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私のための、大切な時間

 私は顔を上げて、窓の外を見た。台風明けの晴れやかな空が広がっている。昨日まで冷えていた空気とは打って変わって、真夏のような暑さ、そして日差しが見られる。

 しかし、空の雰囲気は秋のそれだった。

 静やかに、深まりゆくような、空。

 遠くには雲が複雑に入り混じり、城とも峰とも見えるような味わいがある。

 私は再び本に目を落とし、続きを読む。ヴァレリー・ラルボー『幼なごころ』にある、「包丁」だ。

 文章を読むたびに、風景がイメージされ、鮮烈に目の前に現れる。あの、包丁を振り下ろす、瞬間!

 私はどこまで行くのだろう。

 行き先は特に、決めていない。

 この簡素なゆれに身を任せながら、本を読むのが好きだった。学生のころは、学校までに1時間半あったから、本当にゆっくり、本を楽しむことができた。

 私はときおりこうして、本を読む時間を作っている。何とも言えず、本に集中ができる。

 そうしてふと顔を上げた先には、車窓に流れる絵画がうつされていく。それぞれにある、あまりの、美しさ。

 そう、美しさ!

 それに、触れることができる。

 今日はどこまで行こうかしら。
 特に、決めていない。

 大事なのは、この時間。

 私の、大切な、時間。

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