[3−17]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第17話 でも、それだけですから
そして──アルデの背筋に悪寒が走る。
「血は繋がっていない」というミアの言葉は、ごく普通の受け答えのように感じたのだが、しかし二人は沈黙してしまう。
(な、なんだ……!?)
オレは沈黙した二人を見る。
ミアは寂しそうにうつむいているし、ティスリは笑顔で固まっているし……えっと……これはどういう状況なんだ?
オレの本能が、なんでもいいから何かを話せと告げているのだが──しかし言葉が出てこない……!
そんなオレに、ミアがチラリと視線を向けてくる。
オレが出せた台詞は、意味のない言葉だけだった。
「……ま、まぁ……そりゃあ血は繋がっていないよな?」
そしてオレが愛想笑いを浮かべると、ミアが苦笑する。
「そうだよね。本物の姉弟だなんて言い張ったら、ユイナスちゃんが許してくれないからね」
(あ、ああ……そういうことか)
ミアのその言葉に、オレは胸を撫で下ろす──ってか、なんで胸を撫で下ろすほどに緊迫感を覚えたんだ?
そんな疑問も浮かぶが、それ以上に、オレの脳内に過去のイメージが広がっていった。
「そういやミアは、ユイナスとは昔から仲が悪かったな」
「違うよ。わたしは仲良くしたいんだけど、ユイナスちゃんに嫌われちゃってるの、一方的に」
「あー……まぁそうだったか……」
そう言われてみれば、そうだったかもしれない。ミアは確かに姉御気質なところがあるし、正真正銘の妹であるユイナスとは仲良くしたかったのかもしれないが、ユイナスのほうが避けていたかもな。
まぁいずれにしても、今し方、ミアが一瞬悲しそうにしていたのは、ユイナスとの仲を憂えてのことだったわけだ。
とはいえ……そこはオレもどうしたものかと悩ましいわけで、だからため息をつくしかない。
「まったく……ユイナスの人見知りはどうにかならないもんかな。さっきも、ティスリに突っかかってきてさぁ……」
「………………」
「………………」
オレがそうぼやくと、どういうわけかティスリとミアが目を合わせる。驚いているようだが……何に驚いているのかオレには分からない。
だからオレは眉をひそめた。
「な、なんだよ? 二人して顔を見合わせて……」
そして二人は同時にため息をつき、ミアのほうが言ってきた。
「アルデがそんなんだから、ユイナスちゃんの人見知りが治らないんだよ……」
さらにティスリも言ってくる。
「ユイナスさんが可哀想になってきますね……」
「な、なんでオレのせいなんだ!?」
いわれのない非難に、オレは顔を引きつらせた。しかし二人とも、それ以上は説明してくれないので、責められる理由が分からない。
オレが悩んでいると、ミアはティスリを見ていた。
「まぁそんなわけで、わたしはアルデの姉にはなれないんですよ」
「そうですか……」
「ええ、そうなんです。でも、それだけですから」
「それだけとは?」
「そのままの意味です。深い意味なんてありませんよ」
二人がニコニコ笑って会話しているが、オレはその中にまったく入れない。
そして……えっと……なぜか怖いんですケド?
そもそもオレは、ティスリとミアを鉢合わせるのは避けたかったわけで。
思い出話がなんとなく始まったので失念していたが、とにかく、理由は分からないが、この二人を長く対面させておくのはマズい気がする……!
オレの勘はけっこう当たるのだ!
ということでオレは、お茶もまだ飲み干していないが退散することを決めた。
「それじゃ、ま、そゆことで」
オレが立ち上がろうとすると、ミアが顔を向けてくる。
「急にどうしたの? この後、何か用事でもあるの?」
「あ、いや……用事というか……そもそも地元に来たのは、ティスリに農村を案内するためだから、そろそろ麦畑でも見せようかと」
「それならちゃんと段取りつけたほうがよくない? できれば農業体験もしたいって言ってたでしょう? 急にいっても体験まではできないよ?」
「それはそうかもだが……」
「あ、そうだ。ならこうしない?」
ミアはぽんっと手を叩くと、オレとティスリに向かって言った。
「うちの畑も、ちょうど収穫を始めたから、農業体験できるよう伝えておくよ。そうしたら明日にでも体験できるよ?」
「えっ……そ、それは……」
オレが戸惑っているとミアはさらに言ってくる。
「アルデのうちは麦畑持ってないでしょう? だからアルデも農業のことは知らないじゃない。わたしは、村長業務の手伝いがないときは、農業だってやっているし。うってつけでしょ?」
ありがたい申し出ではあるが、やはり嫌な予感が拭えないので、内心で冷や汗を掻きながらオレは断りを入れる。
「いや、悪いって。村長業務だけでも忙しいってのに、ティスリの案内までさせるわけにはいかないって」
「大丈夫だよ。収穫時期の今は、主に農業を手伝っているから。それに、最近は貴族も大人しいから、村長業務のほうは落ち着いてるんだ」
「へ、へぇ……そうなのか?」
「うん。昔に比べて、気苦労がだいぶ減ったってお父さんも言ってたよ。なんでも、王女殿下のおかげなんだって」
「あ、ああ……そういう……」
チラリとティスリを見るが、当の本人は素知らぬ顔をしている──と、そのティスリと目が合った。
「アルデ、せっかくだからミアさんに案内してもらいましょう」
「え……?」
オレが戸惑いを隠せずにいると、ティスリがにこやかな顔をミアに向けた。
「元より、農業に関して、アルデの説明では心許ないと思っていたところでしたし」
「で、でもな……?」
オレが食い下がると、笑顔の下に不機嫌の三文字を隠しているティスリが言ってくる。
「でも、なんです? 何か後ろめたいことでもあるのですか?」
「あ、あるわけないだろそんなこと……!」
「なら、いいではないですか。わたしも、同世代の方に案内してもらったほうが気が楽ですし」
あ、これは……何を言ってもダメなヤツだ。
ってかコイツ、なんであんなに不機嫌なんだ? その不機嫌さは、ミアには伝わっていないようだが……
なのでオレは、これ以上、ティスリの機嫌を悪くさせないためにも渋々折れる。
「分かったよ……ならミア、悪いが案内を頼むよ」
するとミアは満面の笑みで頷く──どうやらこっちは上機嫌のようだ。面倒事を押しつけているというのに、なんでだ?
「うん、分かったよ。早ければ明日にでも農業体験できるから──あ、そうしたらその夜は、みんなで食事でもどう?」
「え? 食事……?」
「うん。アルデがせっかく帰ってきたんだし、友達も呼んでさ。卒業以来会ってないでしょ?」
「そ、そぉだなぁ……」
オレはチラリとティスリを見ると──ミアがさらに言ってくる。
「あ、もちろんティスリさんもどうですか? 無理にとはいいませんケド……」
するとティスリは、社交的な笑み満開で頷いた。
「ええ、ご一緒させて頂きます」
そういやコイツ、同窓会に参加したいとか言ってたっけな。知らない人間ばかりじゃ面白くもなんともないと思うが……
ティスリの妄言が、測らずも現実となってしまい、オレの胃はキリキリと痛み始めるのだった……
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