見出し画像

自分の注意が内に向いているか、外に向いているか

 年末、遠出した時の行き帰りの電車の中で読み返した甲野陽紀はるのりさんの本に書いてある内容がとても面白かったです。

 この本は自分たちの「身体」について、言葉のかけ方や注意の向け方を見直すことで深掘りしてみようという内容です。詳細な内容は是非購入して読んでいただきたいのですが、その内容の中で私が今、取り組んで面白く思えているものを一つ紹介します。
 それは、「音に注意を向ける」ということです。

 私は以前、視覚よりも聴覚を優先させることで世界の感じ方が変わったことを記事にしました。

 『身体は「わたし」を映す間鏡である』にも聴覚に注意を向けることについての話題があり、それが上記の記事の内容に似ているところもあれば、全く違う角度からの掘り下げ方もあり、非常に興味を惹かれています。

 この本の聴覚についての話題を私なりにかみ砕くと、自分の内側(内面・心)に注意が向きすぎる人は聴覚に注意を向けることで、内側に過剰に向きすぎた注意が外に向いてちょうどいいバランスを得ることができるというものです。
 具体的な例として、陽紀さんが母校の高校で指導をしていた時の逸話が書かれています。

 あるとき選手の一人が過呼吸になって倒れてしまったことがあります。そのとき、とっさに「耳に注意を向けてもらう」ことで対応したことがありました。「大丈夫?辛そうだね」と言いながら、「今、聞こえる遠くの音を聞いてごらん、選手が走っている足音が聞こえる?その先に電車が走っているんだけど、電車の音が聞こえる?車の音が聞こえる?」と少しずつ聞こえてくる音の範囲が広がっていくように、言葉をかけていったところ、だんだんに呼吸が穏やかになってきて、落ち着きを取り戻すことができたのです。
 人前で緊張し、「あがっている」状態などもそうですが、一般的に興奮状態にあるときは、注意が自分の内側に向かっているものです。落ち着くというのはその逆の流れ、つまり、自分の内側に向かっていた注意が外に向かうことによって生まれてくるのですが、あがっているときに心の中で(落ち着こう、落ち着こう)と唱えてもなかなか思うようにはいきません。そんなとき頼りになるのが、「耳」です。目も同じですが、耳は外向き、外の情報に注意を向けていく五感です。

『身体は「わたし」を映す間鏡』 第三話「見る」「聴く」「触れる」にみる五感の活かし方

 自分の内側に注意が向き過ぎて過呼吸になってしまった選手に対して、声掛けによって外の音に注意を向けさせ、落ち着きを取り戻させた逸話です。
 この例のように、音に注意を向けることには内側に意識が向きすぎて緊張状態、興奮状態になってしまった心を落ち着ける効果があるようです。

 本の中で直接的には書かれていませんでしたが、どうやら人には注意が内側に向きやすい人と外側に向きやすい人がいるようです。そして私は内側に注意が向きやすい人間だという自覚があります。
 というのも、私は独りでいるとつい考え事に耽ってしまいますし、日常生活を送っていても心の中で独り言をぶつぶつ呟いてしまっていて、外の状況に気付かないことがあるからです。そして自分の内側に注意が向きすぎるためについ過去の失敗などを思い出して不必要に自分を苦しめる癖まであります。
 ということで、内と外の注意を向けるバランスを取るため、最近は意識的に聴覚に注意を向けてみるようにしています。山仕事の最中でも、つい心の中で独り言をつぶやいたり過去のことを思い出したりしてしまっていることに気づいた時は、音に注意を向けるようにします。紹介した本にも書いてあるのですが、聴覚に注意を向ける時は「耳を澄ます」という感じだとより効果的です。具体的には小さな音、遠くのかすかな音を聴こうとすることです。遠くで聴こえる車の音や室内の空調のかすかな音に注意を向けるのです。すると、注意を向けたとたんに心の独り言や妄想は止んでしまうことが多いです。しばらくするとまた気が逸れて考え事をしてしまうことがありますが、気が逸れたことに気づくたびに音に注意を向けていると心の独り言をしている時間が短くなります。
 まあ、山仕事の場合、草刈り機やチェーンソーを使っているとエンジン音がうるさすぎて他の音が聴こえず、「耳を澄ます」という感じではなくなって聴覚優先というのが逆に難しくなるのですが……。それでも、チェーンソーや草刈り機を止めている時やその他の日常生活の時間に心の独り言を止めて音に注意を向ける時間を増やせています。

 まだ始めたばかりですが、このように自分の注意が内に向いているか外に向いているかに注意を払ってそのバランスを取ろうとしていたら、だんだんと偏っていた注意のバランスが整ってくるのではないかと期待しています。

 ちなみに、注意が外に向きがちな人(音が気になって仕方がない、目に映るものに気が散る、周りの人が気になる、など)は聴覚ではなく触覚に注意を向けると良いそうです。
 陽紀さんは例えば視覚情報に偏って意識が外に向きすぎている方に注意のバランスを取り戻してもらうときは「ここの室温はどうですか?服の着心地はどうですか?この床は柔らかいですか?」といった触覚をふっと感じさせるような言葉がけをするそうです。触覚に注意を向けさせることで、外に向きすぎた注意を内に向けるように促すのです。
 パソコンを使って目が疲れやすい人などは、外(この場合は視覚)に注意が向きすぎているので、触覚を感じることにも注意を向けながらだと、疲れにくくなるそうです。

 私なりに解釈すると、注意が内に向きがちな人は耳を澄ますことで自覚的に外に注意を向けてバランスをとり、逆に注意が外に向きがちな人は触覚に注意を向けることでバランスを取ることができるのだと思います。
 また、注意が内に向くか外に向くかは同じ人でも場合によって変わるので、自分が今どちらかに注意が向きすぎているか自覚できたら、反対側に注意が向くように触覚または聴覚に注意を向けるのが良いでしょう。先ほどの例で言えば、パソコンを使う時は多くの人が外(視覚)に注意が向きすぎる傾向にあるそうです。


 自分の傾向性について、注意が内に向きがちか外に向きがちかという視点で考えたことが無かったので、この本で述べられている内容は非常に興味深かったです。私が聴覚に自覚的に注意を向けることで、普段私がしていない傾向(外に注意を向けるということ)が鍛えられている感じがして非常に面白いです。
 自分の偏った注意の向け方を整える、という視点での聴覚に注意を向けるという訓練を続けてみることで、自分にどんな変化が起きるかが楽しみです。


 本日は以上です。スキやコメントいただけると嬉しいです。
 最後まで読んでくださりありがとうございました!