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あのこは貴族

育ちって何年も継ぎ足して熟成されたタレみたいなもので、変えようと思っても時間の経過と共により一層浸透しちゃってるから、そうそう簡単に味を変えられるものでもない。

歳をとれば取るほどに当たり前の常識として染み付いちゃっているから、人生を終える時に振り返ってみても結局育ちにがんじがらめにされていて、その発想から逸脱した世界を生きるする事は難しいのかなぁって思っちゃう。

そんなことを考えた。華子と美紀が東京タワーの見えるベランダでアイスを食べる終盤のシーンで。

「あのこは貴族」を観てきた。両親が開業医で渋谷の名家に生まれた門脇麦演じる華子と、地方から叩き上げで慶応に受かるも実家の影響で中退。いつまで東京で働いてるんだろうと悶々としている水原希子演じる美紀。育ちも考え方も全く違う2人の対比を軸に映画が進んでいく。

象徴的なのは何度も出てくるお茶のシーン。

おそらくホテルのラウンジだろう。アールグレイ、ダージリン、、、と毎回のように異なる種類の紅茶をさも当たり前のようにオーダーする華子と、同級生について行ったら5,000円もするアフタヌーンティーに「ぼったくりじゃん」と驚愕する美紀。この感覚の差が映画全体に行き届いていて、それぞれの世界での生きがいみたいなものを実感する反面、満ち足りない環境から互いの生活に微妙なりとも惹かれていく描写が見所。

2人が生きているのは同じ東京なのに、環境が交わる事が殆どない世界に気付いた方が幸せなのか?それとも気付かずに井の中の蛙でいる方が幸せなのか?

個人的にはお金に余裕の無かった大学時代に、サークルの友だちがバイトもそこそこに親からの仕送りでキャンパスライフを楽しんでいる姿を羨ましく感じた経験があったので、美紀寄りの考えに共感しながら映画を観ていたのだけれど、それこそ鑑賞者の育った環境でも所感がまったく違ったものになるんだろうなと思うと、多様な意見を引き出せる分、良い作品を作ったってことなんだろうな。

他の方も感想で書いていたが、ドラマでいうと水川あさみが主演してた「東京女子図鑑」、映画だと韓国のキム・ドヨンが監督した「82年生まれ、キム・ジヨン」にテイストが似ているので、「あの子は貴族」の雰囲気が好みなら、この2作品もすんなり観れる気がする。

門脇麦と水原希子ていうキャストも良かったが、最高にマッチしてたのは高良健吾で、なんとも言えない好青年感を出すのが絶妙に上手い。「ソラニン」「横道世之介」「シン・ゴジラ」と、彼の好青年感がマッチする作品は多い。

自分のタレがどのような色で熟成されているのかは他者の色と比較してみなきゃ判らない。比較してみて自分の世界が良いと感じるか、他者の世界に憧れるか。ふと立ち止まって考える機会も生活の中で必要なのかもしれないね。

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