サブスクリプションの見える化 (1/3) ―長期契約は点でも線でもなく面で捉える
10/15に書いた記事では、驚くほどたくさんの方々に読んでいただき、オンライン・オフラインそれぞれで、さまざまな感想をいただきました。本当にありがとうございます。
ネットフリックスの値上げから考えるサブスクリプションモデルの適切なKPI設定
しかし、理論の実践は思った以上に高いハードルがあって、実践に向けた具体的な内容を今後の記事に上げていきたいと、こちらの記事に書きました。
投稿初日で4.4万PV、Twitterトレンド入り。拡散を経験して変わったことと変えていきたいこと
少し遅くなってしまいましたが、今回はその第1弾です。
先日の記事でも書いた通り、私自身もBtoBのサブスクリプションのビジネスでマーケティングやデータ分析を担当しています。そこで、私が普段行っていること(後半はちょっと願望が入りますが…)を紹介しつつ、サブスクリプションという長い時間をかけて利益の積み上げ必要なビジネスを分析する際の注意点や勘所を整理し、そこからどんな示唆が得られるか、できるだけ具体的に考えてみたいと思います。
その目的は、以下の通りです。
①自社ビジネスの特徴や傾向をつかみ、ボトルネックや注力するポイントを見つける
②過去の実績から算出した予測の変遷を捉え、現状を再評価する
③予測した数値から、この先どのくらいを目指すべきか判断する
①~③ともに、BtoB、BtoC問わず、サブスクリプションのビジネスでデータを分析したり、課題を見つけて対策を考える実務者の初心者の方向けに書いていくつもりです。
また、サブスクリプションのみならず、リピーターが大切なEC業界やアクティブユーザー数がものをいうWebアプリ業界など、長期契約者とのリレーションが必要なさまざまな業界で使えるものも多いと思います。そんな方たちの何かの参考になれたらうれしいです。
※と思って書き始めたら1回で書ききれないくらい長くなってしまったので、今回の記事では①だけ書きます。①~③まで1週間以内の短期連載にするつもりですので、よろしければお付き合いください。
まずは、前回の記事の振り返り
中身に入る前に3枚のスライドで前回の内容を少しだけ振り返ってみたいと思います。
こんなお話しでした。
このように単純化した図解はわかりやすく、概念を理解するうえでは非常に便利です。(その点がたくさんの反響につながったのでしょうか)
しかし、どう単純化しているかといえば、全体から折れ線グラフの1本(1ヶ月分)を切り取ったにすぎず抽象度が高く、これだけでサブスクリプションビジネスの実態を表しているとはいい難いかもしれません。
実際には、下のグラフのようになり、線で捉えるようと思っても傾向をつかむことはできませんし、今、誰に何をすべきかわかりません。
前回の記事で、サブスクリプションの強みは長期的に安定した収益をあげられること。弱みは利益が上がるまでに、どんなに優秀な企業でも2年~3年かかるように投資を回収するのに時間がかかることと書きました。つまり、良くも悪くも長期戦です。
さきほどのグラフのどこに問題があるのでしょうか。それは・・・、
サブスクリプション契約に顧客が満足し、長期的な関係を構築するためには、契約の初期段階がもっとも重要です。例えば、UI/UXなど顧客体験の改善、ステップメールやプッシュ通知などの育成プログラム、BtoBであればハイタッチな営業/サポートなど、契約初期の顧客満足度がその後の収益に大きな影響を与えます。
しかし、ある地点の売上計上日で見ると、新規および契約初期のユーザーの収益のインパクトは小さく、上のグラフのように長期契約ユーザーの十分に積み上がった収益に埋もれてしまいます。
そこで、第1回となる今回のテーマは、
①自社ビジネスの特徴や傾向をつかみ、ボトルネックや注力するポイントを見つける
表題の「点でも線でもなく面で捉える」分析として最初に取り上げるのは、「コホート分析」です。
※下のヒートマップは、1つ前と2つ前の折れ線グラフと全く同じ数値を参照しています。(数値は仮定したもので実在するものではありません)
作り方・読み方について、今回のコホート分析は、縦軸に「顧客の初回取引開始月」、横軸に「何ヶ月目か」で作成しました。
このようにすると、同じ月に売上が計上された実績は斜めに伸びていく形を描きます。
すると、表を縦に見比べることで、顧客が1か月目でどうなったか、2ヶ月目でどうなったか・・・を比較することができます。
先ほどの大きなヒートマップが27ヶ月経過後の最終型ですが、その過程でどのような示唆が得られるか見てみましょう。(スマホでご覧になっている方は数値が読めないほど小さいと思います。すみませんがセルの色でなんとなくつかんでいただければ十分です。)
■6ヶ月目
ここまでは、大きな傾向はなく、すべて3ヶ月が損益のボトムで、4ヶ月目から少しずつ回復。しかしすべての期間で赤字が続いています。サブスクリプションであれば、そんなに早く収益化できないことは想定済みとは思いますが、この損益の幅が計画通りかどうかは重要です。また、大きな変動がなく、一定であるということも大切な発見です。
■11ヶ月目
16年2月に獲得した顧客が7ヶ月目で初めて黒字になりました。(祝杯をあげましょう)
ここで注目すべきは、それ以前(15/10~16/02)の顧客がすでに最大11ヶ月目を迎えているにも関わらずまだ赤字だということです。つまり、傾向に変化が現れています。(ですが、このように可視化しないとなかなか気づけません)
16/02の顧客は何がうまくいっているのでしょうか。おそらく現場では顧客層がこれまでと違うのか、広告など獲得媒体が違うのか、契約後の育成プログラムがうまくいっているのか、といった違いのヒントをつかんでいるはずです。
まずは、それが正当なものか、今後も続くのか評価しましょう。そして、16/02以降に獲得した顧客が何ヶ月目で黒字化を目指すべきが議論しましょう。
今回は、うまくいったのには正当な要因があるため、「もっと早く黒字化を目指せる!」「4ヶ月目に黒字化を目指そう!」と考えたことを想定して次に進みます。
■16ヶ月目
16/03~16/06までは一進一退が続いていましたが、そう簡単に成果が出るものではありません。しかし、16/07からやっと実を結び、4ヶ月目で黒字化でき、16/07の7ヶ月目には過去最大の売上を残していることがわかります。(祝杯をあげましょう)
■27ヶ月目
17/07で獲得した時期あたりから、黒字化が少しずつ遅くなっていることがわかります。しかし、社内の成功プロセスは何も変えていません。この場合、市場が不景気 or 目先のパイを取り尽くした or 競合の追撃を受けている といった外部環境の変化が考えられます。直ちに原因を調査し対策を考えましょう。(祝杯をあげる雰囲気ではありませんが決起会の開催です)
このように、顧客の初回取引開始日から、何ヶ月目にどうなったかを捉えて対策を行うことは、サブスクリプションビジネスでは決定的に重要です。また、これはサブスクリプションに関わらず、ECやサービス業などリピーターになってもらうことが重要なビジネスの全体でいえることだと思います。
今回は利益を例にあげましたが、単純に売上で見てもいいですし顧客単価で見てもいい。また、解約件数を見ればどこが顧客の解約が多いかをつかむ上で非常に有効な情報が得られるはずです。
また、自社のビジネスに合わせて、どこを1ヶ月目と置くのかも非常に重要です。例えば、Apple Music は3ヶ月間、Netflix は1ヶ月間の無料トライアルがありますし、Spotify や AbemaTV 期間無制限のフリーミアムとして利用できます。それらを含めた期間にするか、課金開始からにするか。BtoBであれば、例えば、AWS であれば、1社で複数の契約を持つことが多数ありますので、会社単位でみるか、契約単位で見るか。salesforce.com のように1年契約であれば横軸の期間は年単位にすべきかもしれません。おそらく、それぞれが全く別物のヒートマップができると思います。
顧客体験や自社の課題に合わせて、必要なものを選んで取り組みたいところですが、まずは色々やってみてから必要なものを残すくらいの感覚のほうが面白い発見が得られるかもしれません。
終わりに
お気づきの方も多いと思いますが、今回の内容(およびこれから3回に分けて紹介していく分析手法)は、何もサブスクリプションに限った話しではありません。むしろ先例は異なるビジネスで使われてきたものばかりです。
しかし、ビジネスの本質は変わらない部分も多く、先例から倣う部分は非常に大きいです。大切なのは、ただ手法に当てはめるだけでなく、自社のビジネスに合わせて自分なりの解釈を加えて、どのように組み合わせるか、なのではないかと思っています。
今回の内容が、なぜサブスクリプションのビジネスと相性がよく、どんな示唆が得られたのかお伝えできていればうれしいです。
次回予告
最初に書いた3つの目的の1つを書いたらもうお腹いっぱいなくらい長文になってしまいました。ですので、3つの目的それぞれを3回の記事に分けて書いていくことにします。
今回は①について書きましたので、次回は、
②過去の実績から算出した予測の変遷を捉え、現状を再評価する、スタッガー・チャート
を紹介します。①~③まで1週間以内の短期連載にするつもりですので、よろしければお付き合いください。
また、noteのマガジンにまとめていきます。こちらのフォローをしていただけたらうれしいです。
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