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[4−15]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第15話 だから! その嫁さんがいねぇんだよ!!

「で。お前は何か功績を残せたか?」

 郡庁に乗り込み、面談というか取り調べというかが行われたその夜。

 アルデオレとナーヴィンは、街の酒場で呑んでいた。久しぶりに男二人で。

 そうして麦芽酒を流し込んでから、オレはナーヴィンに聞いたわけだが──

「お前だってなんの活躍もできてないだろ!」

 ──ナーヴィンは逆ギレしてきた。

「オレはいいんだよ。戦闘専門なんだから」

 まぁ……いざ戦闘になったとしても、ティスリが敵の全てを蹴散らすだろうから、オレにも活躍の場はないと思うが……そこは黙っておく。

 何しろ今は、ナーヴィンの関心をティスリから引き離すことが肝心だからな。

 ナーヴィンも、オレの腕っ節が強いことは認めているので、戦闘専門という部分には反論してこなかったものの、酒を呑みながらくだを巻き始めていた。

「だってよぉ……あんな完璧な計画に、オレが出しゃばる余地ないじゃねぇか……」

「そうだなぁ。何しろオレたちは、算数もおぼつかないしな」

「オレは算数くらいはできるっての! ってかそういうことじゃない!」

 ナーヴィンは、なぜか目をキラキラさせながら言ってくる。

「居丈高で気に食わないお貴族様を、ああも手玉に取るなんて──いくら大貴族の後ろ盾があったとはいえ、ティスリさん、すご過ぎじゃね?」

 後ろ盾を使っていたのはリリィのほうなんだが、もちろんそこも黙っておく。

 ナーヴィンからしたら、政商とはいえ平民に過ぎないティスリが、貴族をコテンパンにしたように見えたのだろう。

 ……うーん、だとしたら余計まずくないか? 妙な憧れを与えてしまったかも。

 だからオレは、それとなく話を逸らしてみる。

「とはいったって、お前、ティスリの魔法にビビってたじゃんか。リリィをのしたときとか」

「あ、あれは……テレジア家のご令嬢だってのに、物理的にツッコミを入れてたからビックリしたんだよ」

 ティスリの身分を知らないナーヴィンなら、ツッコミ自体に驚くのも無理はないが、身分の話は言い逃れに過ぎないだろう。

 だからオレは念押ししておく。

「言っとくけど、ティスリに手を出そうものならお前も同じ末路だからな?」

「わ、分かってるし、合意もなく手なんてださねぇよ!」

「合意が取れると思っていること自体が危ういんだよなぁ……」

 オレはため息を飲み込むかのように酒を入れてから、さらにツッコむ。

「あとお前、その居丈高な地方貴族に対してもビビってたろ」

「ビビってなんかいねぇよ!」

「嘘つけ。貴族が入ってきた途端、身をすくめてたじゃないか。そもそもリリィにも未だにビビってるだろ、お前。オレは、体の硬直とかそういうのはよく分かるんだから、言い分けしても無駄だぞ」

「くっ……だ、だけど、オレたち平民が貴族と相対したら、誰だってああなるだろ……!」

「オレは緊張なんてしないが?」

「それはお前が衛士をやってたからだろ!」

「ユイナスだって平然としてたじゃんか」

「おまえら兄妹がどうかしてるってことだよ!」

 うーん……

 確かにオレは衛士をやって慣れたのはあるし、ユイナスがどうかしているのは事実だし、いまいち説得力に欠けるのは確かである。

 とはいえ、ナーヴィンがビビりである事は変わらないわけだから、オレはそこをもっと突くことにした。

「あのなぁ……ナーヴィン。正直に言えよ。本当は今日、胃に穴の空く思いだったろ?」

「そ、そんなことはねぇよ……」

「言っとくけどな? ティスリは平民だったとしても、お前が考えている以上に貴族に近しい人間だからな。それこそ、国王とプライベートで会えるくらいには」

「……はぁ!?」

 さすがに王様の存在は効いたのか、ナーヴィンが素っ頓狂な声を上げる。

 周囲の視線が刺さってくるので、オレは軽く会釈して謝罪の意を伝えていると、ナーヴィンが聞いてきた。

「お、おいアルデ……国王って、この国の王様ってことか?」

「そりゃそうだろ。っていうかたぶん、この国の王様だけじゃなくて、各国の王様とも普通に会えるレベルだぞ、アイツ」

「ま、まぢで……?」

「まぢで」

「………………」

 これまで強気だったナーヴィンもさすがに押し黙る。

 そりゃそうだろう。もしも国王の前でちょっとでも礼を欠けば、平民のオレたちなんて、物理的に首を飛ばされるのだから。割合アッサリと。

 もちろんティスリが立ち会っていたらそんなこと起こるわけないが、そこは黙っておく。

「お、おいアルデ……国王とプライベートで会えるって……ティスリさんってどんな立場なの……?」

「さぁなぁ。オレも詳しくは知らんし、知らない方がいいこともある」

「………………」

 そりゃあティスリは国王の娘なんだから、プライベートで会うこともあるだろう。王族のプライベートがどんなもんなのかは本当に知らんけど。

 そうしてオレは、ビビりのナーヴィンに畳みかける。

「つまりな、ティスリは『高嶺の花』とかそういう次元じゃないんだよ。王侯貴族だって逆らえないほどに天才なんだ。そんなヤツが、お前のカノジョになると思うか?」

「そ、それは……」

「仕事にしたってそうだ。オレは戦っていればいいが、お前の場合は文官的な立ち位置になる。だとしたらあの天才をどうやってサポートするんだ? 今日、よく分かっただろ?」

「………………」

「だからティスリの元に就職とか絶対にやめとけ。大人しく農業に従事しとけよ。別に、生活に困っているわけじゃないんだろ」

「そ、そうだけど……」

「なら地元にいろって。きっと、ティスリのおかげでこの国は今より良くなるから。だから老後も安泰だって」

「だけど……」

「そうして地元で、器量のいい嫁さんでも見つけて、家族を作って団らんを楽しめば──」

「だから! その嫁さんがいねぇんだよ!!」

 ………………あー、そういえば。

 コイツ、村という狭い社会でナンパしまくった結果。

 村の女子たち全員に白い目で見られてるんだっけ。

「くっそ! 何が貴族だ! 何が国王だ!!」

「お、おいナーヴィン……!?」

 ナーヴィンは不穏なことを言って立ち上がると、拳を突き上げる。

「オレはぜってー諦めない! 諦めないぞ! 必ずティスリさんをものにしてやる!!」

 そういって麦芽酒を一気に煽る。

 ああ……こりゃもう駄目か……

 カノジョが欲しいとぎゃーぎゃー騒ぐナーヴィンを見て、オレはついに諦める。

 こうなってしまっては、行くとこまで行かないとこのバカは分からないだろう。

 どうせ、ティスリがナーヴィンを受け入れるなんてあり得ないし。

 あとオレができることと言えば……しつこく告って爆破魔法を受けないことを願うしかない。

 だからオレは、ため息交じりにつぶやく。

「ったく……オレは、お前の身を案じているというのに」

「オレを案じているのなら、オンナを紹介してくれオンナを!!」

 そうしてナーヴィンは悪酔いしていくのだった……

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