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就職前に自己覚知

先回は『福祉業界に向いている人』と題して私見を述べました。

福祉に向いているのは、よくやさしい人、とか親切な人、人との関りが好きな人、と言われますが、その限りではないのかも、と思います。
人が嫌い、という人はどうしたって人との関りそのものがメイン業務になるので辛いでしょうが、私だって人が大好き!というわけではありません。人のことを考えるのが好きなのです。

やさしさは自分のプライベートのものとして持っておけばいいと思います。ただし、親切さは武器になります。相手のことをよく考えた言動ができるというのは貴重です。

今回は、学生からよく聞かれる「就職までに何をすればいいか」という点についての考えをまとめてみます。
先回の話の延長、重なる部分もあるでしょう。

就職までの取り組み

資格取得?福祉の勉強?それらもひとつかもしれません。
しかしそれらは働きながらでもできると思います。
学生であれば残された学生時代にできる沢山のことを経験してみてください。部活・サークル・バイト・旅行・ひきこもってゲーム・・・。
社会人であるなら残された業務時間で引継ぎを。そして有給消化があれば、長期休暇でしかできないことを。

目一杯いろいろなことを体験して、その中で自分が何を、どう感じるかを、体験を通して実感してみてください。
楽しいことだけでなく、悔しいことや悲しいことでもいいでしょう(望んで体験する必要はないですが)。様々な時に、自分がどう感じ、考えるかを整理する時間をつくってみてほしいのです。

福祉の世界で大事なのは「自己覚知」というものです。少し違いはあると思いますが、「自己理解」とも言えるでしょうか。
自分自身がある物事をどのように捉え、それを受けてどう行動するのか。そういった、自身の傾向を知る。そしてそれが支援(他者との関り)にどのような影響を及ぼすのかを把握しておくことは、対人援助をおこなう上で重要なこととされています。
何せこれがないと、「良かれと思って」とか「絶対これがいいよ」といったことが出てきかねないからです。また、知らず知らず、自分と相性の合うAさんと、合わないBさんで支援の質や量に偏りが出てしまうこともあるかもしれません。

現場でも丁寧な職場であれば、自己覚知を深めるために日々OJT的に関わりを持ってくれる上司・先輩がいるかもしれません。
しかし実際は、目の前の利用者をどうするかということに終始しがちです。どのように食事介助や入浴介助をおこなうか。Aさんはどうか、Bさんはどうか・・・。何せ目の前に利用者がいて、時間内に食事や入浴を進めないといろいろなところで弊害が出るし、場合によっては誤嚥や行動障害に繋がります。優先する理由は確かにあるのです。

だからこそ、就職する前に自分でも「自己覚知」を深めてみてほしい。
福祉の現場で自分がどう感じるか、ではなく、日常の自分の心の機微や行動の理由を整理しておくと、福祉の現場にも応用できるはずです。
それに、楽しいことを知っているというのは武器になりますよ。例えば相談員は困りごとの相談を受ける仕事ですが、困りごとだけに話が終始するとお互いに気が滅入るものです。
体験談として話してみると、本人も関心を持ってくれるかもしれませんね。

自己覚知の進め方

これは様々あります。
ひとつは人とのやり取りで深めていく方法ですね。
特に、いわゆる「スーパーバイザー」と呼ばれる人に頼めるといいでしょう。
スーパーバイザーと呼ばれる人たちは、「自己覚知を深める」という目的でいろいろと質問を重ねてくれます。あるところで助言をくれたり、話の内容をまとめてフィードバックをくれたりします。
どちらかというと、自分で気付きを得るというより、相手から気付きを促してもらうということですね。
と言ってもなんのこっちゃですね。そんな人、私の周りにはおりません。
学生であれば教授でしょうか。社会人であると難しいですね。また、福祉の専門的な知識や視点を持っている方であると適切ですが、なかなかそういった方は周りにはいないですよね。

個人的には友人や家族とのやり取りの中でも、自己覚知を深めることができると考えています。「自己覚知」とは何も「福祉について」とか「障害者に対して」ということだけではないのです。
友人といて楽しいなとか、嫌だなと感じることがあると思います。また、Aさんとは2人でも話せるけど、BさんとはAさんがいないと緊張するな、とか。友人との間で起こってくる自分の感情が、なぜそのようになっているのかを整理することも、いわゆる「自己覚知」なのだと思います。
また、友人と話している中で「私はこう思う」とか「あなたはなぜそう思うのか」と言ったことを自然とやっていると思いますが、そういったやり取りをいつもより少し俯瞰することもよいでしょう。
手段はどこにでも転がっています。どうやって使うかは使う側の意識と経験次第です。この「経験次第」が厄介ですし、何より友だちとのやり取りを都度都度振り返るのは億劫ですよね。「気が付いたら」くらいの温度でいいと思います。

自分自身で深める場合には、言語化することが一番だと思います。noteに記事にしてみてもいいと思いますし、メモにしてみるのもいいでしょう。
ニュースを見ていて嫌な気持ちになったのはなぜか、とか。虐待関連のニュースにはやたら敏感になるな。他のニュースよりイライラするな・・・それはなんでだろうな、とか。

どちらにしろ、エネルギーのいることなので、体調にはお気を付けください。


まとめ

就職前にやっておくことなんて、実は特にないのかもしれません。きれいごとではなく、今しかできないことがあると思うので、ぜひそれを優先してください。
その中で、「就職する前には」と一定のモチベーションがあるのであれば、「自己覚知」について考えてみてもいいかなと思います。
この自己覚知だの自己理解だのといったものは、福祉以外の仕事にも役に立ちます。
自分を俯瞰する癖をつけておくと、人間関係(福祉の業務はこれ自体が業務と密接です)を円滑に進めるコツが見えてくると思います。

支援の中ではいろいろなこと話を聞きます。相手が話していることは必ずしも常識的なことではないですし、自分自身が触れたくない話題にも触れることにもなります。その時、冷静でいられるか。冷静でいられない場合にはどうなるか。それが支援にどのような影響をもたらすか。
これは働いている中で振り返るのはなかなか難しい。かといって、おざなりにできるものではないのです。小手先の支援のテクニックや、法制度の理解と比べても、最も重要だ、と今の私は言えてしまうくらいには本気で思います。
今から慣れておくと、癖がついてくるとも。

今日だって、3回目の長電話の方に対応しながら、イライラしている自分に気付きました。さすがに何度も同じ内容の電話を20分も繰り返され、内容も「おばさんが私を見ている!なんでなにもしていないのにそんなことするの!そういう人が多すぎる!みんな病気だ!ちゃんと薬を飲め!デブの癖に!気になんてならないよ!私は何もしていないんですよ!」と一方的に言われるとさすがに気が滅入る。

何を言っても刺激になる、と理解しながらも、そのような状態で本人が困っていることを確認し、気持ちを落ち着ける薬をもらうこともひとつですよと伝える。
しかし相手は悪いのは周りであると言い募る。
それでも周りを変えるのは難しく、あなたの勘違いである可能性もあると伝える。
ああ、これは相手のためばかりではなく、少しでも反論したい私の気持ちも含まれた言葉だな、と若干反省する。

・・・と、イライラしている私を感じながら、声が震える私を感じながら、言っても聞かないし電話の時間も延びるだろうな、と思いながらも電話をするわけです。
そしてまた電話が鳴れば、最早見覚えのある番号でも電話を受ける。
電話を終え、同僚と共有し、少しでも自分の心を軽くしていくのです。
(この対応については絶賛検討中です)

この自分のイライラに気が付かないと、やっぱり気持ちはより重くなるし、下手をすれば自分の言いたいことを意図なく相手に伝えてしまうかもしれません。
支援者と言っても人ですからね。イライラすることもあれば、鼻で笑ってしまうこともなくはない。でも、それがどうしてかなとふと考える。不適切だな、と思いながらも感じ方は変わらない。しかし不適切だな気付くことができれば、表出する対応は変わります。
表面的であれ、と言っているつもりはありません。振り返って、意図して表出しましょうという話です。
不誠実でしょうか。しかし、これが私の今のレベルです。

自己覚知。これは果てがない作業です。
自分を知ることは、個人的には面白い。沼にはまらないよう、たまには周りを使うことをお勧めします。
そういった先輩がいるといいですね。そういった先輩になりたいものです。

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