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パートタイムも年俸制!?

正規雇用と非正規雇用。最高裁の判断はその格差を埋めるかと期待されていましたが、逆でしたね。
同一労働同一賃金というガイドラインが進んでいた中での判断でしたから、アメリカから日本のニュースをチェックしている私も驚きました。


でも、最高裁の判断は言い換えれば「同一労働ではないから、同一賃金ではない」という考え方ですね。つまり、もし会社が全く同じ仕事を2人にさせていて、一人は正規、一人は非正規で別待遇であれば問題だけど、原告の場合は、違うと思われたのでしょう。


アメリカはちょっと違います。一言でいうと、パートタイムも年俸制だったりするんです。つまり、働き手の能力、仕事の結果によって給与が変わるわけです。


最高裁に訴えた原告は「非正規の人にもボーナスが少しでも支給されれば、働くモチベーションにつながっていくと思います。」と話されていましたね。つまり、一生懸命働いたことに対する相当の高い評価を求めているんだと思います。


そうだとすれば、極論かもしれませんが、非正規も年俸制にして、働いた時間に対してではなく、仕事の結果に見合う給与体系になればモチベーションにもつながるのではないでしょうか。


私はアメリカ人50人にインタビューする中で、「パートタイムも年俸制」という考え方があるんだと初めて知りました。今日はそのことをお伝えしますね。


アメリカ人にインタビューするにあたって、私はアンケート用紙を作りました。まず、インタビュー対象者の背景を知るための情報として、現在の仕事については、次の3つを質問事項とすることにしました。


(1)Are you working on salary basis or hourly basis?                                   給与は、年俸制ですか、時給ですか?
(2)Are you working public or private sectors / nonprofit?
勤務先は、公的機関、私企業、あるいはNPOですか。
(3)Are you working full time or part time?
フルタイムですか、パートタイムですか。


 これは、アメリカ人の夫に相談して作った基本的な質問事項です。もし、同じアンケートを、日本で聞いて回ったら、どうなるでしょうか?パートタイムの方の給与は、ほとんどの場合、「時給」ですよね?


 ところが、私が聞いた限り、「パートタイム」と答えた人の9割が「年俸制」でした。そう、アメリカでは、「パートタイム」でも、年俸制が当たり前なんです。


 例えば、最近、週40時間のフルタイムから25時間に減らしたパートタイマーの母親に話を聞いたところ、仕事の内容は変わらず、時間だけを削減。その分、所得が減ったものの、やはり年俸制の給与体系だと聞いて、驚きました。


「うちは、女の子が3人いて、8歳、6歳、4歳。子供も大きくなると、宿題が増えたり、放課後の活動も増えてきて、あっちへ連れて行ったり、こっちへ行ったり。夫と話して、やっぱり誰かが、もっと家にいなきゃいけない、ということになったの。夫のほうが収入がいいから、結局、私がパートタイムに変えることにしたのよ。今までは、40時間の仕事だったけど、それを25時間に減らしたの。」


 日本なら、同じ組織に残れたとしても、異動は免れないでしょう。でも、彼女の場合は違ったのです。


「職場でやっていることは、前と同じよ。ずっと保険協会の仕事で、担当しているプロジェクトも同じ。上司も同じ。違うのは時間だけ。25時間に減らしたので、今は、週に4日しか働いていないし、夕方は、時間になったら早く切り上げて、子供を迎えに行けるようになったわ。フルタイムのときは、仕事が終わらないと、時間だからといって帰ったりできなかったけど。」


 仕事の内容を変えずに、働く時間を短縮するだけという選択肢があるのは、なんとも羨ましい限りです。しかし、そんなに極端に仕事を減らして、給与はどうなるのでしょうか。


「簡単よ。フルタイムのときの年俸を、時間で割って、時給を出し、それを25倍にするの。20時間だと、給与は半分になるから、まあ、それより少し多い感じね。」


 なんとも、わかりやすい説明です。つまり、同一労働、同一賃金、というわけです。日本では、「パートタイム」というと、単純作業だったり、待遇が悪かったりしますが、アメリカでは、パートタイムでも、プロフェッショナルな仕事をしている人が結構いるんですね。


 アメリカの従業員退職所得保障法(Employee Retirement Income Security Act ERISA)によれば、パートタイムであっても、退職給与がもらえますが、年間に1000時間(約週19時間)を下回ると、対象外になるので、その枠を超える時間に設定する人が多いのかもしれません。
 でも、そうした時短の人が増えると、上司や同僚にとっては、仕事がうまく進まないで困ることになるのでは?


「パートタイムになっても、実は仕事の量が全然減っていないの。私がもっと効率よく、仕事をするように、上司には指示されているけど、限界もあるのよね。同じプロジェクトでも、今までより時間がかかるってこと、上司に理解してもらわないといけないから、そうした意見も出していこうと思っているところなの。」


 仕事の効率を上げるのは、働き手の使命、ということでしょうか。仕事の内容にもよるのでしょうが、4割近くも働く時間が減っているのに、与えられる仕事の量が変わっていない、というのを聞いて、アメリカのコストパフォーマンスをぎりぎり限界まで上げる、という姿勢を垣間見た気がしました。
 それにしても、ご主人は仕事を続け、奥さんだけが、自分のキャリア、昇進を諦める。そこに不公平さを感じないのでしょうか?


「不満はそんなにないわ。なんだろう、本能みないなものかしら。子供のそばにいてあげたいって思うの。だから、まだパートタイムになって2ヶ月だけど、子供が高校を卒業するまで、もう、フルタイムには戻らない気がするわ。子育てって本当に大変だし。後になって『あのとき、もう少し子供との時間を作っておけばよかった』と、後悔したくないのよ。逆に、今、仕事を減らしても『あのとき、もっと働いておけばよかった』とは、思わない気がするの。」


 タンクトップに短パンというアクティブでエネルギッシュに見える母親ですが、子供のこと、家族のことに重心をしっかり置いているのが印象的でした。プライオリティを決めて、でも、自分が納得する範囲で、仕事も同じように続けられるのは、彼女にとっても、家族にとっても理想の姿のようです。


 もう一人、やはり、フルタイムからパートタイムに切り替えた母親にも話を聞きました。やっぱり、給与体系はパートタイムになっても、年俸制です。


「私はエコノミスト。子供は、女の子が2人よ。5歳と7歳。以前はフルタイムで働いていて、一度、週に3日の仕事に減らしたことがあるの。時間にすると、20から25時間。でも、達成感がなくって、周りからも、キャリアの仕事としてみてもらえなくて、週に30時間に変えたのよ。今は、金曜日だけ、オフにして、週4日の勤務。金曜日には、子供の学校のボランティアとかもできるから、今はとてもハッピーよ。給与は年俸制。週40時間のを30時間に減らしているから、年俸も、有給休暇もフルタイムの4分の3。まあフェアな考え方だと思うわ。」


 こちらも、わかりやすい計算でした。でも、エコノミストだと、結構、仕事も大変だろうに、4分の1の労働力が不足する分を、上司はどうやって補っているのでしょうか?


「別に、他の人を雇ったりしていないわよ。きっと、私が十分、フルタイム分の仕事をしているからじゃないかしら。金曜日に、突然仕事が入ることもあるけど、それは、周りの同僚が助けてくれるし。」


 すごい!40時間の仕事を30時間でこなしていると言い切れる、その自信に恐れ入りました。穏やかで、物腰も柔らかい母親の外見からは、想像もつかない言葉です。でも、逆に言えば、それくらいの結果を出しているから、堂々と時短でも悪びれることもなく、働き続けていられるのでしょう。考え方によっては、30時間分の給与で40時間分の仕事をしてくれるなら、上司にとって、これほどコスト削減に都合いいことはありません。


 日本の知人で、パートタイマーとして働く知人に、この話をしたところ
「パートタイムで年俸制?いいかもね。何時間働いても昇進しない時給より、能力に見合った年俸にしてくれれば、もっとやる気も出るだろうな。」
 と話していました。


確かに、日本は、パートタイムといえば、時給制。しかも、能力や実績に違いがあっても、時給はあまり変わりません。ですから、年俸制などを取り入れて、能力給にすれば、モチベーションも高まる可能性があるのかもしれません。

正規、非正規の格差が大きな社会問題になっている日本。パートタイマーの年俸制なども含め、幅広く検討してみてはどうかと思います。

如何でしょうか。

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