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【3分で読めるダークファンタジー 】深紅ノ花

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★この小説は
#3分で読めるダークファンタジー  「六花抄 -Tales like a ash snow - 」
銀髪の剣士の姉と魔道士の妹が残酷な世界を旅する、ほろ苦い物語。

過去作品はこちら(オムニバスなのでどこからでも読めます)
https://note.mu/narumasaki/m/m38dd8451bb44

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「あ、あの大っきなお花はなんだろう」
銀髪の癖毛の少女は不思議そうな面持ちで遠方にある景色を見る。
「真紅の花? それにしても巨大すぎて不気味だ」
銀髪の長身の少女は受け返す。
とある村の入り口に咲く、一際というよりも巨大な花の数々。
「旅の方。この花は……」
その花には、とある秘密が隠されていたという。

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その花の正体は、元は人間だった。
この村で数ヶ月前から流行り始めた不治の病。
病に冒されたものは、高熱が出たのち、体内から徐々に蔦に蝕まれ、やがて花となり死を迎える。
通称「屍花の病」。
しかし、そんな病を治療する神父が現れたのだった。

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「く、苦しいようおかあさん……」
「か、神様……どうか。どうか、こ、この子に神の救いを……」
肩で息をする少年と、ベッドの側で息子の手を握りながら泣き崩れる母。
ぎしりと古びた扉を開ける音が聞こえる。
「ここが、病気のお子さんのお宅ですね」
「ああ、神父様……息子が、息子は屍花の病なのでしょうか……」
心配する母に、神父は優しく微笑みかける。
「ちょうど出かけており、戻るのが遅くなりました。でも安心です。私にお任せください」
準備をするからといって、神父は寝室の扉を閉めるのであった。

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「さぁ、このお薬を飲んでごらん」
少年は薬を飲むと、数分後スースーと寝息を立てて、安らかに眠りについた。
「もう安心です。このまま2、3日安静にしてください」
神父はそう言って立ち去るのだった。

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そして、数日後。
「神父さま〜!」
少年は神父の元へ駆け寄ると、神父の背中に抱きつくのだった。
「へへへ、もうすっかり元気になったんだ! ありがとう神父様」
「こら!神父様にそんなふうにしては駄目じゃない!」
「いいんですよ。お母様。それよりも、息子さんが治ってよかったです」
そう言い残して、神父は村の近くの森へと姿を消していくのであった。

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深淵の森、瘴気の立ち込める魔の森。
「誰もこの花の正体を知らないなんてな、無知とは恐ろしいものよ」
胸に十字架をつけた男は、森の中で独り言葉を零す。
屍花の病。その正体は、村の近くの森に群生する、瘴気を浴びた花の種だった。
「それに、誰もこの種から抗生剤を作れるとは気づかないとはな。」
「おかげで神父様を演じていられるよ、ククク……」

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「ニャー、ニャーン」
猫じゃらしを振って子猫の気を引こうとする、癖毛の少女。
「つかまえた!」
「シャー!」
つかまえたかと思いきや、するりと少女の腕を抜けて逃げ出す、子猫。
「ああ、待ってよ〜ネコさん!」
「あ、危ないぞ!」
制する姉の声をよそに子猫を追いかける妹。

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「にゃにゃーん、出ておいで〜」
猫の真似をしてみる小柄な少女。
「あ、いた!ネコさ〜ん!」
子猫を夢中で追いかけると、神父にぶつかる
「痛っ。ごめんなさい」
神父のポケットから、赤い果実が転がり落ちる。
猫はくんくんと甘い匂いを嗅ぎ、ぱくりと口にする。
次の瞬間、子猫はガタガタと体を小刻みに揺らすと、その小さな体を無数の蔦が貫いた。
「こ、これって……村の入口の……?」
「チッ、小娘。見やがったな。」
胸元に十字架を身に着けた男は、少女を睨みつけるのであった。

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「ど、どうしよう、杖が……」
癖毛の少女は氷の魔力を司る魔道士だ。
しかし、あまりに子猫に夢中になりすぎて杖をおいてきてしまった。
「オマエも猫と同じように、生け花にやろうかァ!?」
次の瞬間、神父の腕が空中に舞い、地面にぐちゃりと落ちた。

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「あががぁぁああああああ、腕がぁあああ」
姉は凄腕の剣士だった。
一般の神父が勝てるはずもないのは明らかだった。
地面に伏した神父の腕の傷口に、先ほどまで猫だった花の蔦が血の匂いにつられて伸びてくる。
「く、くそっ。せめて抗生剤を……」
胸元に仕込んでおいた、透明なガラス管には十字架が突き刺さり、液体が漏れ出していた。
「くっそおおおおおぉおぉぉお!!」

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やがて神職の男は全身が蔦で貫かれた。
白い花は生き血を吸い、純白の花弁を紅く染め上げる。
花の根本には十字架が鈍く輝きを放つのであった。



***あとがき***
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実は、もう少しで姉妹のイラストを発注しており、近日完成予定です。
こちらもお楽しみに。

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