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[4−14]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第14話 その情けがいらないというのなら、どうぞご自由に

 ティスリわたしは、リリィのせいでいらぬ冷や汗を掻いてしまいましたが……この地域の郡庁長官との面談が開始してからは、思っていたよりスムーズにリリィは話を進めてくれました。

 スムーズというよりも、強圧的に話を進めている状態ではありましたが、彼らに同情の余地はないのでそこはよしとしておきましょう。

 むしろリリィのような、高位貴族でかつ強気な性格であるほうが適任と言えます。

 そのリリィが、長官の男を睨み付けながら言いました。

「つまりあなたは、先に逮捕された領主の命令でやっただけで、自分にはなんの落ち度もないと言いたいわけですわね?」

「い、いえ! 自分に落ち度がないわけではないといいますか、ですが自分としましても、義伯父ぎはくふにあたるヴォルムス様の命令には逆らえないわけでして、それでやむを得ずといいますか──」

「だからあなたは、この国の女王どころか、いずれは世界の女帝になる王女殿下よりも、犯罪者と成り果てた元領主を優先したのでしょう?」

 いやわたし、女王になる気なんてもはやないんですが……っていうか世界の女帝ってなんですか……!?

 しかし身分を隠しているわたしが訂正するわけにもいかないのでぐっと堪えていると、長官は、さらなる長広舌で言い分けをし続けていました。

「ちちち、違います! 決してそのような意志があったわけではありませんが、しかし直接的に相対するのは領主のヴォルムス様でありますからして、面と向かって領主様に反旗を翻すことは、すなわち国家反逆にも等しい行為であることも重々ご承知頂きたく──」

「ええい! 回りくどいですわね!」

 リリィがぴしゃりと言い放ち、痩せぎすの長官がビクリと震えます。

「長官、ならば問いましょう。なぜ領主が逮捕された今でも、税率が高いままなのですか?」

 その指摘に、長官は目を見開いて言葉を詰まらせます。

「そ、それは……その………………い、行き違いでございます!」

「行き違い?」

「は、はい! 行き違いです! 領主様が逮捕されたことを我々が知ったのはつい最近のことでして、ですのでちょうど今から、税率を元に戻そうとしていたのです!」

「当然ですわね。しかし、すでに取り立てた税収についてはどうするつもりです?」

「も、もちろん平民に還付致します!」

「ふむ。そうですか」

 ここでリリィは書類を取り出しました。事前に、ミアさんに借りた村の帳簿です。そこには、これまでの税金に関する履歴が書かれています。

 その帳簿を見ながらリリィが言いました。

「この帳簿によると過去10年間は税率が高いままですわね」

「え、あ……はい。領主様の意向だったものですから……」

「ということは、過去10年に遡って還付する必要がありますわね」

「じゅ、10年分を!?」

 長官は目を剥いて、悲鳴のような声を上げます。

「ま、待ってください! 過去10年ともなれば、膨大な還付金になってしまいます!」

「あなた方は、その膨大な金をせしめていたのですから当然でしょう?」

「我々が懐に入れていたのではありません! すべて領主が徴収していたのであって、我々の手元には、そのような大金は残っていないのです!」

「ふむ……仕方がないですわねぇ」

 ここでリリィが態度を軟化させる仕草を見せます。

 それを見て、長官は幾ばくか表情が和らぎました。

「わ、分かって頂けましたか……?」

「そうですわね。さすがのわたしも、借金をしてでも還付しろとは言いません」

「ありがたきお言葉……ではせめて、今年分は還付するということで……」

「は? 何を言っているのです?」

 長官の言葉を受けて、リリィは再び視線を鋭くしました。

「過去10年に渡って取り過ぎた金額は、すべて還付させますわよ。当然でしょう?」

「い、いやですから……そのような大金は……」

「現金がないなら、これから先20年間の税率を下げればよろしいでしょう?」

「は……?」

「ざっと試算したところ……向こう20年間は税率を8%にしなさい。そうすれば還付金額が相殺されます。ああもちろん、国庫に納める税率は変えてはなりませんよ? 過剰徴収はあなた方の落ち度なのですから」

「ままま、待ってください!?」

 長官は、いよいよ涙目になって立ち上がりました。

「そんなことをしたら我々は干上がってしまいます!」

「あなた方貴族の給金を減らせば、そんなのどうにでもなるでしょう?」

「な……!?」

「それで駄目なら家屋敷を売り払えばよろしいでしょう? アレ一つで、平民の家族が一生暮らせるだけの財になるといいますし」

「我々に、平民と同じ暮らしをしろというのですか!?」

「ええ、そう言っているのですよ」

「我々だって貴族だ! テレジア家が如何に大貴族であろうとも、我々の身分を脅かす行為は──」

「あー、うるさいですわね」

 そうしてリリィが、ぐっと身を乗り出して言い切ります。

「本来なら、あなた方は領主と共に逮捕される身なのですよ? それが分からないのですか?」

「……!?」

「逮捕されれば身分はただの犯罪者。だというのに、テレジア家であるわたしが、情けを掛けてあげると言っているのです。20年もの猶予まで設けて」

 リリィのその言葉に、長官は絶句しました。

「ですがその情けがいらないというのなら、どうぞご自由に。明日にでも、このことを明るみにして王女殿下の判断を仰ぐだけですから」

 もちろんわたしは今この場にいますから、判断も何も、この筋書きを書いたのはわたしです。

 こんな小悪党なんていつでも逮捕できるのですが、そうなったら連鎖的に多くの地方貴族を逮捕することになります。

 私利私欲にまみれた貴族といえども、さすがにゼロになってしまっては行政が回りません。さらには逮捕したところで失ったお金も帰ってきませんし。

 なので生かさず殺さずにして、労務はしっかりと果たしてもらおうというわけです。そうはいったって普通に生活できて、ちょっとした娯楽を楽しむくらいの余裕は残るはずですから。

 『自分は貴族である』というプライドさえ捨てれば、ですが。

 果たしてこの長官は、貴族のプライドを捨ててじつを取るのか──とはいっても、拒否したらそのプライドすら取り上げられて犯罪者になるだけなので、長官は、あからさまな渋面を作りつつも頷きました。

「し……承知致しました……リリィ様のお気遣い……感謝致します……」

「心にもない礼なんていりませんわ。あ、そうそう。当然ですが、中央から文官を派遣しますからね。この期に及んで税率を誤魔化すことなどできないと知りなさい」

 そうして長官は、ぐうの音も出なくなって、うなだれるだけになるのでした。

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