【ショートショート】『猿人バゴーンの呪い』
「バゴーンだよ、憲治!そこに、猿人バゴーンがいるんだ!俺が間違ってた!猿人バゴーンは本当にいるんだよ!」
金曜日の深夜、俺のスマホから錯乱した様子の米田の声が響いて途切れた..
以降、米田の電話が繋がることは無かった..
............................................
翌日、土曜、朝5時。
突然の米田からの電話で起こされた俺は、再び眠りにつくことが出来ずに、ベッドに横たわったまま、悶々とした時間を過ごしていた。
「...猿人バゴーン..」
神童と呼ばれ、エリート街道を邁進しているはずの、米田の口から出てきたと思えないその言葉が、俺の頭をグルグルと回り続けている。
シュールな夢の様であったが、俺のスマホには、米田からの着信履歴がはっきりと残っていた。
俺は、スマホをタップして小学校時代の同級生、ヤスの番号に発信した。
「....................」
電話に出たヤスは無言だった。
「...................」
俺は、ヤスに問いかけた。
「ヤス、朝早くに悪い..あの、猿人バゴーンって覚えてるか?」
「......プツ....」
無言で切られてしまった。
当たり前だ。せっかくの休日の朝5時に、いきなり【猿人バゴーン】の話をされて気分のいい人間はいないだろう。
俺は、起き上がり、珈琲を淹れて、パソコンの前に座り電源を入れた。
え..えんじ..猿人..ばごーん...バゴーン
猿人バゴーン...カチッ
パソコンの画面には、猿人バゴーンに関する記事が並んでいる。
俺は、その中の一つをクリックした。
【猿人バゴーンは、テレビ夕日で放送されていた人気シリーズ《川田浩探検隊》によって捕獲され....】
記事を読んでいた俺の脳裏に、突如、数十年前の記憶がフラッシュバックした...
小学校の通学途中、前日にテレビで放送された【川田浩探検隊】の猿人バゴーンの話で盛り上がる俺達同級生を、米田は心底、小馬鹿にした様な視線で見つめながら冷たく言い放った。
「何が、猿人だよ!お前ら、馬鹿か。そんなのテレビのヤラセに決まってるだろ、猿人なんているわけ無いだろうが!」
その米田が..
猿人バゴーン...
何故、今になってそんな事を..
猿人バゴーンって...
米田、お前、一体どうしたんだよ...
そのまま過去に戻り、暫くその場に座り込んでいた俺を現実に引き戻したのは、見知らぬ番号と共にスマホから鳴り出した【笑点】のテーマソングだった。
俺はスマホを手に取り、画面をタップした。
「もしもし」
『もしもし、お休みの所、申し訳ありません。私、港街署の高山と申します』
その高山と名乗る刑事は、淡々とした調子で俺に米田の死を伝えた...
【次回、米田の母親の口から衝撃の事実が明かされる!感動のクライマックス!ハンカチをご用意下さい!】
監督.脚本/ミックジャギー、出演、滝澤憲治役.清田明益、高山刑事役.滝ひろし.........>>>>>>>>
..................................................................................................................
.
おい!次回って...これ、本当に続きあるんだろうな!..ちょっとだけ、面白そうなんだけど..ちょっとだけ..
俺は、二人きりの会社の喫煙室で、自信ありげに【早く頂戴】とばかりに、こっちに掌を見せた右手を差し出している長谷部に聞いた。
「あの、長谷部さん、これ、ちゃんと続くんですよね?」
長谷部は、自信満々の顔で答えた。
「当たり前でしょうよ~、次回、怒涛の展開を見せるんだからさぁ....」
「..本当ですか? 」
「ホントだよ!だから2本分、ヨロシク!」
「えっ!1万円ですか?!いや、長谷部さん..俺、前の【二刀流なんたら】の時も言いましたけど、若者に受けそうな話で異世界系みたいなのってお願いしたはずですけど」
ゴーストライター長谷部は胡散臭い顔で答えた。
「異世界系ね...次回、突入するから、異世界に」
本当かよ、この男....どうも、騙されてる感がアリアリなんだけど...
そう思いながらも、今の所、noteでブレイクするにはこの男に頼るしか方法がない為、俺は仕方なく財布から1万円札を取り出し、長谷部に差し出した。
それを、ヨダレをたらしそうな勢いで受け取った長谷部は、
「毎度!次は凄い展開を見せますから、期待に震えて待ってて下さいよ、ミックジャギー先生!」
と俺に胡散臭い台詞を言い残して、喫煙室から去っていった。
全く..体のいい詐欺師じゃないかよ..
イケメンnoterさんは、自分の写真にチョロっとポエム付けるだけで『スキ』が100も入ってるというのに...
俺は一体、何をやってるんだ...
………………………………………
この時の俺は、長谷部の身にあんな事が起こるとは想像もしていなかった....
この2日後、長谷部は、自宅で大きな獣に襲われたような傷痕を身体に残してこの世を去った..
ま、まさか長谷部が猿人バゴーンの餌食になったというのか..
【続くかも】
出演、ミックジャギー、長谷部雄二(HSB48)
サポートされたいなぁ..