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【ショートショート】『山下って人の事/ミックジャギーの裏の顔』

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『よいこのみんなへ』

ぜんさく【山下って人の事/熱子先輩は戦う】もよんでね!https://note.mu/naseem_ou812/n/nbbbeadd0a83f

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ブルルルル...ブルルルル...
着信を知らせる携帯の振動に、俺の意識は瞬時に眠りから覚醒した。
部屋の時計を見ると、深夜の2時12分
携帯の画面を見ると【山下 幸一】の文字。
仕事の依頼か...
俺はベッドから飛び起き、愛用の銃、ワルサーPPK/Sの入ったホルスターを確認して携帯の画面をタップした。
「はい」
『もしもし?ミックはん?』
「どうも、山下さん、いつもお世話になっております」
電話の主、山下幸一は、俺の裏の仕事、所謂【殺し屋】稼業の最大のクライアントである。
彼のお陰で、俺は大金を稼ぐことが出来るのだ。
山下は見た目は普通のオジサンなのだが、その正体は裏の世界に長年に渡り君臨する大物で、気安く頭を上げられる存在ではない。
情に厚い男である山下が依頼してくるターゲットは、主に弱者を食い物にする連中で、それを始末するのが俺の仕事だ。
『ミックはん、読んだで!』
「えっ...読んだって...何をですか?」
『何をって、また、すっとぼけてから、この人は!』
何の話か全く解らなかった。
「すみません、山下さん...何の事だか...」
俺の言葉に、山下は、少し怒った様子で答えた。
『小説や、小説!』
小説?...何の話だろうか...
言葉に詰まっている俺に、山下が続けた。
『アンタが【note】に投稿してる小説の話や!』
投稿してる小説?..【のおと】?...何だろうか?...

ああ...アレか。

俺は、殺し屋という裏の顔をカモフラージュする為、職場ではダメ社員を演じ、周りの連中には趣味で短編小説を書いて投稿していると言いいふらし、しがない一般市民である事をアピールしている。
その為、万が一、会社の連中がサイトをチェックした時の為に、時間を作り、わざと稚拙な作品をアップしている。
まさか、そんな奴が国内トップクラスの殺し屋だとは、連中は夢にも思わないだろう。
超一流のプロは、そこまで徹底して身分を隠すのだ。
そうでなければ、トップに上り詰めることは出来ない。
「あれがどうかしたんですか?」
『どうかしたんですか?って、アンタ!ワイが出てくる作品、書いたやろ?』
..あぁ...確かに、以前、山下との軽い会話の途中で、そのカモフラージュの事を話した時
【それやったら、ワイも出してくれへん?】
と言われて、先日、仕方なく【山下って人の事/熱子先輩は戦う!】という作品を書いたはずだ。
「はい、確か、書いたはずですが、それがどうかしましたか?」
『【どうかしましたか】やないよ!アンタ!あのワイの役どう思う?』
「えっ、どう思うとは?..山下さんが出してくれとおっしゃったんで、そのままのイメージで..」
俺の言葉を聞いた山下は、うっ、と唸りトーンダウンした。
『..確かに、出してくれとゆうたけども、悪役はないやろう、悪役は!』
「...あぁ..そうですか..すみませんでした」
『まあ、書いてしもたのはしゃあないけどもな...まあ、どうやろうか?今度は、ワイが主役の話を書く気はないんかいな?』

一体、さっきから何なのだ..仕事の依頼ではないのか?
この人は、こんな時間に何の話をしているのだろうか?
「あの、山下さん。今、夜中の2時なんですけども...」
『何ゆうとんのや!まだ昼やないか!』
「いや、今は夜中の2時...」
『まだ昼やで、大丈夫かいな、ミックはん?』
山下は裏の世界の大物で、最大のクライアント。
俺は逆らう訳にはいかず、仕方なく謝った。
「申し訳ありません、まだ昼でした。では、山下さんが主役の話を書けばいいんですか?」
『まあ、そういう事やな』
「どんな感じの話にすれば良いでしょうか?」

俺の問いかけに、山下は考える様子で、うーんと唸りながら答えた。
『そうやなぁ...純愛物がええんとちゃうかな?』

えっ...

何をおっしゃって...

「...じゅ、純愛物ですか..例えば、どんな感じの?」
『うーん、やっぱり【冬のソナタ】みたいな、切ない感じのがええんとちゃうやろか?』

...ふ、古い...

「すみません、【冬のソナタ】は見たことないので...」
『アンタ!あれを見たことないんかい!それで、よく小説書いてるなあ!あれは、全クリエイター必見の作品やで!』
「いや、クリエイターって..自分は、カモフラージュの為に書いてるだけなんで...」
山下は、呆れた様子で答えた。
『アホッ!モノホンのプロやったら、細かい事まで、徹底的にこだわらんとあかんのとちゃいますの?』
確かに、その通りだ...俺はプロ意識の欠如を恥じた。
山下の言い分はもっともだった。
「すみませんでした。では、山下さんが主演の純愛物を書かせていただきます。タイトルはどうしましょうか?」
山下は、再び、うーんと唸って答えた。
『そうやなぁ...【山下のソナタ】っていうのはどうやろ?』

俺は仕事を頂く立場。「そのまんまじゃねえか!ジジイ!」などとは口が裂けても言えなかった。
「..素晴らしいと思います。判りました。では勉強の為、早速【冬のソナタ】をチェックさせていただきます」
山下は、満足そうに答えた。
『なるべく早う書いてや。楽しみにまっとるさかい!ワイ、あんまり長いこと電話できへんねん。弁護士が..』

半端な所で電話は切れてしまった。

何だったんだ、今のは...
気が緩み、途端に猛烈な眠気に襲われた俺はベッドへと戻った。

そして、目が覚めると出社の時間が迫っていた。
俺は飛び起き、準備を済ませて、携帯をチェックした。
すると、裏の同業者からのメールが一件届いていた。
画面をタップすると
そこには衝撃的な言葉が並んでいた!

〖山下氏がブラジルで逮捕されたらしい〗

【つづく....かも..いや...たぶん終わり】

監督.脚本/ミックジャギー/出演.ミックジャギー、山下幸三/インチキ関西弁監修.Y端亮平


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