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[3−14]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第14話 わたしのお兄ちゃんを手玉に取ろうっていうの!?

 貴族であるこのリリィわたしが、ただの平民でしかない少女に揺すられるだなんて……!

 しかし、ここでユイナスの機嫌を損ねたら、お姉様にあることないことを言われかねません。

 お姉様とユイナスの関係がどのようなものかはまだ定かではありませんが、いずれにしても、お姉様に対するわたしの心証は悪化することでしょう。

 そもそも、わたしがこの村にまで来ていることがバレてしまいます。お姉様の出方が分からない以上、今はまだバレるわけにはいかないのです──

 ──そんなわけで、わたしはやむを得ず、お姉様の身分についてをユイナスに伝えました。

「あの女……まさか王女だったなんてね……」

 平民とは思えないほど肝の据わったユイナスですが、さすがに、お姉様の正体がこの国の王女殿下だったことに驚きを隠せないようですね。

 何しろお姉様は、身分を問わず有名人で大人気ですから!

 本来なら、政治にはあまり興味を示さない──というよりほとんど何も知らない農村部の平民にすら、お姉様のお名前は知れ渡っているのです。

 何しろここ数年の行政改革により、とくに税負担を軽減したことで、お姉様は平民からも大変慕われていると聞いています。

 平民にまで情けをかけてあげるだなんて、本当にお姉様ってば女神様のようですわ……

 ああでもでも……そんなお姉様ではありますが、ひとたび怒らせたなら悪鬼羅刹のごときお姿に豹変するわけで……

 この前だって、王城を半壊させるほどにお怒りになって……けど、そんなギャップのあるお姉様が大変にステキで、わたしだってあんなに怒られたことはないのに、あの間男ときたらお姉様のご寵愛を一身に浴びて!

 しかし今回は、わたしの方が怒りを買ってしまうかも。だってお姉様が隠していた身分ひみつをわたしが漏らしてしまったのですから……!

 こんなことがお姉様の耳に入ってしまったなら、いったいどれほどのお叱りを受けてしまうのでしょう……!?

「ねぇちょっとあなた! 聞いてるの!?」

 ──と、そこで。

 目の前の少女に声を掛けられて、わたしはハタと我に返りました。

 何かを話しかけられていたようですが、怒り狂うお姉様の想像に夢中だったわたしは聞いていませんでした。

「え、あ、はい……なんですか?」

「なんですか、じゃないわよ! お貴族様は人の話を聞けないの!?」

「ちょっと考え事をしてただけではありませんか。それで何を話していたのです?」

「まったく……とにかくね、この国の王女が、いったいなんの用でこんな農村に来たのって話よ」

「それはわたしが聞きたいくらいですが、おそらくは、あのまおとこ──いえあなたのお兄様の故郷だったからではないかしら?」

「お兄ちゃんの故郷だったからって……そ、それってやっぱり、つまりは……!」

 何かを感づいたらしいユイナスは、大きく目を見開きました。

 わたしはユイナスが何に気づいたのかが分からず、首を傾げます。

「何か思い当たる節でもありまして?」

「ありまして? じゃないわよ! あの女、やっぱりお兄ちゃんを狙ってるんだ!」

「狙っている……? まぁかつては亡き者にしようとしてましたが、今は和解したらしいですわよ」

「命を狙っているって意味じゃないわよ! いやだから命を狙う王女ってのもどうかと思うけど今はそうじゃない!」

 鼻息を荒くしたユイナスが、わたしの前にぐいっと詰め寄ってから断言しました。

「あの女、お兄ちゃんと結婚しようとしてるのよ!」

「……………………は?」

 斜め上の発想──どころか、次元が何段階かすっ飛んだ発想に、わたしは呆けるしかありません。

 そんなわたしを捨て置いて、ユイナスは語気を荒げて話を続けます。

「だってそうでしょう!? そうでなければ、男の田舎なんかに来たがったりしないわよ! そしてついさっき、思惑通り家族に紹介されたってわけ! お兄ちゃんにその気がないからって、外堀を埋めようとしているわけよ! なんて姑息な女なの!?」

「ちょ、ちょっと待ってください……!」

 話がどんどん異次元のほうへすっ飛んでいくので、わたしは慌てて制止します。

「ユイナス、あなたわたしの話を聞いていましたか?」

「聞いてたから憤ってるんでしょ!」

「いや聞いてませんよ。お姉様があのまおと──あなたのお兄様と結婚を考えているだなんて、あり得ません」

「なんでよ!? 現に実家にまで押しかけて来てるじゃない!」

「なんでも何も、お姉様は王女殿下なのですよ?」

「だから何よ!」

「王女殿下であるお姉様が、平民と結婚だなんてするはずがないでしょう?」

 わたしがそう告げると、ユイナスの勢いが幾分和らぎます。

 ユイナスは、顔をしかめながらもわたしに聞いてきました。

「なんで、王女と平民が結婚しちゃだめなのよ?」

「なんでも何も……それが世界の秩序だからですわよ」

 この国に限らず、各国の王族は、神々からその権能を与えられたのです。少し前まで、現人神とすら思われていたのが王族という存在だったのですから。

 事実、王族の能力は、平民はもちろん他貴族の追随も許さないことが多いのです。それを体現したのがまさにお姉様なわけですから。わたしが「お姉様は女神様」だと言っているのは、比喩でも何でもなく厳然たる事実なわけです。

 そんな、神にも等しい権能を持っているお姉様が平民と結ばれたりしたら……天変地異が起こってもおかしくはない一大事なのです。

 具体的に言えば、中央から地方までの貴族は大混乱するでしょうし、そもそも、お姉様の伴侶になるということは、この国の王になるということですから、貴族たちが従うはずもありません。さらに勘違いを起こした平民達が蜂起する可能性だってあります。

 つまりとんでもない内乱が起きるわけです。それ以外にも様々な混乱が起こることでしょう。

 まぁ……お姉様のことですから、国を滅ぼしかねない内乱が起きたとしても、一人で平定してしまうのでしょうけれども……しかし、王女と平民が結婚したなどという先例を一つでも作れば、のちのち大きな禍根を残します。

 そうすれば、遠からず統治体制が抜本的に揺らぐことでしょう。いくらお姉様とて、不老不死ではないのですから。

 そしてもちろん、そんなことを分からないお姉様であるはずがありません。

 だからあの間男と結婚だなんて、あり得るわけがないのです──

 ──ということを、わたしはユイナスに言って聞かせると、彼女はやや釈然としない顔つきになって言いました。

「言わんとしていることはなんとなく分かったけど……じゃあなんで、あの女は実家うちに来たのよ?」

「それは分かりかねますが……ただ……」

「ただ?」

「例えばただの貴族であるならば、ちょっとした気の迷い、あるいは一時期の火遊びである可能性は否定できないわけで……」

「な、何よそれ!?」

 ユイナスが再び目を剥きました。

「結婚は考えてないけど、わたしのお兄ちゃんを手玉に取ろうっていうの!?」

「妙な言い方しないでください! お姉様がそんなお考えのはずありません!」

「言い出したのはあなたでしょ!」

「ただの貴族を例えに出しただけです!」

 例は少ないですが、男を囲っている女性貴族という存在もゼロではない──と聞いたことがあります。まぁその場合は、夫に相手にされない妙齢の女性貴族であるようですが。

 もちろんお姉様がそんなことをするはずもありません。何しろ見た目麗しく、性格だって可愛らしくも凜々しくて、あれほどにステキな女性が男を囲っておく必要もないのですから。

 そう考えると、わたしもいささか例えを間違えたようですね。なのでわたしは咳払いを一つしてから言いました。

「今の例えは悪かったですわね、訂正します──ですが、お姉様の真意が分かりかねるのも事実。だからわたしから一つ提案があるのです」

「……提案って、何よ?」

「わたしたち、手を組みませんか?」

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