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近刊『物語戦としてのロシア・ウクライナ戦争―物語生成のポストナラトロジーの一展開』(新曜社)(https://amzn.to/3tipmAv)―表紙と詳細目次など

現代軍事戦略などの専門家の高橋杉雄氏は、ファンクショナル・スペシャリスト (functional specialist)という言葉を時々使っている。それは、縦割り的に細分化された特定の「専門領域」を持たず、様々な専門領域を横断して調査・分析することを「専門」とする「専門家」、という意味であると思われる。
私はそれ程立派なものではないが(そもそも若い頃―中学・高校の頃―から、特定の専門領域を持つのは絶対に嫌だ、と思ってやって来ただけなので)、一種のfunctional specialistなのかも知れない。私の領域横断的な「専門」は、いろいろな所で書いているように、人工知能・認知科学・物語論等であるが、大学時代は「一生に今だけ」と思って社会科学を浅く広く勉強していたので、「社会的なるもの」に対する志向・嗜好もある程度はあった。
今回出すこの本は、立派な言葉を使えば(高橋氏の意図を勝手に越えてしまっている恐れもあり怒られるかも知れないが)、functional specialistとしての私が、物語生成の題材をロシア・ウクライナ戦争に取って、慌てて勉強したり考察したりした成果を序論的にまとめてみたものに過ぎない。
私は今では「縦割り的に細分化された専門領域」を極めて尊重しており、若い時の一時的な気分に駆られて中途半端な非専門家的専門家になってしまった私自身を憐れんでもいるが、人生をやり直すことは出来ないので、これはこれで行くしかない。その一成果がこの本である。
ロシア・ウクライナ戦争は日本人にとっても重大な意味や意義を有する事象だと私は考えている。従って、専門家の言説や言い分を十分に聞き、研究することは、前提的に大切なことであるが、国民一人一人が自分で考え議論を闘わすことが、何よりも大事であると信じる。それが、特に高次レベルの偽情報―点としての偽情報ではなく、「物語の塊」としての偽情報―に惑わされず、未来の日本の物語―最近「偽情報=物語」とする言説があるが、悪い物語もあれば良い物語もある―を民主主義的に作り上げて行く上で、非常に重要なことである。

表紙はこんな感じです― 

『物語戦としてのロシア・ウクライナ戦争』表紙

以下、詳細な目次を掲げる―
 
まえがき
 
序 論
1 「大きな物語の終焉」後、物語にまみれた戦争が起こった
2 問題点――ロシアの強さ? そして物語
 
第一章 ロシア・ウクライナ戦争の物語生成機構
1 ナラトロジーと物語生成論の構図で見るロシア・ウクライナ戦争
1・1 ロシア・ウクライナ戦争の年代記、ストーリー、物語言説
1・2 歌舞伎風物語にするとしたら
2 「物語の戦い」とその諸概念
2・1 偽情報物語とその具体例、その理論的背景
2・2 物語戦
 
第二章 物語生成のポストナラトロジーの方法─理論的背景
1 時代の変化と物語理論の変化――ポストクラシカルナラトロジー、ポストナラトロジー
1・1 (古典的な)ナラトロジー
1・2 ポストクラシカルナラトロジー
1・3 ポストナラトロジー
2 物語生成システムと認知科学・人工知能
2・1 物語生成システム
2・2 認知科学・人工知能としての物語生成
3 物語生成のポストナラトロジー
3・1 ポストナラトロジーから物語生成のポストナラトロジーへ
3・2 ロシア・ウクライナ戦争の統合物語生成システムモデルに向けて
 
第三章 ロシアとウクライナの物語戦─交差と離反の観点から見る
1 豊島の著書に見る日本のロシア・ウクライナ戦争論の典型構造
2 プーチンとロシアの物語
2・1 物書きの伝統とプーチンの「ロシア > ウクライナ」思想  
2・2 プーチン=ロシアの近年の物語論的動向
3 ウクライナおよび支援国の物語論的対抗
3・1 ゼレンスキーの演説と情報発信
3・2 ウクライナ政府のロシア関係偽情報対策
3・3 娯楽的物語コンテンツ
3・4 アメリカ政府からのロシア偽情報物語への対抗
3・5 日本政府の立場と行動および日本が抱える未完物語
4 ウクライナからの物語生成
4・1 ロシア史との交差を含むウクライナの歴史物語の概要
4・2 悲劇の混沌またはウクライナ軽視の歴史と伝統――ブラッドランド、スターリニズムとナチズムの挟撃
4・3 マイダン革命とそれ以降
5 物語の亀裂から覗くリアリティとそれを語る物語――ワシーリー・グロスマンと物語の最後の砦
5・1 『万物は流転する』におけるレーニン批判
5・2 『人生と運命』における「道行」の物語構造
5・3 内部への多重的・多元的参入の物語構造
5・4 「尽し」の羅列技法
 
第四章 日本のロシア・ウクライナ戦争見取り図――中間報告
1 文献の調査・分析とロシア・ウクライナ戦争オントロジーに向けて
1・1 文献資料の収集
1・2 概念と主題の抽出からロシア・ウクライナ戦争オントロジーへの展望
1・3 橋下徹の場合
2 ロシア・ウクライナ戦争を巡る日本の物語戦の論評的考察
2・1 日本におけるロシア・ウクライナ戦争物語戦の俯瞰のために
2・2 ロシア・ウクライナ戦争原因論の構造整理
2・3 停戦・降伏勧奨論――様々な反米論・親露論の切り張り型プロパガンディストとしての橋下徹
2・4 楽観的な非戦主義プロパガンディストとしての想田和弘――「戦後民主主義」のほとんどコミカルな徹底
2・5 ウクライナ客体論および二項対立批判論
2・6 権威主義的修辞という現象
2・7 日本言論人の対立‐交替の季節
 
結 論
あとがき
注 / 参考文献
 
(装幀=新曜社デザイン室)

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