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泰巖歴史美術館(東京都町田市・町田駅)

中世の戦国時代に特化したミュージアムは実は意外と少ない。もちろん城址公園や城を模した施設にあるミュージアムは多くあるものの、東京近郊となるとその数はグッと少なくなる。そんな中で戦国時代、特に織田信長の足跡に特化したミュージアムが町田市にある泰巖歴史美術館である。

織田信長の戒名である「総見院殿贈大相国一品泰巌大居士」の名を冠したこちらのミュージアム、戦国時代に織田信長が深く関わっていたという記録があるわけではない町田になぜあるかというと、こちらのミュージアムを設立した太陽コレクションの会長が町田で不動産業を営んでいるということからだと推測される。個人で収集した多くの貴重なコレクションを一般に公開しているということもありがたいが、なにより不動産業という業種を活かして非常に印象的なミュージアムの造りとなっている。

あの安土城が目の前に

入口からすぐに圧倒されるのが復元された安土城天主閣。2階までの吹き抜けとなった展示室の中に安土城の天主がそのまますっぽりと収まっているのである。その周囲には信長肖像画や愛刀である藤原氏房、複製された位牌が展示され、織田信長の生涯年表も詳しく案内されている。また狩野永徳の作と伝えられる天瑞寺の障壁画『松図』の原画復元がされている。原画が紛失されているこの作品の復元を試みたこの絵もまた見応えがある大きさである。

松図を復元

肝心の安土城はというと、1階の展示室からは安土城天主の5階部分、2階の展示室からは天主の6階部分が見られるようになっている。5階部分には釈迦が弟子たちへ説法している絵や金箔の柱に上り龍と下り龍が施されているなど朱塗りの床や階段と共に見る者に強烈なインパクトを与える。6階部分には孔門十哲の絵が描かれている。安土城の復元は滋賀県の安土城跡でも同じように試みられているが、都内にもこういった復元があるのは驚きのほかない。

6階部分も覗けるよ

2階には桶狭間の戦い直前に寄った熱田神宮の信長塀が再現されており、こちらもまたミュージアムの信長愛が伝わってくる。一方で信長の生涯を紹介した映像があり、こちらでは収蔵品の紹介と共に信長の生涯を追っているのだけれど、なぜか信長の肖像以外の武将(今川義元や武田信玄や上杉謙信など信長の生涯に関わった人物たち)の絵が全てチープな手描きの絵というのが緩くて面白い。肖像の使用に許可が降りなかったのだろうか。なぜ信長以外は小学生が描いたような似顔絵なのか。めちゃくちゃ面白い。

熱田神宮の信長塀の再現

3階では織田信長を中心にしてその一族や家臣、また同時代の戦国武将たちの手紙や肖像画を中心とした展示になっている。信長本人の朱印状や黒印状は複製が多いものの、父の信秀、息子の信忠・信雄・信孝の書は本物、また家臣である前田利家や豊臣秀吉、それに同時代の徳川家康や武田信玄、本願寺顕如などの本物の肖像や、明智光秀や松永久秀の書状があったりと、ここだけでも見応えがたっぷりあり戦国時代好きにはたまらない展示となっている。

安土城は天井画も良い

4階は一転して合戦の時代というテーマで、各家に伝わる甲冑や刀剣などがここで紹介されている。中でも刀剣の来国光がしれっと重要文化財だったり、秀吉の着用していた陣羽織(孔雀の羽があしらってある)など興味深いものが多数。前田家、藤堂家、井伊家、毛利家といった戦国の群雄たちの家に伝わる甲冑なども大量に展示されているほか、関ヶ原合戦絵巻や大坂夏の陣図、長久手合戦図屏風といった当時の様子を伝える絵巻物もまた面白い。

展示室内は撮影NGなので安土城をさらに

5階では茶の湯に特化した展示をおこなっている。一際ここで目を引くのが復元された待庵である。茶室として国宝に指定されている数少ない茶室(愛知県犬山市の如庵と京都府大徳寺の密庵、それに京都府妙喜庵の待庵)である待庵は日本最古の茶室建造物であると共に千利休が作ったとされる唯一の茶室で、その再現がここにある。如庵は三井記念美術館で再現されていることを考えると、同じ国宝の茶室再現がここにあるというのはかなりレア。もちろんその他にも千利休やその弟子たちである古田織部、織田有楽斎などの手がけた茶道具や同時代の茶器、それに狩野元信の四季花鳥図屏風など侘び寂びを思わせる展示内容で溢れている。

吹き抜けになっているので両方とも見られる

都内にこういった戦国時代の気風を残しているミュージアムは細川家の永青文庫と佐竹家の千秋文庫くらいだろうか。個人コレクションでここまでの数を揃えられるのはさすが。戦国時代に興味があればいくらでもいられそうなインパクトのある貴重な美術館である。トイレはウォシュレット式。

町の中に不意に現れるヘックス模様の箱

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