[4−22]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第22話 もはや、農業視察というより農業革命だった
郡庁のある街から帰ってきて一週間が過ぎる。
その間、ユイナスはとても悩んでいた。
なぜならティスリの戦力と権力を様々と見せつけられたからだ。
王女としてのティスリの権力は、おそらく、わたしが考えている以上のものなのだろう。正直、地方貴族があそこまでビビるとは思っていなかったし、憲兵隊長なんて土下座してたじゃない、土下座。
しかもあの守護の指輪って何よ? 敵意を向けられただけで相手を爆殺するってどんな魔具なのよ!?
お兄ちゃんに「あの指輪さえあれば、どんな国の王城も攻め落とせるんじゃない?」と聞いてみたら、「いいかユイナス。深く考えないことだ。決して、な」などと真剣極まりない表情で諭された。
だからどういうことなのよ!?
っていうか、そんな武器を常に身につけているなんて危険極まりないから、村に帰ってきてからソッコーでティスリに返したけどね。ティスリはくれるって言ってたけど、あんなの身につけたままお母さんとケンカでもしたら、下手をしたらお母さんを爆殺しかねないじゃない!
まぁ……いずれにしても、だ。
貴族達が、ああもへりくだっているのは見ていて痛快ではあったけど、裏を返せばティスリの権勢はそれほどに絶大であるわけで。
だとしたら、下手に逆らったりしたら、それこそあっさり処され兼ねない!
お兄ちゃんが、あれほど「ティスリに失礼な態度をとるな」と言っていたのが、今ならよく分かるわ……っていうかお兄ちゃん、なんであんな人の元で働けるの!?
そもそもお兄ちゃんの身がいちばん危ないじゃない! お兄ちゃんははぐらかしているけど、なんか殺されかけたとか言ってたし!
これは本格的になんとかしないと。
ということで目下の問題としては──
あのデタラメな魔女からお兄ちゃんを取り戻したいけれど、強硬手段に打って出ることはできない。でもこのままだとお兄ちゃんの身が危ない!
──ということだった。
「けど、だからといってリリィに相談してもなぁ……」
炎天下の中、わたしはリリィが滞在している天幕に向かっていた。相談しても意味なさそうというのは分かっているけど、さりとて、ティスリのことを相談できるのはリリィしかいないのだ。
そうしてわたしがとぼとぼ歩いていたら、後ろから声が掛けられる。
「ユイナスさまぁ〜〜〜」
様付けなんて、なんとも心地よい感じで名前を呼ばれて振り返ると、見回りの女性隊員が小走りにやってくるところだった。
「ユイナス様、ごきげんよう。今日もリリィ様とご歓談に?」
別にわたし、リリィとおしゃべりしたいわけじゃないんだけど……でもよくよく考えたらリリィと知り合って以来、ほぼ毎日だべっているので、どうやら周囲には仲良しのように思われているらしい。
まぁでもリリィの友達と思われていたほうが、何かと待遇もよくなるし、いっか。例えばお茶菓子なんて絶品だ。もう、実家のおやつは食べられそうにない。
ということでわたしは、とくに否定もしないまま隊員に言った。
「あ、うん。ちょっと相談があるんだけど、いま大丈夫?」
「はい、今日はお休みとおっしゃってましたし大丈夫だと思います。先行してリリィ様に知らせておきますね」
そういって女性隊員は走って行った。この暑い中、ご苦労様って感じね。
そうしてわたしは、今や顔パスで大貴族の天幕に招かれる。
天幕内は空冷魔法とやらで涼しかった。ちなみに我が家にも、ティスリがこの魔具を設置してくれたのでとても快適だ。動力がどうなっているのかは謎だけど。
そんな快適空間の中でリリィは……ソファに寝そべって呻いていた。
「何よ、まだ筋肉痛なわけ?」
呆れてわたしがそういうと、リリィはしかめっ面で言ってくる。
「あなた方のほうがおかしいんですのよ。どうして、あれほどの重作業をしておきながら、翌日も動けるのですか……」
「あんなの重作業でもなんでもないわよ。軽作業もいいところ。そもそも、ほとんどティスリの魔法で自動化してたじゃない」
「ええ! さすがお姉様──いたぁ!?」
声を荒げたせいで筋肉痛の腹筋に響いたらしく、リリィは呻き声をあげる。
「まったく、情けないわねぇ」
わたしは、そんなことをつぶやきながら向かいの椅子に座る。そして侍女が出してくれたアイスティーで喉を潤して、お茶菓子を頬張った──
──郡庁の街から帰ってきてからは、ティスリは再び農業視察に精を出していた。
必要物資も街から調達したということで、様々な魔法農具も開発していた。っていうか魔具って、そんなポンポンと作れるものなの?
だからもはや、農業視察というより農業革命だった。
通常は、村人総出で一ヵ月はかかる収穫作業だというのに、わずか一週間で作業を終えてしまったのだから。そんなとんでもない光景を、わたしたちは呆然としながら眺めていた。
とはいえ最初は、農作業自体をティスリに見せる必要がある。そのデモンストレーションだけでリリィは筋肉痛になったとのこと。そもそも論として、何時間も立ちっぱなしであること自体が初体験だというのだから聞いて呆れる。
っていうか別にリリィが農作業を手伝う必要ないんだけど、ティスリにいいところを見せたかったらしい。実際は邪魔にしかならなかったけれども。
そんなリリィは「どっこいしょー」と掛け声を掛けてようやく起き上がった。おばあちゃんか?
「それでユイナス、今日のお姉様のご様子は?」
「開口一番ソレかよ……」
わたしは呆れながらも──まぁ大金もらった手前もあるし、ティスリの様子を説明する。
「あっという間に農作業も終わっちゃったし、農業関係は終了ね。その代わり、今日は午後から、村の広場でみんなと宴会するみたいよ。ティスリをねぎらって」
「そうですか! この村の臣民も、お姉様の凄さをよく分かったみたいですわね!」
「そりゃあ、あれだけの農具をもらったとあっては、ねぎらわないわけにもいかないでしょうよ」
「でもお姉様にとっては、その宴会も公務みたいなものですし。お姉様、この村に来てからというものの、ほとんどお休みになられていないのではないかしら」
「あのティスリなら大丈夫なんじゃない? 疲れなんて微塵もなさそうだったけど」
「あれほどの魔具を一人で制作し、さらには農作業も手伝っていたら、ぶっ倒れるのが普通ですのよ?」
まぁ、普通はそうよねぇ。でもティスリは本当に、全然へっちゃらな顔をしている。別に疲れを隠しているとかそういうんじゃなくて、まったくもって平然としているのだ。
「ねぇリリィ。ティスリっていったいどうなってるわけ?」
「どうなっている、とは?」
そうしてわたしは本題を切り出した。
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