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[4−33]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第33話 なるほど……貴族について理解があると……

「ミアさん、ちょっとお話があるのですが、よろしいかしら?」

 森の中に足を踏み入れた直後、リリィわたしはミアさんにそう問いかけました。するとミアさんは「はい、なんでしょう?」と聞いてきたのでわたしは要件を伝えます。

「わたし、後発のお姉様が心配なのです」

「心配というと?」

「だってあのアルデと一緒なのですよ……!? あんな野獣のごときアルデとお姉様を二人っきりで暗がりに放り出してしまっては、あの野獣が何をしでかすか分かったものではありません!」

「えーっと……アルデはそういうことしないと思いますが……」

「ですが念のため! 念のためなのです! ですのでわたしは、この辺で待ち伏せをして、お姉様達をやり過ごした後に跡を付けようと思うのですが、あなたはどうされますか?」

「そうですね……」

 ミアさんは少し黙考してから答えました。

「リリィ様をお一人にするわけにもいきませんし……わたしもお供します」

「ならば一緒に、そこの茂みに隠れましょう」

 そうしてわたしたちが木陰に身を潜ませることしばし──

 ──向こうから、お姉様と野獣が歩いてきました。

 あぁ……鬱蒼と生い茂る夜の森にあっても、なんて神々しいのでしょうお姉様! まるで満月のように輝いているかのようですわ!

 わたしが思わずウットリしていると、お姉様と野獣男がなぜか歩道を外れていくではありませんか……!

 それを目撃して、わたしは茂みから飛び出しました!

「ま、まさかあの野獣男! お姉様を暗がりに連れ込んで何かしでかす気ですか!?」

「暗がりに連れ込んだのは、ティスリさんのように見えましたが……」

「そうであっても大問題です! 追いますわよミアさん!」

「わ、分かりました……」

 そうしてわたしたちは、お姉様に気取られないよう注意しながら跡を追います。やがてお姉様達は浜辺までやってくると──

「──なっ!?」

 わたしは思わず息を呑みます。

「ななな、何をしているんですのお姉様!?」

 なぜか服を脱ぎ始めるお姉様に、わたしは度肝を抜かれました!

「こ、声が大きいですリリィ様……! 聞こえちゃいますから……!」

「…………!」

 わたしは急いで口を押さえましたが、どうやら声は届いていないようです。こちらの声が届かないということは、向こうの声も聞こえないほどの距離なのですが……だから何がどうしてああなっているのかさっぱり分かりません!

 わたしは、森と砂浜の境界に身を潜めてハラハラしていると……やがてお姉様は水着姿になりました!

「おおお、お姉様の水着姿!?」

「ちょ!? リリィ様! 隠れてないとまずいですよ……!」

 思わずわたしが駆け寄りそうになるのを、ミアさんが腕を掴んで止めてくれます。わたしはかろうじて我に返りました。

「ハッ……! そ、そうですわね……お姉様を付けていたなんてバレたら、いったいどんな折檻を受けることやら……はぁはぁ……」

「えっ……! そ、そんなに怒られちゃうんですか!? わたしたち……」

「ああ……大丈夫ですわよ。折檻はわたし限定ですから。何しろ折檻はお姉様の愛情表現ですからね」

「は、はぁ……?」

 ぽかんとするミアさんは、お姉様の激しい愛情を理解できないみたいですわね。可哀想に……

 まぁそれはともかくです。

 お姉様がせっかく水着姿を披露されているというのに……

 ここからでは、遠すぎてよく見えませんわ!

「くうぅ……オペラグラスを持ってくるべきでした……!」

 しかしまさか、このタイミングでお姉様が水着姿になるなんて予想できるはずもありません。

 わたしが目を凝らしながらも歯がみしていると、やがてお姉様と野獣男は、波打ち際を走り出しました!

「くっ……! 追いますわよミアさん!」

「は、はい!」

 しかし二人とも、無茶苦茶に速い!

 ふつー、こういう砂浜では「あはははは〜♪ 掴まえてご覧なさ〜い♪」なんて楽しみながら、のんびり走るものと聞いておりますが……なぜあの二人はガチ疾走なのですか!?

 ということでわたしたちは、あっという間にお姉様を見失ってしまいました……!

「はぁ! はぁ! はぁ! お、お姉様……いずこへ……!?」

 もはや隠れる必要もないので、砂浜に出てきたわたしは、膝に手を突いて周囲を見回すも、すでにお姉様の陰すらありません。

 そんなわたしの後ろでは、そこまで息を切らしていないミアさんがつぶやいていました。

「……ティスリさんって……やっぱり……」

 そのつぶやきが気になって、わたしは振り向くと──

 ──悲しげな表情のミアさんが、月明かりに照らされているではありませんか。

「お姉様に、何か気掛かりなことでも?」

 お姉様がどこへ走っていかれたのかが分かるかもと思っての問いかけでしたが、ミアさんの答えはまったく違うものでした。

「あ、いえ……その……ティスリさんって、やっぱりアルデのことが好きなんだろうなと思って……」

「はぁ!? そ、そんなことあるはずないじゃないですか!」

 突拍子もないことをいうミアさんに、わたしは悲鳴じみた声を上げていました。

「そもそも! アルデは平民でお姉様はおう──」

 ──っと!

 ここでわたしはなんとか思い留まります!

 お姉様が隠されているご身分のことを、わたしがバラしてしまっては折檻どころではありません!

 しかしわたしが思い留まったというのに、ミアさんは何かに気づいてしまいました……!

「ああ……やっぱり、そうなんですね……」

「やっぱりとは!?」

「あ、いえ……言えないことでしたら大丈夫です。わたしも聞かなかったことにしますので」

 思わず心臓を撥ね上げましたが、苦笑するミアさんにわたしは胸を撫で下ろします。

 そう言えば、このコは村長の娘とのことでしたし、貴族の様々な事情はよく知っているようですわね。だからその立ち振る舞いも分かっているのでしょう。

 なるほど……貴族について理解があると……

 であるならば……

 このコなら、貴族にまつわる秘密を漏らすことはあり得ないでしょうし、ということは、貴族特有の婉曲えんきょくだって理解できるはず……

 ならばやはり、このコはお姉様とアルデの仲を引き裂くことに使えそうですわ!

 だからわたしは、小さく咳払いしてから言いました!

「おほん……どうやらあなたは聡いようですからお分かりかと思いますが、つまりはそういうことなのです。公言してはなりませんよ? あともちろん、わたしから聞いただなんてお姉様に言っては駄目ですからね!?」

「はい、承知しております。そもそもわたし、何も聞いてませんから」

「ですわよね……まぁその上で、これはわたしの独り言なのですが……」

「……?」

 首を傾げるミアさんからは視線を外して、わたしはあくまでも独り言をつぶやきます。

「とにかくアルデは平民なのですから、お姉様と仲良くなりすぎるのは困りものなのですよねぇ……適性があるなら身分に関係なく要職に重用する、というのがお姉様の方針ですが、とはいえそれはあくまでも仕事の話。その垣根を越えてまで仲良くなることなどあってはならないし、あるはずもないのですが……まかり間違ってそんなことになってしまっては、国家を揺るがしかねないほどの一大事。はぁ……困ったものですわぁ……」

 そこでわたしは、ちらっとミアさんに視線を送ります。

「もしも、アルデにイイヒトがいればなんの問題もないのですけれども。ですが、彼の身近にいるのはユイナスくらいなもので──」

 ──あ。

 ちょっと待って?

 ここでミアさんを焚きつけたら──

 ──ユイナスはどうなるんでしたか?

 わたしがハタと思考を止めていると、ミアさんがぽつりと言いました。

「あ……そっか……」

「……!?」

 聡すぎるミアさんは、すでに何かに気づいたようですが……!?

「どんなに二人が惹かれ合ったって、結局は身分が──」

「あああ、あのミアさん!?」

 だからわたしは慌てて言いました!

「い、今のはあくまでも独り言ですからね!? あなたが気になさる必要はありませんよ!?」

「え、あ……はい」

 一瞬キョトンとしていたミアさんでしたが、すぐに満面笑顔になります。

 なぜか………………先ほどとは打って変わってとぉっても嬉しそうに!

「もちろん弁えています。リリィ様のお手を煩わせるようなことは、絶対にしませんのでご安心ください」

「あ、いえ! そういうことではなく!」

「え……? ではどういうことでしょう……?」

「いえそれは……えーと………………」

 いやだから、お姉様とアルデがくっつく以上に、ユイナスとアルデがくっつけるはずがないわけで……

 あ! そうでしたわ!

 だからここはユイナスのためにも、心を鬼にしてミアさんを焚きつける──ということだったじゃないですか!

 だからわたし、別にユイナスを裏切ったりしてませんし!

 そもそも今のは独り言で、ミアさんが勝手に何かを思いついたことですし!

「い、いえ! なんでもありませんわ! 今日ここでの出来事は、お互い綺麗さっぱり忘れることにしましょうね!」

「はい、そうですね。でも……ありがとうございます、リリィ様」

「あなたに感謝される言われはまったくありませんわぁ!」

 しかしわたしの全身からは、なぜか汗が噴き出すのでした。

 きっと……夜でも暑いからですわね!

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