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[3−1]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第1話 約束ですよ? 必ず、連絡をくださいね

 武術大会もなんとか閉幕し、その祝勝会も終えた翌日。

 ティスリわたしとアルデは、フェルガナ領都を出立することにしました。

 本当はもう少し滞在する予定だったのですが、王女であるわたしの顔が知れ渡ってしまいましたので、おいそれと観光をするわけにもいかなくなりましたし、すでに王宮から追っ手が掛かっているでしょうから、予定を繰り上げることにしたのでした。

 だからわたしは、ため息交じりに言いました。

「まったく……あの元領主には迷惑ばかり掛けられます」

 この旅館には王族専用のエントランスがあって、わたしたちは今そこにいました。アルデの他には、大会を通して親交を深めたフォッテスさんにベラトさんの姉弟もいます。

「まぁ仕方がないさ。アレだけ派手にやらかしたらな」

 アルデが苦笑してきますが、わたしの苛立ちは収まりません。

「そもそも、わたしは身分まで明かすつもりはなかったのですよ? だというのに、あの元領主が出しゃばるものだから──」

「まぁ、ああいう輩を放置しておくのもまずいだろ。ならむしろ、ここで逮捕できたんだからよかったじゃないか」

「それはそうかもしれませんが……」

 わたしは、なんとなくグレナダ姉弟に視線を向けます。その視線に、二人は不思議そうな顔つきでしたが、アルデがぽんっと手を打ちました。

「あ、そうか。おまいさん、姉弟との別れが寂しいから文句言ってんのか」

「は……!?」

 思いも寄らぬ事を言われてわたしは絶句していると、アルデがいらぬことをベラベラとしゃべります……!

「大会中は練習詰めで、姉弟と観光地巡り出来なかったもんな。本当なら、大会が終わってから四人で巡る予定だったのに──」

「ちちち違いますよ!?」

 わたしは慌てて頭を横に振るとアルデの言葉を遮りました。

「このわたしが寂しがるはずないでしょう!」

 するとアルデがニヤリと笑って言ってきます。

「なんだよ、同じ釜の飯を食べた仲だってのに薄情なヤツだな。ちなみにオレは寂しいが?」

「なっ……!?」

「誰かとの別れを寂しがったりするのは人として当然だろう? だというのにティスリときたら、人間味がないというかなんというか……」

「………………!」

 アルデがわざとらしくお手上げのポーズを取るので、わたしは無言で、アルデの背中をバシバシ叩きます。割と本気で。

 だからアルデが「痛ぇよ!?」などと言って距離を取るので、わたしがそうはさせまいと本格的に腰を落とすと──隣にいたフォッテスさんがクスクス笑っていました。

「ほんと、お二人とも仲がいいですね」

「よくありませんよ!」

 アルデとケンカしていると、フォッテスさんはなぜかいつもそんなことを言ってきます。わたしは「本気で、眼科医か何かに見せたほうがいいのではないかしら……?」などと心配していると、ベラトさんも言ってきました。

「確かに皆さんと観光できなかったのは残念ですが、致し方ありません。王女殿下を警備もナシに連れ回すわけにもいきませんし」

 フォッテスさんも頷きながら言いました。

「それに、殿下が街を歩いていたら、それだけで大混乱ですし。この旅館の周囲は、大勢の臣民に取り囲まれているそうですよ?」

 そんな状況を聞いて、わたしはますますため息をつきました。

「はぁ……だから事を荒げたくなかったのです」

 わたしのそのつぶやきに、アルデがまたも茶々を入れてきます。

「その割に、ノリノリだったじゃんお前さん。元領主を言いくるめたときなんて──」

 わたしがキッとアルデを睨んだら、アルデは素知らぬ顔で明後日の方向を見るのでした。

 そしてわたしは、改めてグレナダ姉弟に視線を送ります。

「この埋め合わせは、いずれ必ず。わたしたちは暇ですし、状況が落ち着いたら連絡をください。文字通り飛んでいきますから」

 わたしのそんな言葉に、グレナダ姉弟は屈託のない笑顔になって頷いて、さらにフォッテスさんは、おずおずと右手を差し出してきました。

「もちろんです殿下──いえ、ティスリさん」

 その指先は、わずかに震えています。普通、どんな貴族であったとしても王族と握手を交わすなんて出来るはずもなく、だから平民のフォッテスさんにとっては、畏れ多すぎる行為のはず。

 にもかかわらず、こうして手を伸ばしてくれたことに、わたしはこれまでにない嬉しさを感じました。

 そしてわたしも小さく笑って、フォッテスさんの手を握り返します。

「約束ですよ? 必ず、連絡をくださいね」

 そうしてわたしたちは、エントランスホールでグレナダ姉弟と別れを告げて──

 ──一路、アルデの故郷へと魔動車を走らせるのでした。

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