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ITエンジニアが花農家を始めたら大変だった話

前回の記事では、フルタイムエンジニアを辞め、エンジニアと農家の兼業を開始したことをお話しました。兼業を始めてから1年が経過し、この1年間の経験や当初の想定との違い、そしてこれからの方向性についてご紹介します。

ここで言う「花農家」とは、フラワーショップでの販売業務ではなく、実際に畑で種や球根、苗を植えて花を栽培する人のことを指します。

前回の記事で触れた主要なトピックを簡潔におさらいします。内容の要点は次の3つです。

  1. 農業にIT技術を取り入れる

  2. 週に3日はエンジニアとして、残りの日は実家の花農業に従事する

  3. メインにダリアを、サブとして菊を栽培する

当初は「IT技術を活用してダリアを低コストで大量生産し、利益を上げる」という意気込みがありました。しかし実際に始めてみると、予想とは異なる様々な課題が浮き彫りになりました。

ITの活用に関する課題

農業を始める前、私は「多くの農家がIoTなどのIT技術をを活用できていないので、それを上手く取り入れれば競争力が出るはず」と考えていました。しかし実際に始めてみると、IT技術を導入する以前の問題が多く、導入しても期待したほど効果がないことが明らかになりました。

露地栽培であること

IoTなどIT技術をを効果的に活用するためには、機械利用が前提の施設栽培(ハウス内栽培)が必要です。しかしながら、私の地域での花の栽培はハウスなどの施設を使わず、屋外の畑で栽培する「露地栽培」が主流です。これは、花の単価がそれほど高くないため、ハウス建設のコストが施設栽培による収益増を上回ってしまうことが理由です。加えて、広い農地が限られており、小規模な農地が多く点在しているため、大規模な施設を建設することが困難です。露地栽培では、IoTの活用可能な領域は主にモニタリング程度に限られます。しかし、モニタリングの対象となる気温、日照、湿度などはコントロールできないため、IoTの活用は限定的でした。

利益率の向上についての難しさ

農業を始める際、よく耳にするアドバイスが「ブランディング」や「販路拡大」によって利益率を高めることです。

ブランディングによる単価の向上は可能か?

お米や野菜を購入する際、多くの方が産地や栽培方法に注目します。例えばお米であれば魚沼産であったり、野菜であれば無農薬栽培などです。しかし、花を購入する際に産地や栽培方法を気にする方はほとんどいません。これにより花は野菜とは異なり、ブランディングや栽培方法を利用して単価を上げることが困難です。

販路拡大の可能性はあるか?

イチゴの場合、栽培ハウスの近くでの直売やイチゴ狩りが一般的です。また、トマトではスーパーとの契約栽培を含む多様な販路が存在します。しかし、花に関しては市場での販売を除き、他の販路の選択肢はほぼありません。

具体的に説明すると、イチゴ農家が年間にイチゴを3000kg生産した場合、そもそも単品での需要が高く、ジュースやスイーツの加工も多様です。これにより、大量取引が可能で契約栽培が成立します。しかし花の場合、花農家は年間で数種類の花を数千本から数万本生産しますが、小売業者は様々な種類の花を少量ずつ使用し、一種類を大量に扱うことは少ないです。多くの花屋は小規模で、さまざまな種類の花を少量ずつ扱っています。したがって、一種類を大量に必要とするニーズが少なく、契約栽培が成立しにくいのです。

ダリア栽培の高い経費について

苗の高価格

ダリアの苗は他の花と比較して価格が高めです。更に、種苗会社が苗のライセンスを保有しているため、自家育苗が禁止されており、毎年新たに苗を購入する必要がある品種が多いのです。

高額な運送費と箱代

花農家の経費の大部分を占めるのは、運送費と運送用の箱代です。特に箱代は、地域の農家と共同で購入してコスト削減を図っていますが、それでも相応の費用がかかります。そこで、出荷時には、可能な限り多くの花を一つの箱に入れようとします。ただ、ダリアのように花が大きく花びらが擦れやすい場合、花が傷むと返品の原因になり得るため、慎重に梱包する必要があります。例えば、菊では1箱に100~200本が入りますが、ダリアの場合は20~30本が限界です。このため、ダリアの場合は箱代が高くなりがちで、出荷本数が増えると輸送費も高くなってしまいます。

体の問題

アレルギー

私はホコリや花粉に対するアレルギーがあります。これは農業を始める前から知っていました。実家にいる間はアレルギーが発症しても何とか対処してきましたので、農業を始めても大丈夫だろうと考えていました。しかし、実際に農業を始めて直接ホコリや花粉に触れると、以前とは異なる症状が現れました。今までは酷い場合でも鼻水が続く程度でしたが、農業を始めてからは喉にもアレルギーが出て、喉の痛み-> 発熱 -> 咳が止まらない。というサイクルに陥ることが4ヶ月に1度程度のペースでありました。

腰痛

ITエンジニア時代はずっと座って作業していたので、農業での体を動かす作業が体力向上につながると期待していました。しかし実際には、重い物を持つことや長時間のしゃがみ作業が腰への負担を予想以上に大きかったです。ITエンジニアとしての長時間の座り作業と農作業のダブル効果で、腰痛が発生し、整体治療を受けることになりました。

花農家としての1年間の経験

1年間の花農家としての経験を通じて、始めの想定と現実には大きな違いがあることが明らかになりました。私は「農家への参入障壁の高さと高齢者の割合の多さを考えると、ITを駆使して花の栽培に成功すれば利益が出る」と考えていましたが、事実はそう簡単ではありませんでした。この1年を振り返ると、以下の3つの点が特に印象深いです。

  1. ITの活用は思ったほど進まない

  2. 花農業における利益率の向上は難しい

  3. 農作業は体を動かすが、必ずしも健康につながるわけではない

これから農業を続けるのか

今後も農業は継続する方向で考えています。ただし、ダリアの栽培規模を縮小し、代わりに菊を主力として栽培する予定です。この決定に至った主な理由は以下の通りです。

  1. スプレー菊(スプレーマム)の人気上昇

  2. 実家では菊を長年栽培しており栽培技術を学ぶことができる

  3. 菊の市場規模の大きさ

  4. ダリアに比べて経費あまりかからない

1~3の理由はわかりやすい理由なので、4つ目の「ダリアに比べて経費あまりかからない」について詳しく説明します。

ダリアに比べて経費あまりかからない

菊はダリアに比べてライセンス不要な品種が多く、自家育苗が可能です。これにより苗にかかる経費が大幅に抑えられます。さらに、菊の花は小さめで、運送用の箱に100~200本(ダリアは20~30本)収めることができ、ダリア栽培時の高い箱代の問題も解決します。

今後の展望

菊は盆や正月などの需要増加時に価格が上がります。電照技術を活用して菊の咲き時を調整し、需要が高まる時期に合わせて出荷することが可能です。これからは、経済的な農業ハウスを建設し、コストを抑えた環境制御で菊の電照栽培を進める予定です。
ITエンジニアとしての活動も並行して続け、1年後には再び今後の方向性を見直す予定です。
あと腰痛改善のためパーソナルジムに最近通い出したので1年間は続けたいです。

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