見出し画像

お手伝いはポイント制

何をしてもらうにも、どんなものでも人の手がかかってできている。

我が家は、子どもたちが小学生の頃、お小遣いを与えなかった。
お年玉も親が預からず、郵便局の自分の口座に入金に行かせた。
子どもに自分のお金を管理させようと考えた。
お金の価値がどう生まれるか、それをどう活かすのかも自分で考える。

お手伝い表を作り、1ポイント20円とした。
例えば、お風呂掃除は2ポイント、洗濯物たたみは1ポイント、といった具合。
月締めにして月給を渡すことに。

細かい内容は忘れてしまったが、一番上と末の子の年齢差が5歳、トイレ掃除などのやや難しいものから、簡単な作業まで結構項目を多く作った。1ポイントごとに1枚シールを貼って、最後に20円を掛け算する。

長女はのんびり屋さんでもあり、家のお手伝いを嫌がることもなく、それなりに月給額があった。

次女は年齢も小さいので、彼女なりにできることをこつこつ積み上げていった。

真ん中の子、長男はそのころ流行っていたゲームボーイが欲しかった。
友達は既に手に入れている子が多く、羨ましかったことだろう。
もちろん、親に買ってほしいと頼んだところでその願いが叶うわけはない、と初めからわかっていた。

彼は猛然とお手伝いを始めた。
自分から、お風呂掃除を毎日やる、と宣言した。
お風呂掃除に限らずだが、きちんと仕事してこそポイントが付きます、と彼に伝えた。

長男は相当数のポイントを貯めた。
3ヶ月以上、かかっていたと思う。
貯めたお金に対しては、こちらは何も関与しない。
子どもが努力し自分で稼いだお金だ。
何に使おうが構わない。

ゲームボーイはどこで売っているのか?
わたしはそれを売っている店を調べ、店までの経路を説明しただけ。
経路を記したメモを持って、自転車で出発する長男に気を付けて行くように、と送り出した。

1時間もすれば彼はうれしそうに帰ってくるはずだった。

しかし、その時間が過ぎても、辺りが暗くなりかけても帰ってこない。
さすがに心配になってきた。
教えた経路を自転車で探しに行く。

少し走ると、向こうから小さい影が近づいてくる。
長男だ。
わたしを見つけると、こらえていた涙が出てしまった。

ゲームボーイを持っていない。

どうしたの?と聞くと「お店になかった」と言う。
調べた店がゲームボーイを販売しているのは確認しているので、そんなはずはない。
「お母さんと行くか?」
「うん。行く!」
夜になりかけた薄暗い道を今度は2人で走っていく。

「お母さん、ここの店だよね」と途中で長男がある店を指差す。
ここじゃないよ、間違えたの?
「お店の人は売っていないと言った。だから仕方なく帰ってきた」と言う。
もう少し先の店だよ。あと少しだから、と長男を励ました。

やっと目的の店に着き、おもちゃ売り場に向かう。
長男はまだ心配そうな表情。
本当にゲームボーイはあるのか?

ここでもわたしは後ろから見守っていた。
長男は従業員にたどたどしく、ゲームボーイはありますか?と尋ねている。

カウンターまで案内され、ゲームボーイがガラスの棚から出された。
長男は持ってきた財布から、苦労して貯めたお金を出し、従業員に渡した。
その年齢の子にしては大金である。
従業員もひとりのお客様、として丁寧に商品を渡してくれた。

振り返った長男の顔がうれしさでいっぱいで、また満足感にあふれていた。

その後、目が悪くならないように、ゲームをする時間は制限したが、彼は納得していたと思う。

厳しい親だと子どもたちは思ったかもしれない。

そう思われてもいい。

いいんだ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?