【物語#5】水の都(仮)

【 物語 #5 】 水の都(仮)


*自作です。
*フィクションです

*冒頭


◇◇◇◇◇◇【 水の都 (仮) 】◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇ ふじおひろみ ◇◇◇◇◇◇

あのひとを失ったことは ただの事故。そんなことはない。そうでなければ耐えられない。わたしの研究はどこで間違えていたのか。多くの時間を費やし。多くの資金を投入し。おなじように科学の未来を夢みた彼の、いのちを、まさか秤にかけるつもりなどなかった。

その日、思えば彼は日頃よりも上機嫌で、あまりにも少年のようにそわそわと落ち着きなく過ごしていた。幾度も会話をしても、彼は何かを伝えてくることもない。なにか特別な、そう、例えばまるでクリスマスの夜か、世界一のヒーローが自分のために会いにやってきた日かのように。夢の霧を見つめていた。

時刻。
ほとんど睡眠もとらずに続けてきた研究の集大成。大きな結果を得られる日。あらゆる可能性を予見し、手を尽くした。この偉大なるデータは世界を牽引する、唯一 差別化された魂の作品となる。ふるくから数えきれない先人たちの命を継ぎ油として灯し続けてきたのだ。失敗などない。自信があった。全員がそうだ。すべての手筈を整えていた。他国から要人を招き。民を招いた。通常は閉鎖され 有事にのみ開かれるこの最も特別な客間に犇めく熱気は 建国以来とも呼べよう。


巨大な鐘が時を知らせる。
厳かで 柔らかな 優しい音色。
まるで音楽のように空気を静かに震わせる。
街の地下を走る地下鉄の音が止んだ。

『それでは始めよう』

王の声に身体の芯から震えた。勝機の痺れに他ならない。わたしの研究は世界を満たし、新たなる多くの科学者を生みだすことになる。友人らが安らかなる時間に浸るあいだに積み上げたものが結晶となったのだ。式典は滞りなく進行した。民間の者たちにも伝わるよう、丁寧な解説の時間も設けられた。すべての者が頬を蒸気させ、なかには泣き出す者たちもいた。わたしは人々を救えるのだ。そのちからを手にしたことに感謝した。


『理屈があわない』


どこからであったか。高く深く響いた。


『ひとつだけ、理屈があわないのだ』


彼は柔らかな笑みで現れた。
今日の式典では出番はなかったはず。


『わたしが証明しよう。我々は長きにわたり命を糧に研究を続けてきた。ここで破綻させるわけにはいかないのだ。今日の善き日、皆様に御同席いただき、その瞳の数ぶんで しっかりと歴史に刻みつけていただこう。こちらへ。』


フードを目深に被った者が近寄り何かを手渡した。ちいさな、何かだ。それを持ち替えるちいさな動きひとつで、わたしにはピンときた。


__鉱石だ。

『ほう。予定にはないな』

『イベントですよ。面白い結果をお見せしましょう』

全員で 完璧だと結論した研究だ。なぜ、いまになって。通常、研究における決裁権はわたしにある。しかし今日は式典だ。最終的な決裁権は王にあった。


『御前、失礼いたします。こちらはわたくしの研究員。すべての研究は完成しておりますゆえ、予定なき手を加えることははばかられます。研究結果の発表に留まらせていただきたく、こちら引き取らせて戴ければ幸いに存じます』


『そうか』


固唾をのむ好奇の目。彼をみれば、やはり瞳にはあの霧が読み取れた。何があった。日頃の彼は生真面目者で、まさか式典で予定のない行動を起こし周囲を困惑させることなど絶対にできようはずもない男。部下に合図をし、下げるよう指示を出す。

『みせてくれ!』


民間の声が上がった。
見れば、国に大金を納め、街で人望を集める男だ。

『研究所の人間が判断したんだろ!可能性があると!』


『予定にないのです。科学のちからは何が起こるかわかりません。』

『成功する可能性が高いから出てきたんじゃないのか!?』


『もちろんでございます』

『今日みた研究データは素晴らしかった!どうだ、公開研究だよ!』


民を扇動する。沸き立った。この男が最も得意とするところだ。
あなたは科学者ではないだろう。のどをつかえた。

『研究をまともにやってきたなら問題ないだろう!機材は揃っているんだ。そいつは見たことがあるぞ。科学者のひとりだ。研究所でも相当な立場を持っているはずだ。』


『.....左様でございます。』


『しかも身内ときている。近々 婚儀の場が予定されていたはずだ。』


『.....申し訳ございません。...許可をくだせません』

『王よ!我が国の権威を、叡知を、皆さま方に御覧いただく善き機会ですぞ!ただのパフォーマンスですよ。完成された研究に ほんの少し進化の手を加えるだけです。必ずや、世界で唯一の発展国として名を轟かせましょうぞ!』


王が側近を呼び寄せる。
やがて わたしに向かい問うた。


『巨大な損失がでる畏れはいかほどか』


『...展開後を考慮し、ある程度までの外的要因に対する科学的防衛力と対策は手はずしております。』


『爆発などは』

『それは...起こり得ません。しかし』

『ならば、よい』


王が小さく笑った。錯覚かもしれない。


『許可が降りたぞ!さぁ!みせてくれ!我が国の誇りを!』


男が嬉々として叫んだ。それは狂気にも似た空気を放つ。科学者としての危険信号が絶対的な防御の必要性を報せた。

『しかし王!なんの保証もありません!』


『よい』


『人体細胞の研究はいのちに関与いたします。仮に反応は成功しても、献体に』


『ならば、その男で試すがよい。志願者であろう』


『......』


『成功した研究の証明なのであろう?献体を入れ換えよ』


『人体での研究は、まだ、完成とはいえません』


『ほんの少し試すだけと聞いたのだが?情報が違っていたか』


『やらせてください!そのためにわたしは居るのです』


『まて◯◯。どうしたんだ。』


すれ違いざま。

彼は涙を流していた。

『それでは始めましょう。この国が羽ばたく善き日を、皆さま方が誰ひとりとして見逃すことのなきよう!』

本意を知ったのは ずいぶんと後になってからだった。

わたしは彼を取り戻すため、新たな研究に取り掛かった。クローン研究。そう、彼は死んだのだ。パフォーマンスと称された必要もない公開実験で。亡骸を抱き泣き落ちるわたしにバツが悪そうな王の姿をみた。研究資金に糸目は無かった。やがて完成させたクローンは、まるで彼そのもので、まるでそこに生きているかのよう。...身体だけは。共に暮らす日々は残酷であることこの上なかった。それでも、少しでも多く彼を取り戻すため研究に没頭した。脳を解析し、性格や習慣、思考回路をインプットした。ただひとつ、取り戻せないものに最も時間を費やした。『思い出』だ。


わたしは世界的権威の名で担ぎ上げられた。それは王なりの償いだっただろう。世界でも未だ完成されていないクローン研究。作れたとしても倫理的に却下されることが見込まれる。わたしの研究はいつまでも出来あがらなかった。あの天才でも手を焼く。それがクローン研究だ。世界ではそう信じられた。つくったクローンは、まだ脆かった。貴重な一体を失えず、また変化なき研究で同じクローン体を創っても意味もなく、やがて彼の身体は機械で補填する箇所が増えていった。抱きあえば ひんやりと冷たく 温度すら足りない。長い時間をかけて 自分自身の血液を採集し保存した。愛のない科学成分などで彼の身体を充たすことなどできなかった。


やがて遺伝子研究は以前よりも発達し、細胞研究も発展した。それでも。ヒトを創ることはできても、彼を、つくることが叶わない。 どこまでも、ただ 足りない記憶を追いかけ続け 完成しない研究を続けた。休むこともなく研究所に籠り続けるわたしに、部下達は何をいうこともなかった。できることがあればという言葉にも笑顔で返し、距離を置いた。


クローン体は、完成、していないのだから。

時が過ぎ。幾度もの『あの日』を越えた。

彼は今日もわたしを抱きしめて笑う。
まるで、彼かのように。
わたしの血が流れる、その身体で。


わたしは、なにを間違えたのだろうか。

どこで、間違えていたのだろうか。


わたしは

_____パタン

『行こうか』

『お持ちにならないのですか』

『宝物は宝部屋に飾るものだよ』

『かしこまりました。薬師がお待ちですよ』

『助かるよ』


コツ。コツ。
静かに足音は反響した。ひとの気配などない。


『行ってくるよ◯◯。また、今夜』


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三角(右)街の下にある噴水広場には、女性の銅像がある。ほんとうに銅像。ただ、町中と、霊山の登山ルート(表参道的な)にある石膏像は、リアル人間が石膏になったもの。街の人間は、(たぶん科学のちからで)記憶操作をされていて、石膏像のなかに身内がいるはずなのに、存在を忘れている。石膏になった側のメンバーについても、レジスタンス的なチームでの話がある。ヒューマンドラマ。

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三角(右)たまに石膏像に、白い色を塗って歩くやつがいる。端からみたら、石膏の補修。ただ、それは薬学的なもの。リアル人間だから。薬で腐敗を防ごうとしている。(空気に触れると酸化するし)。中身のリアル人間は、仮死状態。どうして仮死なのかは内緒。


三角(右)霊山をシメているのは、バイオロイド。もともとはクローンだった。博士は女性。理由あって亡くなった恋人の遺伝子を使ってクローンを作ったが、研究中で上手くいかず、死なせたくないためにキカイを組み込む選択をした。クローンで作れるのは、遺伝子発現に関与する部分のみ。【記憶】に関しては、遺伝子発現しない。そのため、結果的に、記憶はチップをいれることになった。博士は博士であるがゆえに、恋人に似たものを作れたけれど、そばにいればいるほど、クローンが恋人と違うことを感じてしまう。そんななかで博士は殺される。ヒトに。クローンくんが人間を憎んで、いろいろやった結果が【水の都】の完成。


三角(右)博士の銅像のカラダのなかにはチップが数枚入っている。なんのチップかは内緒。


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