すので、目安程度に見てほしい。

◆League of Legends Japan League(LJL)
同時視聴者数:3万人
SPP:10%

同時視聴者数について、開幕戦やFinalでは3万人近くになり、それ以外の試合だと1万5000人ほど。また、下位リーグのLJL CSは6000人ほど。

『LoL』の累計プレイヤー人口は、Cameronによる推定では2016年3月に28万アカウント。しかし、それより少ない可能性が高いそうで、2016年と2017年の伸びを加味し、30万人と推定した。アクティブプレイヤー人口は約10万人と思われる(Rank人口監視スレより。ノンランクのプレイヤー数を約3割として合算)。

◆RAGE Shadowverse Pro League(RSPL)
同時視聴者数:1万5000人
SPP:0.08%

同時視聴者数について、『Shadowverse』のお祭りイベントである「シャドバフェス!」内で行なわれた開幕戦は1万5000人だったが、以降は1万人~1万2000人ほど。累計プレイヤー人口は公式サイトで1800万ダウンロードと発表されているのでこれを採用(国内外含めての数字かは不明だが、メイン市場は国内)。

現在のアクティブプレイヤー人口はSerdowverse Log(直近対戦数は十数万)とSTEAMCHARTS(直近ピークは1万人)を参考にすると20万人ほどではないかと思う。

◆クラロワリーグ アジア
同時視聴者数――8500人
SPP――0.085%

日本チーム同士の試合では6000人だったが、日本チーム対外国チームだと3000人、外国チーム同士の試合だと1000人ほど。ただ、PONOS Sportsのみかん坊やが登場した対韓国チームの試合は一時8500人にまで増えた。

累計プレイヤー人口はダウンロード数などが公表されていないので不明だが、RSPLの同時視聴者数と『Shadowverse』のダウンロード数を比較すると(1800万:1.5万=X:0.85万)、1000万ダウンロードくらいだろうか。

アクティブプレイヤー人口も不明。けれど、2017年の「日本一決定戦」参加者数は4万1230人と分かっている。予選は5回行なわれたので、各回に約8000人が参加したはず。大規模大会「RAGE Shadowverse Dawnbreak, Nightedge」の参加者数は8000人で規模は同じだ(オンラインとオフラインの違いはあるが)。なので、アクティブプレイヤー人口は『Shadowverse』と同様の20万人ほどだろうか。

◆PUBG JAPAN SERIES βリーグ(PJS)
同時視聴者数――1万2000人
SPP――1.1%

βリーグでは2部リーグといえるClass2があり、こちらは4500人ほどが視聴していた。1部リーグのClass1は有名チームや人気選手が多く、視聴者数も3倍近い。

累計プレイヤー人口は110万人と推定。販売本数2500万本に、日本のユーザーが4.3%を占めることから算出した。

アクティブプレイヤー人口は2017年9月の時点で約30万人とのこと。半年以上前の数字だが、時間経過による漸減や『PUBG MOBILE』のリリースを考慮すると遠からずの数字ではないかと思う。

◆EVO Japan 2018
同時視聴者――4万6000人
SPP――6.6%

いずれも複数タイトルの合計だ。アクティブプレイヤー人口は、日本人参加者2760人に対して「RAGE Shadowverse Dawnbreak, Nightedge」の「(推定)プレイヤー人口に対する大会参加者数の割合(4%)」を用いつつ、大会参加者の割合は他タイトルより高いのではと考え、6万人と推定。

累計プレイヤー人口は開催タイトルの販売本数を足し上げたものになるので、おおよそ70万とした。『ARMS』37万本が飛び抜けて多いが、参加者数はかなり少ない。『ARMS』を除くと、SPPは15%ほどとなる。

◆RAGE STREET FIGHTER V All-Star League powered by CAPCOM(RSFVAL)
同時視聴者数――1万9000人
SPP――15.8%

『スト5』において国内ではTOPANGAリーグ以来の大型リーグ。販売本数は、最新版の『ストリートファイターV アーケードエディション』(旧版所有者は無料アップデート)の販売本数が2月の時点で約1万3000本、旧版が2016年に約8万6000本の販売ということで、2017年の販売本数も考慮して約12万本と推定。

アクティブプレイヤー人口について、EVO Japan 2018の『スト5』部門は国内参加者数が1240人なので、「RAGE Shadowverse Dawnbreak, Nightedge」の「(推定)アクティブプレイヤー人口に対する大会参加者数の割合(4%)」を参考にしつつ、大会参加者の割合をやや高めに想定。およそ2万~2万5000人くらいか。

『スト5』は『スト4』だけのプレイヤーも観戦していると思われるので、シリーズやナンバリングが続いているタイトルは累計プレイヤー人口に比して観戦者が多くなる傾向があると思われる。

◆コール オブ デューティ ワールドウォーII プロ対抗戦
同時視聴者数――6000人
SPP――1.2%

累計プレイヤー人口は国内のPS4版累計販売数43万6000本を参考に。Steam版でも販売されているが、販売本数は不明なので合計50万本とした。

アクティブプレイヤー人口は不明。STEAMCHARTだとPC版の直近30日間のピークプレイヤー数は900人ほどとなっているが、世界的にPS4版が中心。全世界の累計プレイヤー数はPS4版が1月時点で1220万とのこと。

◆現状まとめ
PCやコンソールのタイトルは比較的SPPが高いものの、モバイルのタイトルだとかなり低い。モバイルはプレイするハードルが低いので多くの人が気軽にダウンロードするが、大会を観戦するほどには関心がないということだろうか。逆にPCやコンソールはプレイするハードルがやや高く、その分だけタイトルへの関心が高く、観戦に繋がっていると推測できる。

とはいえ、全体的にSPPは低く、「大会タイトルを知っている、または購入・プレイしたことのある人の数」に対して観戦者数が少ないのは確かのように思われる。

国内にはほかにもesportsとして大会やリーグが展開されているタイトルが多数あるが、ひとまず以上で概観を終わる。

誰がなぜ観戦するのか

なんとなく現状を把握できただろうか。続けて、これらの大会を観ているのは誰で、なぜ観るのかを考えていこう。

◆なぜ観戦するのか
最初に「なぜ」を取り上げる。esportsに関する調査やアンケートはいくつか存在するが、いずれを見ても観戦にあまり焦点が合わされておらず、観戦者がなぜ大会を観るのかははっきりしない。

そこで、スポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査(平成29年11-12月調査)」を参考に、可能性のある観戦理由を列挙してみる。

●好きな選手の応援
●好きなチームの応援
●大会自体が好き
●タイトルが好き
●キャスターが好き
●トッププレイヤーの試合を楽しみたい
●試合を観てノウハウを学びたい
●知り合いが出場している
●周りで話題になっている
●とりあえずチェック
●暇潰し
●たまたま見かけた

現実にどんな割合になっているかはさておき、異論はあると思うが、上位にある項目であればあるほどesportsシーンへの貢献度が高い熱心な観戦者だと言えるだろう。また、上位の項目ほど大会を継続して観戦する動機として強力だ。ステークホルダーとしては、上位の項目を理由に観戦する人を増やすことが望まれる。

これらの項目の割合はステークホルダーが施策を立案する際に非常に重要になるので、できればいま大会を観戦している人たちの観戦理由を調査し、把握しておくほうがいい。その理由こそが大会の魅力であり、訴求ポイントとなる。

◆誰が観戦するのか
では、大会は誰が観戦しているのか。各タイトルにおいて「プレイしたことがある人」と「プレイしたことがない人」に分けて回答させた調査を参考にしたいが、これが存在しないので、とりあえず下記の4つの調査を眺めてみよう。

まず挙げるのが、CyberZの「eスポーツに関するユーザー認知度調査(2017年9月)」だ。これによると、esportsを知っている人のうち26.3%が大会を観戦したことがあるという。

また、CyACの「ゲーマー国勢調査2017春」では79%の人が月に1回は大会を観戦していると回答している。ちなみに、回答者の97%がesportsを知っているが、そのほとんどがesportsタイトルをプレイしたことがあるはずだ。大会やコミュニティ活動を支援するCyACに会員登録している人が回答者なので当然だろう。

それと、僕がTwitterで行なったアンケートも取り上げておく。目につくのは「プレイするが 観戦はしない」が7%と極端に低いこと。また、「プレイして 観戦もする」+「プレイしていないと 観戦もしない」の65%に対し、「プレイしていなくても 観戦はする」は28%で、2倍の差がある(観戦する人自体は93%!)。

なお、回答者は僕のフォロワーかそのフォロワーくらいの隔たりなので、少なくともesportsを知っている人だ。そのためCyACの調査並みに偏りがあると思われる。

最後に、総務省の「eスポーツ産業に関する調査研究 報告書(平成30年3月)」を見ると、「ファミ通ゲーム白書2017」の調査をもとに、回答者全体の12%がesportsを知っており、2%(推計158万人)が大会を観戦したことがあると記載してある。

これらの調査、アンケートをどう解釈するかは難しい。大会観戦に関してはより詳細な調査が待たれるが、ここで妥当と思われる仮の結論を出しておこう。

●esportsを知らない人は観戦しない(という前提で調査が行なわれている)。
●大会タイトルをプレイしていなくても観戦する人が意外といるらしいが、少なくともesportsシーンへの関心はある。
●大会タイトルをプレイしている人は、プレイしていない人に比べてかなり多くの人が観戦するようだ。

まとめると、観戦者の多くは大会タイトルをプレイしている人、あるいはプレイしたことのある人だと考えられる。やや広く言いかえると、大会タイトルのルールや選手などを知っている人だ。そこには昔プレイしていたが現在はプレイしていない人もいくらか含まれるだろう。

誰に観戦してもらうのか

観戦者の傾向がおぼろげながら見えてきたので、ここからは具体的に観戦者を増やす戦略と施策について考えていく。

国内の現状を概観したとき、多くの大会でSPP(累計プレイヤー人口に対する同時視聴者数)が小さいことが分かった。それはまだまだ観戦者を伸ばす余地が残されているということだ。LJLやRSFVALを見る限り10%くらいまでは伸ばせるし、それ以上も可能かもしれない。

といったところで、大会観戦はいったい誰に訴求するのがいいのだろうか。

◆既存プレイヤーへのアプローチ
先の結論から言えば、誰より大会タイトルをプレイしている人(既存プレイヤー)に訴求すべきである。まったくの新規事業でない限り、どんなビジネスもまずは既存顧客のリピート率を高めることから始めるものだ。

ただ、既存プレイヤーの全員が観戦者になることはありえないように思うし、販売本数やダウンロード数の10%にあたる人数が観戦するというのも現実味がない(RSPLをいまの120倍、180万人が観戦する未来はありうるか?)。各タイトルで妥当な目標値を見つけてもらいたい。

離脱プレイヤーへのアプローチ
それと、プレイはしていないが昔プレイしたことがある人(販売本数の大半を占める人たち)にアプローチするのも有効だと思う。彼らを離脱プレイヤーと呼んでおこう。

離脱プレイヤーは少なくとも過去にタイトルに関心を持ったことがあり、ルールも知っている。ゲーム会社としては離脱プレイヤーにはまずプレイを再開してもらいたいだろうが、大会観戦に誘導するのもいいかもしれない。

新規プレイヤーの獲得
SPPを高めるには既存・離脱プレイヤーが相当数いないと難しく、いずれ頭打ちになってしまうので、新規プレイヤーの獲得も重要となる。新規プレイヤーが増えればアプローチ対象が増えるため、観戦者数を増やせる可能性が高まる。

しかし、そもそも新規プレイヤーを獲得し続けないとタイトルが死んでしまうので、観戦者数の増加とは並行して行なっていく必要がある。esportsシーンの存在が新規プレイヤーの獲得に繋がると一石二鳥で幸いであるが、これは『LoL』の失敗で明らかになったように、いまの日本では厳しい方法だと思われる。

非プレイ観戦者の存在
ところで、プレイしたことがなくても観戦する人(少なくともシーンのことは知っていて、ルールもなんとなく把握している人)がいる。とりあえず非プレイ観戦者と呼んでおくが、この人たちは参戦しているチームや選手のファンであることが多いと思われる。僕のように盛り上がり具合をチェックするために節操なく大会を観戦している人は少数派だろう。

非プレイ観戦者を作り出すのは案外難しい。『スト5』のように大規模な盛り上がりや飛び抜けて魅力的な選手など、よほどシーンに惹きつける要素がないと一顧だにしてもらえない。とはいえ、アプローチ施策についてはのちほど議論するが、非プレイ観戦者の層を厚くするのは大事だし、「観戦者を増やさないといけない」と発言する人はこの層を意識している場合が多い。いわゆる動画勢だ。

シーンやルールを知らないと観戦しない
よく言われることだが、esportsタイトルのほとんどはルールが複雑なため、大会や試合は一見さんお断り状態になっている。

また、esportsシーンには地域性がほとんどないに等しいし、esportsシーン外でチームや選手を知るきっかけもまだ極めて少ない。esportsを知らない人が知るきっかけ自体が少なく、ましてや観戦してもらえるようになるのは恐ろしく難しいと言わざるをえない。僕が「esportsシーンを知らない人」をターゲットに挙げなかったのはそういう理由による。

総じて言えば、esportsの認知度は高まってきていても、大会タイトルのシーンやルールを知らない人に観戦を訴求できる段階ではない。別のタイトルのプレイヤーにすら観戦だけを推奨するのは難しいだろう。観戦より先に当該タイトルのプレイヤーになってもらう必要がある。

なればこそ、いま観戦を訴求すべき対象はアクティブな既存プレイヤーと、ルールを知っている離脱プレイヤーである。一足飛びにesportsシーン外に飛び出すのはお勧めしがたいが、チームや選手においては情報発信次第でシーン外に飛び出していくことは可能だし、『スト5』のようにうまくいっている選手もいる。

誰がどうやって観戦者を増やすべきなのか

さて、ターゲットが分かったので、観戦者を増やしたい人たちがどうすればいいのかを考えていく。施策(行動)をすべき主要なステークホルダーはゲーム会社、オーガナイザー、プロダクション、チームと選手、ファン、キャスターである(スポンサーは施策のためにお金を出してくれている存在だが、積極的に情報発信している企業が多い。ありがたいことだ)。

これまでのまとめになるが、既存プレイヤーと離脱プレイヤーに対し、esportsシーンの何かしらを好きになってもらうことが、観戦者を増やす道の1つである。

「何かしら」とは重点的にアピールすべきコンテンツであり、既存の観戦者へのアンケートで把握できるだろう。「なぜ観戦しないのか」ではなく「なぜ観戦するのか」を明らかにするのが肝である。

リソースがない? それならどうやってesportsシーンを発展させるのか?

※愛されるSNS運営方法や取り上げられやすいプレスリリースの作り方など、個別の施策はケースによって手法が異なる。それらの知見は探せばすぐ見つかる。

ゲーム会社の立場から
ゲーム会社は既存プレイヤーと離脱プレイヤーに訴求できる最も強力な存在である。ゲーム会社の積極性なくして観戦者の増加は見込みづらい。だから、とにかくゲーム会社に全力で取り組んでもらいたいと思う。

いまではどのタイトルでも当たり前になってきたが、ゲーム会社には公式大会かコミュニティ大会かを問わず、あらゆる大会の情報を公式サイトやSNSで発信してもらいたい。ゲーム会社によってはランチャー(ゲームクライアント)やゲーム内ニュースで大会の配信URLをお知らせしたり、プレイヤー宛てに告知メールを出したりしている。ウェブメディア宛てにプレスリリースも出したほうがいい。

特にSNSはプレイヤーとの重要な接点なので、適当に運営したり、いかにも事務的な投稿をしたりするのは望ましくない。きちんと専任の担当者を置き、プレイヤーやファンと交流しながらシーンの情報をシェアしてもらえる関係を作ってもらいたい。

また、離脱プレイヤーに対して特典を用意してゲームの再開を促す施策を行なうことがあると思うが、その際に大会の盛り上がりや注目ポイントなどを伝えて、非プレイ観戦者になるよう誘導する施策も行なってみるといいかもしれない。

場合によっては大会の告知に広告を利用する手もあるだろう。例えばTwitterなら人気選手やインフルエンサーのアカウントに紐づけた広告を打てるし、YouTubeならゲーム好きに動画で大会のことを伝えられる(動画広告は若年層の態度変容に有効だ)。ただ、LJLがかつて渋谷駅周辺で行なった不特定多数向けの街頭広告はあまり意味がなかったように思う。

発信材料(コンテンツ)としては、大会情報はもちろん、選手インタビュー(記事、動画)や大会のハイライト動画、レポート記事などが使える。大会をやりっ放しにせず、終了後もプレイヤーやファンに大会の魅力を伝え続けないと興味を持続してもらえない。

それと、優勝したり活躍したりしたプレイヤーやチームを取り上げ、スターにする取り組みも行なってほしい。この取り組みで参考になるのは『Clash Royale』、クラロワリーグだろう。

意外と忘れがちかもしれないが、ゲームのプレイと大会観戦は可処分時間を奪い合う競合の関係にあるということだ。そのバランスをどうやって取ればいいのか、ゲーム会社としては充分検討する必要がある(大会を3時間観るより、自分で3時間プレイするほうがいいと考える人は多いと思われる)。

※ケイン・コスギや歌広場淳のような、もともとファンを抱えるesports好きに協力してもらうのも一手だろうが、飛び道具に頼りっぱなしでは足元を掬われる。

オーガナイザーの立場から
やるべきことは基本的にはゲーム会社と同様だ。

だが、ゲーム内に手を加えることは難しいので、ゲーム会社に掛け合ってゲーム内告知ができるようにしないといけない。上記のような施策をオーガナイザーが行なうためには、ゲーム会社が抱えるプレイヤー情報を活用したいと提案する必要があるだろう。

また、チームや選手と連携した情報発信も必要になる。オーガナイザーによる大会情報の投稿を出場チームや選手にRTさせる、試合の配信をさせる(PJSで実践されている)など、こうした積極的な連携を増やすことで、既存プレイヤーや離脱プレイヤーに大会情報が伝わる可能性が高まっていく。

最近はゲーム会社やオーガナイザーがウェブメディア(っぽいサイトやページ)を作る動きもあり、情報発信に力を置く企業が増えてきた印象だ。

プロダクションの立場から
ゲーム会社やオーガナイザーから請け負う仕事の範囲にもよるが、プレゼンの際にはPRやSNS運用も提案したり、クライアント側できちんと情報発信が行なわれるかどうかを確認したりしてほしい。

どれだけいい大会やサイト、映像を作っても、誰も観てくれないのなら甲斐がない(まあお金はもらえよう)。できればプロダクションにはPR周りも含めた範囲で受注し、制作から発信まで一貫した仕事をしてもらいたいが、会社としての機能にもよるので一概には言えない。

チームと選手の立場から
スポンサーの名前を背負う自分たちが出場する大会について情報発信しないチームや選手が存在するだろうか? 観戦者のみならずプレイヤーがいなくなれば用済みになるのは自分たちだ。ファンを増やすための具体的な施策は「商品としてのプロゲーマーをより魅力的にするための戦略と施策」で書いたので、参考にしてほしい。

発信するコンテンツとしては、大会がいつ開催されるのか、どこで配信されるのかといったことだけでなく、大会に臨む自分自身のことも有効だ。試合にどんな気持ちで臨むのか。勝ったのか負けたのか。結果に対してどう思うのか。これからどうするのか。大会中にどんな出来事があったのか、誰と何を食べたのか。

こうした事柄を一言二言だけツイートしている選手は多いが、積極的に詳しく発信している選手はとても少ない。選手には自身のあらゆることが発信する価値のあるコンテンツになりうるのだと自覚を持ってもらいたい。

ファンの立場から
実は最も大事なのがファンの行動だ。ゲーム会社や選手から発信された情報をシェアするのはファンであり、実際に大会を観戦するのもファンである。ファンが行動しなければ、観戦者は増えていかない。

1人のファンができることは、たしかに限られている。しかし、その1RTがesportsシーンを少しだけ広げる。その連鎖がさらなる拡大へと繋がっていく。ファンの周りには、ファン予備軍がたくさんいるだろう。その人たちに向けて、ぜひシェアなり情報発信をしてもらいたい。

選手紹介や大会の感想をブログで書いている人もいる。書かれた側(大会関係者)にとってこれほど嬉しいことはない。だから、ファンには自分の好きなタイトルについて、好きなチームや選手について、感動した大会について、もっと書き残してほしい。もちろんツイートだけでもいい。それが関係者の強烈なモチベーションになる。

ファンの力は偉大だ。

キャスターの立場から
キャスターはやや特殊な立場にいるが、選手やファンと同じような情報発信が望ましいだろう。実際、esportsのキャスターはいまのところプレイヤー出身である場合がほとんどなので、もともとファンがいたり、新しくファンができたりしやすい。試合を観る持ち前の観察眼を通した情報発信に期待したい(実践している人は少ないが、積極的にやればクライアントも仕事を依頼しやすくなるだろう)。

メディアやプラットフォーマーは?
最近ゲームメディアがesportsシーンを取り上げることが増え、「eスポーツの普及に向けて選手とメディアができること」というセミナーも開催された。たしかに大きな拡散力を持つメディアに情報発信してもらうことは有用だが、いまのところメディアは大会の観戦者が増えようが減ろうが関係ない。

また、プラットフォーマーにしても同様だ。esportsは数多くあるコンテンツの1つでしかないので、大会の観戦者が増えるのは嬉しいが減ってもそこまで困るものではない(esportsに強く依存しているプラットフォーマーは別だが)。むしろ、ステークホルダーがいかにメディアやプラットフォーマーを利用するかという点が重要だろう。

何もしなければ誰も観戦してくれない

以上の議論は、分かっている人には当たり前のことだ。なのになぜこんなことを長々と書いてきたのかというと、上記のような基本的な事柄をぶっ飛ばして謎の空中戦を展開し始めている企業や人が(シーンの発展に伴い)増えてきたように見受けられるからだ。

esportsシーンを支えているのはプレイヤーであり、ファンであり、コミュニティだ。彼らが大会を観戦するからこそ、シーンが発展していく。ステークホルダーたちが何もしなければ誰も大会なんて観戦してくれない。何もしないのに観戦してほしいとは虫がよすぎるだろう。ぜひ日本のesportsの将来のために、戦略的に動いてほしい。

たとえ数千数万人でなくても、数十数百人であっても大会を観戦する人がいるということは、そこに観戦者を惹きつける何かしらの魅力があるということ。大会の演出か、それとも選手の人柄か。そうした魅力を見つけ、押し出していけば、既存プレイヤーや離脱プレイヤーだけでなく、たまたま大会を観た人の心も射止められるかもしれない。

とりあえず、どんな人もesportsが好きな個人として、まずは目に入ってきた大会情報をシェアしたり、大会の感想をツイートしたりするところから始めよう。

※2018年6月7日:「未プレイ観戦者」を「非プレイ観戦者」に訂正。

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