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個展のタイトルについて。

タイトルを考えるのが苦手です。

そもそも個展にタイトルって必要なのか?
陶芸に限らず、展示会と呼ばれるものにはタイトルがついていたり、企画段階でギャラリー側から尋ねられることも多くあります。
けれどなんかこそばゆいというか、かっこつけてるようでテヘヘとなってしまうかんじもありつつ。

例えば「春の贈りもの」ってタイトルがついてると、ああ春だもんねーって思いながら見ちゃうじゃないですか。春らしい色とか花柄とかばっかに目がいっちゃうかもしれないじゃないですか。(全国の「春の贈りもの」展を敵に回したいわけではないですよ。それはそれで大切なアイキャッチだと思ってます。)

一つこちらから意味のある言葉を提示することで、見る人の目もそれに引っ張られる、狭まってしまうような懸念もしていました。

そういうちょっとした恥じらいがあったので、最初の頃はとくにタイトルをつけず「narumiyashiro ceramic works solo exhibition」としていました。(英語にしている時点でかっこつけている)


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そんななか。
昨年、2020年10月に開催した個展の折。
新型コロナウィルスというものの出現で世の中がよく分からん状況になり、「いいかげんこれいつまで続くん?」となっていたとき。

何を作ろうかな、と考えると同時に、もっともっとこの先の将来のこととか、本当に自分が大切にしたいものってなんだろうとか、そのために今私がやらなきゃいけないことはなんだろう、大切にしなきゃいけない人は誰なんだろうってことを、改めて、たくさんたくさん考えました。私だけじゃなく、そういうふうに立ち止まって、やや強制的に様々なことを考えさせられた人は多いと思います。

そこでふと目に入ってきたのが、このときの個展テーマにした「purify」という言葉でした。
展示会に来てくださったお客さまに向けて、書いたメッセージがこちらです。


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“purify”
清める、浄化する、という、今の世の中への願いを込めたような強い意味とともに
純粋なものにする、余計なものをそぎ落とすというような意味をも持つ言葉。
それらは私の作品づくりの根幹にある信念であり、大事なものが見えやすくなった今だからこそ、シンプルなものが持つ強さを拾い上げ、自分の心に問いかけるようなものづくりをしたいと思いました。

それは私たちが一日一日積み重ねる日々にも言えることで。
自分が大事にしているものを自覚すること、意識すること、なぜそれが私にとって重要なのか、いいと思うのかを言語化し、咀嚼していくことで、自分というものがすっきりと削ぎ落とされていきます。そうして生まれた身軽さはとても心地のよいものです。

多くは持てません。手の届く範囲は限られています。
だからこそ、自分が本当にいいと思ったもの、大事にしたいと思った人、ものを全力で大事にしながら、日々を過ごしていきたいと思うのです。


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初めて自分の個展にタイトルをつけました。
“purify”という言葉、実は愛用しているハンドソープの名前です笑。ほんとにたまたま視界に入ってきて「あ、これかも」と。当時の自分の気持ちにすとんと落ちてきたのでした。


そしてあっという間に、本当にあっという間に年が明けて2021年。

駒場東大前にある「うつわとカフェ Lim.」さんにて個展を開催させていただく運びとなり、タイトルを考えていました。
うーーんやっぱり苦手だなこれ。色んな言葉を調べてみたり、インスピレーションを受けそうな映画を観てみたり、とにかく友人にばーーーーっと話して、自分の内部にあるものを言語化しようと試みる日々が数日続きます。


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Lim.さんの店名は「Less is More」からきていると伺いました。
「少ないほうが豊かである」というこの考えは、私の作陶においても常にそばに置いている意識です。2020年のテーマにした「purify」にも通じるものを感じました。

じゃあその先は?
余計なものを取りのぞき、身軽になった(なりたい)自分。
そこから一歩先へ。

無限にある選択肢の中から意思を持って自分を形作るものを手にとっていく。色んなことが不安定で、流動的で、ぼんやりとした霧の中にいたようで。だからこそその空気に呑まれないように、疲弊しないように。時に受け流し、漂うように、なびくように。

こんなことを考えながら、今回のタイトル「fog blue」に辿り着きました。

fog blueはグレーに近い、濃い紫みの青を表す色名です。

Lim.さんの、すきっとした、冷たい、凛とした空気感。
そこで普段から使っていただいているうつわはbluegrayを中心に選んでくださっています。
自然と調和したその色と言葉が重なっていることが嬉しく思えました。

自分の個展にタイトルをつけること、
それはまさにその時の自分を残しておく言葉なんだろうなと思います。

よく考えたら、そういうものをかたちに残しておける職業も限られているし、
そう思うと恥ずかしさはなくなり、なかなかいいもんだなと思えるようになりました。

ここから1ヶ月後の4月末、暖かな春の空気を纏って新緑の季節へ。
深い霧が晴れた先の夜明けのような、清々しい気持ちを受け取っていただけたらと、願っています。


2021.4.24(sat)-5.2(sun)
narumiyashiro ceramic works solo exhibition
「fog blue」

うつわとカフェ Lim.
Instagram @lim.komaba

〒153-0041
東京都目黒区駒場3-11-14-1F
03-3469-8555
OPEN 10:00-18:00(L.O 17:30)
closed on monday

会期中4.26(月)は店休日です。
作家在店日等は追ってご案内していきます。

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さーー、制作がんばります。


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読んでいただきありがとうございました! サポートしていただいた資金で美味しいものを食べて制作に励みます。餃子と焼肉とカオマンガイが好きです。