[3−21]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第21話 まるで、巧妙なトラップを仕掛ける狩人のような女ね! 女狐のくせに!!
「ああ、そのコのこと嫌いなんだ?」
ユイナスのカマかけに、しかしティスリはそこまで慌てることはなかったけど、さりとてハッキリとは答えてこない。
「いえ、嫌いというわけではないのですけれど……」
煮え切らないその態度にイラッとしたわたしは、さらに突っ込んで聞いた。
「なら苦手なのね?」
するとティスリは小さく頷いて「そうですね……そうかもしれません」とつぶやく。
う、う〜〜〜ん……
これは……ちょっとやっかいかもしんない。
ティスリがリリィのことを好いているのなら、すぐに引き合わせても問題なかったのだけれど、苦手なのだとしたらしばらく様子を見た方がいいだろう。その間に、何かしらの交渉材料を探さないとまずい。
っていうかリリィだって、避けられていることを薄々感づいていたからこそ、ティスリにすぐ会おうとはしなかったんじゃないの?
まったく……これまでどんだけやらかしたのよアイツ……!
思ったよりもややこしい話になりそうだったから、わたしはさらに探りを入れてみる。
「苦手って、いったいどのくらい苦手なの?」
「ええっと……どのくらいというと……」
「例えば、顔を見るのもイヤ?」
「いえ、そこまでは……」
「なら半径3メートル以内に居合わせるのは?」
「そ、それも別に……」
「その上でおしゃべりするのは?」
「え、えーと……?」
立て続けに質問しすぎたのか、ティスリは小さく小首を傾げる。
そんなティスリを代弁するかのように、お母さんが言ってきた。
「ユイナス、なんでそんなに興味を持ってるの? その親戚のコに」
「えっ!? べ、別に興味とかじゃなくて……!」
しまった……ちょっと突っ込みすぎた……!
わたしは慌てて言い分けを考え出す。
「ティスリの苦手な人がどんな感じなのか、知りたかっただけよ」
するとお母さんはさらに聞いてきた。
「なぜそんなことを知りたがるの?」
「大した意味はないわ!」
「…………」
お母さんが不審な視線を向けてくるが、わたしは目を逸らして、それ以上の追求を避けた。
いくら不審に思われたって、わたしは別に悪いことはしていない。ただ単に、ティスリがリリィのことをどう思っているのか確認しただけなのだから。
だからお母さんだって、わたしを責めることはできないはず……!
そう考えていたら、不意にティスリが「あ……」という声を上げたので、わたしは思わずティスリを見た。
「な、なによ……?」
「いえその……もしかして……」
「もしかして……!?」
何かに気づいたっぽいティスリに、わたしは思わず息を呑む。
だけどティスリは、わたしの想像とはちょっと違うことを言ってきた。
「いえその……もしかして、ユイナスさんは何かにお困りではないかなと思って」
「お困り……? いやその、別に困ってなんてないわよ……?」
むしろ、ここであなたに色々探られるほうが困るんですけど!?
内心冷や汗を掻いていると、ティスリの表情がふっと和らいだ。
「そうですか……ならいいのですが……」
そうして少しの間黙考したかと思ったら、ティスリが再び言ってくる。
「ですが、もし本当に困るようなことがあったら、気兼ねなくわたしに言ってくださいね?」
「モシもナニも、本当に困ってることなんてないから!」
「そうですか。ならよかったです」
そう言ってティスリが微笑む──くっ……コイツ、ほんっと見た目だけはメチャクチャいいわね!?
これじゃあ、女性に免疫のないお兄ちゃんがたぶらかされるのも時間の問題かもしれない……!
っていうかそうじゃなくて!
ティスリのヤツ、リリィの存在に感づいたのかと思ったけど、どうやら違ったようね。だからわたしは密かに胸を撫で下ろす。優秀だとは聞いていたけれど、案外そうでもないのかもね?
だとしてもこれ以上、探りを入れるのはまずいか。
だからわたしは、再び強引に話題を変えることにした。
「まぁ別に、ティスリの親戚はどうでもいいのよ」
「どうでもいいって、あなたが聞いてたんじゃない」
お母さんが突っ込んでくるが、わたしは華麗にスルーする。
「で、明日は何をするの、お兄ちゃん」
話の矛先をお兄ちゃんに向けると、お兄ちゃんは暢気な表情で答えてくる。
「農業体験をする予定なんだが、そう言えば、まだミアから連絡ないな」
「ああ、そのことなら──」
するとお母さんがお兄ちゃんに言った。
「──あなたたちが帰ってくる前に、ミアちゃんが家に来て、その段取りはついたって伝言を預かってたんだったわ」
そしてお母さんが、時間と場所をお兄ちゃんに伝える。
「ちょ、ちょっと待って!?」
予定を聞いていたわたしが待ったをかける。
「もしかして、ミアも一緒なの!?」
わたしの言葉に、お兄ちゃんは一瞬ぽかんとするもすぐに答えてきた。
「そういやハッキリとは聞いてないけど、ミアんちの畑だっていう話だし、ミアも付き添うんじゃないかな?」
「や、やっぱり!」
あ、あんの女狐えぇぇぇ──!
麦畑なんてそこら中にあるんだから、誰の畑でだって農業体験できるのに、しれっと自分ちの畑にお兄ちゃんを招き入れて!
まるで、巧妙なトラップを仕掛ける狩人のような女ね! 女狐のくせに!!
でも女狐の思惑通りに事は運ばせないわよ!?
「なら、わたしも行くわ!」
わたしの与り知らぬところで、お兄ちゃんにちょっかいを出そうとしている女狐を阻止するために、わたしが同行を申し出ると、狙われている当の本人が顔をしかめて言ってくる。
「いやなんでだよ? お前、農作業の手伝いは毎回嫌がってただろ」
この時季になると、農地を持っていないわたしたちにまで手伝いの依頼がくるものだから、あの重作業をどうやって断ろうかと毎回頭を悩ませていたんだけど……それが仇になる。
でもそんなことで引くわけにはいかない!
「農業に興味が出たのよ! 急に!」
しかし今の台詞はさすがに無理があって、お兄ちゃんは納得してくれない。
「はぁ? 重労働はイヤだとか、日に焼けるのがイヤだとか、あんだけ言ってたお前が?」
「何よいいじゃない! 頭数が多いに越したことはないでしょ!」
「いや、でもなぁ……」
「なんでそんなに嫌がるのお兄ちゃん!?」
「だってお前、ミアと会うと、いつもケンカふっかけるじゃん。ぶっちゃけ、面倒なんだよ」
「くっ……そ、それは……!」
お兄ちゃんを狙うあの女狐が悪いのに、どうしてわたしが責められるわけ!?
でもお兄ちゃんは本気で嫌がっているようで、こうなると、どう言ってもわたしは置いてけぼりを食ってしまう……!
な、何か……何か適切な理由は……!
わたしは考えあぐねてリビングを見回す──と。
わたしの視界に、どこにいようとも人目を引く容姿のティスリの顔が、やけに目に入って──
──だからなのか、藁にも縋る思いのわたしは思わず言っていた。
「ティスリと仲良くしたいから! だから行きたいの!」
………………あれ?
今わたし、ナニ言った?
リビングに何度も反響した気がしたわたしの台詞によって、しばらくの間、静寂が訪れる。
その痛いほどの静けさを破ったのは──ティスリだった。
「ユイナスさん!」
「あ、え……?」
「ぜひ一緒に行きましょう!」
「え、あ、その……」
「ユイナスさん! 嬉しいです! わたしてっきり、嫌われているものとばかり思っていたので……!」
「い、いや、ちょっと……」
「明日は一緒に、農業を学びましょうね!」
らしくなく興奮しているティスリに、わたしは両手をがっちり掴まれる。
な、なんでこんなことに!?
わたしは、あらゆる女をお兄ちゃんから排除したいだけなのに!
なのに、言い寄る女を排除するために、別の言い寄る女と仲良くしてたら意味ないじゃない!?
こうしてわたしは……墓穴を掘るという言葉を思い浮かべるしかなくなっていた……
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