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不動産の行方 12/7

この日は、午前中、自宅で、遺産の整理がまだな伯母の書類を整理していたところ、その中から一通の封書を発見する。

それは、平成十七年にうちの母が宅地造成を見込んで買ったものの、宅地造成が頓挫して山林のままだと言っていた更地についての手紙だった。

それについて、市内の不動産屋が、三年ほど前、平成三十年付けで活用するか売却するかしませんかというお伺いの手紙だった。

実は、その土地については、十年前、介護離職したときに、家族会議の結果、母が「これはあんたにやる。」と言って、登記簿謄本の原本を私が持っている土地だ。

その件は、父も兄も了解していて、たいして価値のある土地ではないが、いざというときには私の老後資産の一助となるはずのものだった。

ただ、その土地に関しては、私が実家の近くに引っ越してきてからしばらくした時に、その土地の管轄の役場から手紙が来ていて、確か内容は「環境保全のため草木の除草、伐採作業に同意して欲しい」というようなものだったのを、当時既に呆け気味だった両親が「よく分からんけん返事は出さん」と言っていたのが記憶にあった。人の迷惑になるから同意で返事をした方が良いと言ってもガンとして聞き入れなかったので、一度現状を確認しておこうと車を走らせたこともあるのだが、地番と現在の住宅地図は別なため、番地の特定もきちんと出来ずに帰ったことがある。

その件も懸案であったため、売却は考えていないものの、利用か、せめて現状の確認が出来たら良いなと思い、封書の不動産屋に電話をしてみた。

すると。

くぐもった声の男が出たのだが、事情を話すと、驚くべきことを言う。

「あ〜、ちょっと待ってください。
その土地には覚えがありますね。

隣の土地の人が買われて、隣の人の物になってると思います。」

は!?

「は!?

売り払ったんですか、家族に内緒で?!

いつですか?!」

二年くらい前だったと思いますね。」

……マジか!

実のところ、この土地、母が話を持ちかけられて、母が金を出し、母が取引を行った土地なのだが、何故かそのとき、父が「僕のものがない」とごねたため、母が父名義にしてやったという経緯があったらしい。

なお、父はこの土地より前に、昭和の時代に母が父名義で買った土地を自分の小遣いのために二束三文で売り払ったという前歴があり、家族に黙って売り払うというのはやりそうな話である。

平成十七年当時の登記簿謄本はまだ電子化されておらず、手間と金はかかるが再発行すれば売却は不可能ではないと知っていた私には、この話は衝撃過ぎた。

(※先にネタバレしておくと、実はその土地は売り払われていなかった。ただ、父が思いとどまったのではなく、売る能力がなかったようだ)

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不動産屋との電話を切ると、今度はケアマネージャーから電話がかかってきた。

こちらは順当にデイサービスとヘルパーの本決定のための面談の日程調整だった。

そのため、次週月曜日12/13午後に面談を入れる。

本決定すれば、16日木曜日からヘルパー、20日からデイサービス開始となる。

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この辺りから、私は酷い頭痛がし始めたのだが、一応母に電話して、面談の予定と、父が郊外の土地を売り払っているらしい話をする。
驚いていた、そりゃそうだ。

しかし、やることは他にもある。

伯母の遺産相続の件で、昼までかかって、不足はしているものの、ある程度書類を揃え、親戚から紹介された司法書士に電話する。

アポイントメントを12/21に取ったところで、頭痛が我慢できなくなって横になった。

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そして午後3時過ぎ。

思い切り寝入っていた私はスマホの着信音で叩き起こされた。
耳元で暴れん坊将軍が暴れている。

何事かと思ったら母だった。

土地の件もケアの面談の件あるし、重要な要件かと思って電話に出たら、母が言った、大声で。

「あんた、テレビが切れんのやけど、たった今来て!」

うっせーな。

「いや、今頭痛がして寝てるんやけど。
寝せといてよ。」

「そんな、あんたもうこの電話で起きたろうもん。
 テレビが切れんとよ、このままじゃ寝られん!」

先日から、老朽化と思われるが、テレビのリモコンのスイッチの接触は確かに悪くなっていた。
しかし、まだ午後三時だし、夕方には行くし、放っておいて欲しいが、認知症は待ったなしである。

「あー、テレビの下に箱あるの分かる?
 それがケーブルテレビの本体やけん、正面の左寄りに電源ボタンない?」

母は元気よく答えた。

分からん!」

とりあえず夕方まで放っておいてくれ。

二度寝した。

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夕方行って、テレビを見る。

確かにリモコンがイカれているが、12/20にはケーブルテレビの移設工事が来るのである。
交換の手配も勿体無いと思ったので、応急措置として、本体を入切するように言う。

どうせ忘れるので、母所有の、どピンクのロール付箋に「電源」「さわらない」「NHK」と書いてそれぞれのボタンの横に貼り付けておいた。

もう呼ぶなよ。

それにしても、母と相容れないのは、本棚の扱いで、母は私が掃除した書斎を気に入っているのは良いのだが、本棚を飾りだなと心得ているので、すぐに本の前に写真やら絵やら置こうとするので非常にイラっとする。

なんの本を置いているか見えず、本が取り出せないような本棚は割と地雷なのだが。

投げ銭歓迎。頂けたら、心と胃袋の肥やしにします。 具体的には酒肴、本と音楽🎷。 でもおそらく、まずは、心意気をほかの書き手さんにも分けるでしょう。 しかし、投げ銭もいいけれど、読んで気が向いたらスキを押しておいてほしい。