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『零落』作り手の苦悩と堕落

竹中直人監督作品。苦悩する漫画家が主人公の作品。
苦悩から抜け出せぬままで終わってくれたのが個人的には好み。変に前向き感がある作品はあまり好まないから。
でも、堕ちて堕ちて堕ちても死なずに生き続けたなら、あとはあがっちゃうもんなのかも。

高尚な漫画を描きたい人もいるけれど、世間が求めているものは、特に何も考えずに片手間で読める漫画だったりする。そもそも、頭をフル活用して思考しながら読むなんて論外で、気楽に読んで、気づいたらなんか涙が出て感動している、みたいな漫画。でも、そういう作品を読んで心が揺さぶられ、救われたとかいう人も出てくるし、なによりも売れる。

どちらがいいとか悪いとか言っているわけではないし、この映画に出てくる漫画がそういうものだったと言っているわけでもない。
作り手と読み手の求めるものの相違や、ましてそこにビジネスが絡むと、売れる作品を作らねばならないというのは当然。悩ましいけれど、そういう問題は昔からどこにでもあることだし、なにも漫画の世界に限ったことではない。
本当に好きな作品だけを作っていきたいならビジネスにせず、同人誌やネットの世界で発表していくべきなのだろう。
そんなの分かり切ったことなのかもしれないけれど、そこから抜け出せないのがこの映画の主人公。とはいっても、どうにもできないジレンマというのが作り手には常にあるのだろう。

自分の漫画が売れ、いい結果が出たんだから、うまく繕っておけばいいものの不器用なせいかそれができないみたい。
ファンの女の子から「先生の作品に救われました!頑張って生きようと思いました!」と言われたら、ありがたく受け取ればいいけれど、それができなかったのは真面目な性格ゆえなのかもしれない。

しかも、それは仕事だけではなく、私生活でもその不器用さが発揮されるからなかなかうまくいかない。友達も、恋人も、家族も。
ザ・拗らせボーイ…じゃなくて、拗らせ中年(?)。
それでも癒しは欲しいからそれは風俗へ求める。こう考えると、男は(…とひとくくりにしてはいけないね)この主人公は、お金で癒しが買えたんだからいいよね。結果的に虚しいだけだろうけれど、その場は癒されているし・・・。今回のケースはもう少しうまくいったみたいだし・・・。
女もホストやらにハマる人もいるけれど、お金を出して買う時間って癒しにならない。むしろ疲れるだけで苦痛きわまりない気がしてしまう。そう考えると推し活なんて健全。

しかしだね、この主人公役が斎藤工なのが、、、結局どうあがいてもイケメンで体つきもいいから、ひきこもってても苦悩しててもどこかリアル感が薄い気がする~。
一方で、脇役だったけど志摩遼平の演技がおもしろかった。あの左手の動き~笑。態度はニコニコでスゴイスゴイ言うけど実はよく分かってない、こういうかっるーい感じのキャラクターって今時多いのかな~。

昔、営業をやっていた時に、売れないヤツは洋ナシだけど、売れると(その場でだけ)神になれるという世界を毎日見ていた。私もいっときはその数字の世界にどっぷりと浸かっていたし、売れれば、年齢も性別も何も関係なく偉くなれる。フルコミッションであれば給料にも比例する。ただ、それをずっと継続するのは大変なこと。そのうち、色々な手段を使いはじめ停職に触れた人もいた。それに近いギリギリのことをしていた人もいた。バレなかっただけの人もいたかもしれない。そこまでして?と思われるかもしれないけれど、そう、そこまでする状況になるのだよ。
売れなくなる期間が続くと、その人は洋ナシとなるので、いづらくなって鬱々となり余計に結果を出せない。そのうち出勤できなくなる。というか、そういう人は気づいたら消えている。私がいた会社は外資系だったから顕著だったのかな。今考えると、ずいぶんブラックだな~。がんばった~わたし~。

何が言いたいかといえば、どの業界でも(法令順守の上で)結局数字であり結果なのかも。ダメだったけど頑張ったね!とか、結果にはならなくてもその思考はすごいね!とか、その過程を周囲が評価してくれるのは子どもの頃だけなのかも。我々はみな世間の求めるように生きねばならない。世知辛い~。

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