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[3−30]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第30話 飲酒魔法ですよ。忘れたのですか?

 一通りの農業体験を終えたティスリわたし、アルデ、ユイナスさんは、その晩、ミアさんのお宅に訪れました。先日計画したアルデの同窓会に参加するために。

 まぁ部外者のわたしも参加するので、同窓会というよりは懇親会という感じになりましたが。

「あれ? 面子ってコレだけなの?」

 そうしてミアさんにリビングへと案内されると、アルデが首を傾げます。リビングの中にいたのはナーヴィンさんだけでした。

「よぉ。遅かったじゃないか」

 配膳を手伝っていた様子のナーヴィンさんが片手を上げてきます。そのナーヴィンさんにアルデが言いました。

「昼休みの様子からして、ティスリ目当てに、もっとたくさんの連中が詰めかけてくるんだと思っていたが……」

 アルデのその予想を聞いて、ナーヴィンさんがニヤリとします。

「ティスリさんと吞めるってのに、連中を誘うわけないだろ」

「え? お前、声かけなかったの? オレはてっきり、お前が伝えたとばかり思っていたから、みんなには知らせなかったんだが……」

「伝えるわけあるか。人数が多くなればなるほど、ティスリさんと話せる時間が短くなるだろうが」

 それを聞いて、アルデは呆れたようにため息をつきました。

「はぁ、まったく……お前というヤツは。けどナーヴィンはともかく、ミアも声がけしなかったのか?」

 アルデに話を向けられたミアさんは、ちょっと慌てた感じで言いました。

「え……!? あ、いやその!? 声を掛けようと思ったんだけど、意外と忙しかったというか、思いのほか伝言が回らなかったというかで……」

 なぜか慌てているミアさんを、ユイナスさんが横目で睨みつつ、アルデの腕にしがみつきました。

「お兄ちゃん、この女はいつもこうだからね!」

「いつもこうって……? っていうかお前こそなんで付いてきてんの?」

「酷い! たった一人の妹をけ者にするつもり!?」

「いやだって、いちおう今回は同窓会という趣旨なのに。お前、学年違うじゃん」

「ティスリだっているじゃない!」

「まぁ……別にいいけどさぁ。あと人を指差すのはやめなさい」

 アルデは、わたしに向けられた人差し指を下げさせながら言いました。

「ティスリもこれでよかったか?」

「ええ、構いません。村の方々との懇親は、またの機会にでも致しましょう」

 そう頷くと、ミアさんがわたしたちを促します。

「そしたら座って座って。料理もちょうど運び終えたところだから」

 ちなみにミアさんのご両親は、役場がある街へまだ出張中とのことで、今日は同席していません。

 ということで席順は、アルデ、ユイナスさん、わたしという順で座り、その向かいにミアさんとナーヴィンさんが座りました。

 今回、わたしはユイナスさんの隣に座りたかったので、家に入ったときから順序を調整していたのです。

 この機会に、なんとしてもユイナスさんと仲良くならなくては……! なぜ仲良くなりたいのかは未だによく分かりませんが!

 わたしが意気込んでいると、ホスト役でもあるミアさんが聞いてきます。

「ティスリさんは何を呑みますか?」

「そうですね……」

 テーブルに並べられているのは、葡萄酒の赤と白、それと麦芽酒に、おそらく自家製の混成酒もあります。せっかく作ってくれたのなら混成酒を頂こうかしら……

 と思ってわたしがミアさんに言おうとしたところで、アルデが横やりを入れてきました。

「いや待て待て。『そうですね……』じゃないだろ?」

 その横やりは予想していたものの、わたしはいささかムッとしてアルデを見ます。

「なんですかアルデ。このわたしに、お酒は呑むなと言いたいのですか?」

「そのお前に、酒は呑むなと言いたいんだよ当たり前だろ」

 わたしたちのやりとりに、ミアさんが首を傾げました。

「あれ? ティスリさんってお酒が吞めないの?」

 するとわたしの「そんなことはありません」という返事と、アルデの「その通りだよ」という答えが重なりました。

 だからわたしはムッとしたままアルデをめつけます。

「アルデ、何事も決めつけはよくありませんね」

「決めつけも何も……お前は、酒を呑む度に散々な目に遭っているだろーが。頭がいいのに忘れたのか?」

 アルデのその台詞も想定内だったわたしは、鼻を鳴らして見せました。

「ふふん、そんな話はもう過去の出来事です」

「いや、過去の出来事って……自らの失敗を反省しないヤツは、ずーっと同じ失敗をし続けるんだぞ?」

「わたしがそんな愚かなことをするはずないでしょう? もちろん失敗を糧にして対策済みです」

「対策済みって、どんな?」

「飲酒魔法ですよ。忘れたのですか?」

「あ、ああ……」

「アルデの方こそ記憶力がないようなので一応説明してあげましょう。領都の旅館でわたしが開発して、あなたに試飲してもらった魔法のことですよ」

「覚えてるって。けどあれ、酒がメチャクチャまずくなるじゃん」

「ふふ。だからこのわたしが、あれからなんの対策も講じていないはずないでしょう?」

 そうしてわたしは、無学なアルデに説明を始めます。

 結論から言えば、飲酒魔法(仮)は、お酒から酒精を抜こうとしていたことが間違いだったのです。

 酒精ありきで美味しくなるよう考えられているお酒から酒精を抜いたら、それはまずくなるのは当たり前だったわけですね。もし酒精を抜きたいなら、そういうレシピをあらかじめ作っておくほうがいいわけですが、しかしそれではもはやお酒ではなくジュースです。葡萄ジュースを飲んでいるのと変わりありません。

 では、どうすればいいのか?

 わたしは胸を張って説明を続けました。

「お酒から酒精を取り除けないのならば、酒精を吸収しなければいいわけです、体内に。まさにこれこそが、発想の転換というものなのですよ」

 わたしの完璧なその発想に、アルデはマヌケ面で「はぁ……?」と首を傾げます。

 どうやら、お猿さん並の知能指数しかないアルデには、わたしの端的な説明では理解が追いつかないようですね。だからわたしは「やれやれ……」と思いながら説明を付け加えました。

「わたしの計算によると、酒精度数1%未満であれば人体への影響はほぼ出ません。そして酒精吸収は、内臓によって行われますから、そこに対して、酒精だけをブロックする結界魔法を展開させればいいのです。こうすることで、お酒の風味を損なわずに楽しめるのです!」

 わたしの力説に、しかしアルデは相変わらずアホ面でした。

「いや、魔法の詳細ははよく分からんが……それって結局、酔っ払えないってことなんじゃね?」

「それはそうでしょう? アルコールは摂取しないんですから」

「………………………………まぁ、いいか」

 やっぱりアルデは、わたしの話を理解できなかったのでしょう。難しい顔をしていましたが、考えるのを放棄したのか、最後には頷きました。

「で、またオレが実験台になるのか?」

「いえ、今回の飲酒魔法(改)は、もともとお酒が吞める人間で実験しても、その効果は分かりづらいですし、今回はわたし自らが試します」

「………………………………まったくもって、悪い予感しかしないんだがなぁ」

「あなたは、わたしを誰だと思っているのですか?」

「天才なのは認めるけど、でもお前って、料理と酒に関してはぜんぜんダメだから……」

「料理だって美味しく作れますよ!」

「ねぇちょっと!!」

 わたしが抗弁しようとすると、間に挟まっていたユイナスさんが声を上げます。

「いつまでわたしの頭越しに言い合いをしてるのよ!」

「あっ……すみません……」

 し、しまった……ついムキになって、ユイナスさんを不愉快にさせてしまいました。

 わたしが頭を下げると、ユイナスさんは、なぜかハッとしたような顔つきになって「べ、別にいいケド……」と言ってきます。どうやら許してくれたようです。

 いずれにしても、これでわたしとアルデの言い合いは終わり、だからミアさんが改めて聞いてきました。

「それで……ティスリさんは結局どうしますか? お酒」

 ミアさんのその問いかけに、わたしは即座に頷きました。

「もちろん頂きます。その混成酒は自家製ですか?」

「はい、そうなんです。チェリーをベースに作ってみました」

「ではそれを頂きましょう」

 わたしたちはそれぞれのお酒を手渡され、ユイナスさんはまだ未成年だったのでジュースになりました。ちょっと不満そうでしたが、こればかりは致し方ありませんね。

 そしてナーヴィンさんが席を立つと言いました。

「それじゃあ、オレとティスリさんの出会いを祝して、乾杯!」

「いやなんで、お前とティスリの出会いを祝さねばならないんだよ……」

 ナーヴィンさんの乾杯に、アルデがぼそりと言いましたが、それでもわたしたちはグラスを持ち上げて乾杯します。

 こうして懇親会は始まったのでした。

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