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[2−12]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第12話 アルデと出会ってからのわたしは、今までに感じたことのない心境に戸惑いを感じていて……

「ふむ……思ったよりしょっぱいですが、それなりの出来ですね」

 ティスリわたしは、自分が作ったスープを食べながら、そんな評価をくだしました。

 夕食時になり、アルデが「やっぱ、寸胴一つ分のスープは食べられそうにないから一緒に食べよう」と言ってきたので、スープとパンを部屋に運んでもらって夕食にしました。

「……アルデ、どうして涙を流しているのですか?」

 するとアルデが……なぜかハラハラと泣いています。わたしはいささか驚いて尋ねました。

「いやもうほんと……美味しくて……」

「そ、そんな泣くほどでもないでしょう? 少し塩味が強いですし」

「うん……でもそれがイイ……」

「そうなのですか?」

 お昼も同じ食事だったというのにそこまで感動してくれるなんて……わたしはちょっとだけ嬉しくなりました。ほんのちょっとだけですが。

 だから頬が熱くなるのを感じながらもわたしは言いました。

「でも、塩辛いのは体に良くないと言いますし……もう少し、調整が上手く出来るようになるといいのですが」

「そうだな。そのためには味見をするしかないな」

「さきほども言ってましたが、アジミとはなんです?」

 アルデが言うには、料理をするときにはちょくちょく味を確かめるそうなのです。つまみ食いは行儀が悪いと思っていましたが、確かに味を確かめたほうが、より美味しくなるのも頷けます。

 そうすれば、塩加減も適切に出来ることでしょう。

「分かりました。次回からは味見もしましょう」

「次回からって……今回は、オレが風邪を引いたから作っただけだろ?」

「キッカケはそうですが、なんだか料理が楽しくなってきました」

「そ、そうなのか? でも王女であるお前がやる必要は──」

「元ですよ、もと。今のわたしは平民と変わりないのですから、料理くらいはこなせないとと思ったまでです」

「そ……そぉかな?」

「今日はただのスープでしたが、これからは、もっと凝った料理に挑戦するのも面白そうです」

「ま、まぁ……趣味的にやるのはいいけどさ、そのときは、必ずオレも立ち会わせてくれよな?」

「別にいいですが、アルデも料理に興味があるのですか?」

「お、おぅ……そうなんだよ。ティスリが作るなら、オレも一緒に作りたいな〜? なんて思って」

 そんなことを言われて、わたしは……

 ふと、アルデとふたりで厨房に立つ自分の姿を想像して……

 な、なんですか……? この気持ち……

 どういうわけかとってもむず痒いんですが……!?

「……なんだかイヤです」

「なんでだよ!?」

 なので思わず断ってしまいました。

 そんなことを言い合っているうちに食事も食べ終えて、わたしはアルデに薬を飲ませてから、額に手を当てました。

「熱もだいぶ下がってきたようですね」

「おう。体もラクになってきたよ」

「これなら明日には動けそうですね。そうしたら洗浄魔法を掛けましょう」

 洗浄魔法は、水や石けんを使わずとも体を洗える魔法です。お風呂やシャワーのように心地よさがないので物足りなく感じますが、洗浄後にスッキリは出来ます。あと口の中も洗えるので歯磨きいらずです。

 普段はお風呂やシャワーを浴びるのですが、風邪を引いたアルデを湯船に浸からせるわけにもいきませんので。

 今日は、わたしも洗浄魔法で済ませてしまいましょう。

 ものの十数秒で体を洗い終えると、アルデがしげしげと言いました。

「いやほんと……便利だよな魔法って」

「そうですか? わたしは使い慣れているので実感ありませんが……あ、念のため回復魔法も掛けておきましょう」

 横になったアルデにわたしは回復魔法も掛けました。するとアルデが聞いてきます。

「なぁ……回復魔法もぽんぽん掛けてくれてるけど、この魔法ってかなり高位なやつなのでは?」

「ええ。最高位の回復魔法ですよ」

「どんだけ最高位なの?」

「そうですね……この国だと、神官長とその取り巻き達数十人が、三日三晩祈り続けてようやく発現させられるくらいには最高位です」

「………………まぢで?」

「嘘を教えても仕方がないでしょう?」

「ちなみに、お布施しようと思ったらいくらになるの?」

「そうですね……ちょっとした地方都市の財源一年分に匹敵するでしょうか」

「そんなのポンポン発現してんのか!? たかが風邪に!」

 アルデが起き上がるので、わたしは首を傾げて言いました。

「別に、わたしが発現する分には無料なのですから問題ないでしょう?」

「そ、それはそうだけども……!」

「それに、風邪は万病の元だと言ったでしょう? 治りかけが肝心なのですから、大人しく寝ていてください」

「わ、分かったよ……」

 アルデは再び横になると、わたしは言いました。

「まだ時間は早いですが、そろそろ照明も落としますよ」

「お、おう……ってかお前、今日はずっとオレの部屋にいるつもりか?」

「看病なのですからそうに決まっているでしょう?」

「いや……看病だからって付きっきりになる必要はないんだぞ?」

「そうは言っても、何かあったらまずいですし」

「何もないと思うがなぁ……」

「いいから寝なさい。あ、そうそう。まだそこまで体力は回復していないと思いますが、もしわたしに手を出したなら黒焦げですからね?」

「出さないっての! ……ん? っていうか……」

 アルデは、眉をひそめながら言葉を続けます。

「よく考えれば、オレたちは守護の指輪を装備してるんだから、別に、テントを離すために、オレを起こそうとしなくてもよかったんじゃ……」

「えっ? そ、それは……」

 あえて話さなかったことに気づかれて、わたしは口ごもりました。

 するとアルデは、ちょっと驚いた顔つきで言ってきます。

「もしかして……オレが黒焦げになるのを心配してたのか?」

「違いますよ!」

 わたしは、枕をひったくるとアルデの顔に押しつけました。

「いいから寝なさい! 早く! 今すぐに!!」

「もごもご……! もごもごもご!」

 枕の下でアルデが呻いているようですが、わたしはしばらく枕を押しつけっぱなしにしました。

 羞恥で顔が赤くなっているのが自分でも分かったので……

 なのでわたしは魔法で作った照明を消してから、アルデに枕を返しました。

「とにかく、余計なことは考えず寝るように。いいですね?」

「へいへい分かったよ、おやすみなさい」

「まったくもう……」

 わたしがため息をついてから、数分後にはアルデの寝息が聞こえてきました。

「相変わらず、すごい寝付きのよさですが……」

 今度は寝たふりじゃないかを確認すべく、わたしは頬を突いて目をこじ開け、体もくすぐってみました。

「どうやら、今度は大丈夫のようですね」

 わたしは安堵の吐息をつきます。

 窓には薄手のカーテンが引かれていますが、月明かりを完全に遮断できずに、部屋は青い光で満たされていました。そんな室内で、わたしはアルデの顔を眺めました。

 今回、アルデには迷惑を掛けてしまったので優しくしなくては……と思っているのに、どういうわけかケンカ腰になってしまいます。

 いったいどうしてなのか……

「きっと、アルデがいつも反抗的だからいけないのですよ」

 わたしは、アルデの寝顔を眺めながらそんなことを考えましたが、でも……

 ぜんぜん腹立たしくないんですよね、アルデがどんなに反抗的であったとしても。いえ、反論はしますしイライラもしてますけど……

 心の片隅では、むしろそれを楽しんでいる自分もいたりして……

 アルデと出会ってからのわたしは、今までに感じたことのない心境に戸惑いを感じていて……

 だからわたしは、月明かりの中でぼうっと考えていました──

 ──やがて、自分も眠くなってきたとき、ふと気づきます。

 ああ……そうか。

 そうだったのです。

 わたしは、夢の中に誘われながらも、はっきりと気づきました。

 そう……これこそが……

 この気持ちこそが……

「生意気な息子をもつ、母親の心境なのですね……」

 戸惑いの理由が分かり、わたしは満足して眠りについたのでした。

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