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感覚を呼び戻す / ⑥ウェハース

 あぁ、気がつけば、また、ここにいる。

 薄らいでいく意識がかろうじて見せる、安らぎの場所。それはどこにあるのかはわからない。意識しようにも、はっきりとしない感覚がすべてを鈍らせているような。突然、機能不全を起こしたみたいに麻痺した私の存在そのものが、どこか遠く、別のところ、それこそ、夢幻の地を訪れてでもいるのかも、しれない。

 あぁ、わたしは今、どこに、いるのだろう。

 ときおり、不安が波打ってはどうしようもない気持ちになる。発散しようにも、浅瀬に立つ足は少しも動かない――ように思う。ここでは何ができるわけでもない。ただ、たゆたい、静かなる時を、過ごしている。過ごしている? 気がつけばここにいて、今にも途切れそうな希薄さが、つなぎとめているだけなのかも、しれない。

 そもそも、わたしは、本当に、ここにいるのだろうか?

 わたしの姿も、声も、わたしには何も、わからない。すべての感覚が鈍るどころか遮断されてしまったような錯覚を覚える。そのうち、思考さえもままならないほど感覚が狂い、どうにかなってしまいそうで、怖かった。

 たまらず叫んでみたけれど、何も響いてこない。泣いて、怒って、わめいてみたけれど、ゆれるものは、何もない。

 わたしは ほんとうに ここに いるの ――

 ふいに 声 が 聞こえた

 いつも 聞こえる この声

 どこか 懐かしい ような

 どこか 安心する ような

 わたしの 鈍くて

 麻痺した 意識や

 遮断され 狂うた

 すべての 感覚が

 呼び戻されて いるような

 蘇らせて くれた ような

 橋渡しを してくれる 声

 わたしは ここにいる と

 たしかに おしえて くれて いるよ ――

 あぁ、いつか、わかる日が来るのだろうか。

 そうして、また、意識が遠ざかるのを感じる。眠りにつき、ここがどこであるのかも、わからなくなってしまう。

 でも、きっと、たぶん、大丈夫。

 あの声が、冷気を包んだ肌を常温へと取り戻してくれるように、生気の宿る感覚を伝えてくれる。

 さぁ、眠ろう。あぁ、目覚めよう? わたしは、今、どこにいるのかしら。どこに、行くのかしら。そもそも、眠っているのか、起きているのか、もう何もかもわからない。

 いつも、聞こえる、あの、声、は、だ、れ、なの、か、しら……

 おやすみ なさい そして いつか おはよう――
 

 松下友香さんの企画に参加させていただきました!
 滑りこみのような形で申し訳ございません。
 参加させていただきます、ありがとうございます。

湯山昭ピアノ曲集『お菓子の世界』6番「ウェハース」

 曲も本当にすてきですね。
 ウェハースからのイメージとピアノ曲集お菓子の世界、ウェハースを聞かせていただき、こぼれてきたものを形にさせていただきました。

 改めて、すてきな企画に参加させていただき、ありがとうございます。
 またどうぞ、よろしくお願いします。

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。