[1−35]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第35話 お姉様は、間違いなく世界最強の騎士でもあるのです!
お姉様と間男の決闘が始まり、リリィはうっとりしながら言いました。
「ああ……わたしなんかではお姉様の太刀筋はもちろん、お姿すら見えませんが……だからこそステキ……」
とはいえ、刃と刃がぶつかる激しい斬撃音は聞こえてきますし、苦戦する間男の姿は見て取れますから、わたしは気分爽快でした。
お姉様をたぶらかしたその大罪、身をもって償うがいいのです!
「ラーフル! ラーフルはいますか?」
「はい、こちらに……」
「今の戦況はどうなっておりますの?」
「はい……殿下が優勢に違いありませんが……」
「そうでしょう、そうでしょう。なんといってもあのお姉様なのですからね!」
何しろお姉様は剣術でも国内随一、いえ間違いなく世界最強なのですから!
お姉様が、世界を放浪していた剣聖様に指南を受けたのはわずか9歳の時で、しかも10歳にして免許皆伝を頂いたのです!
その太刀筋は電光石火で縮地の域に達し、我が国で、純粋な剣技でお姉様に勝てる相手などいません! もちろん、魔法を交えた剣技であればお姉様はさらに強いわけですが!!
本当は世界大会に出場してしかるべき腕前なのですが、さすがに一国の王女が、世界水準とはいえたかが武芸大会に出るわけにはいきませんから、お姉様の凄さを知る人間は限られてはいます。が、とにかくお姉様は、間違いなく世界最強の騎士でもあるのです!
ふふ……本来は魔法士であるお姉様だというのに、その魔法を使わずにお相手して差し上げるだなんて、なんてお優しいこと。
そうやってじわじわと嬲っていくのも乙というものですわぁ。
わたしが誇らしげにその戦いを見守っていると、しかしラーフルは余裕のない声で言ってきました。
「殿下のあの斬撃を、こうも防ぐなど……信じられません……」
ラーフルに視線を向けると、彼女は目を大きく見開いています。
だからわたしは、彼女を安心させるために言いました。
「お姉様が手加減をしているのでしょう? でなければあの間男は、今頃真っ二つですわ」
「……いえ、少なくとも我々に手ほどきするときのような、そういった手加減はされていないと思われます」
「なぜそんなことが分かるんですの?」
「手ほどきを受ける際は、自分にも殿下の太刀筋はかろうじて見えますが、今はまったく見えませんので……」
「……へぇ?」
わたしは、その言葉の意味を図るべくラーフルの実力を思い出します。
お姉様付きの親衛隊長ですから、それに見合う実力であったはず──ああ、そうでしたわ。
わたしは半年前の御前試合を思い出しました。
「ラーフル……あなた、御前試合の女子剣術部門で、優勝してましたわよね?」
「あ、はい……覚えて頂き光栄です」
「そのあなたが、あの二人の太刀筋が見えないんですの?」
「まるで見えません」
「……………………」
わたしは眉をひそめて、二人の決闘に視線を戻します。
動き回っているのはお姉様のほうです。お美しい姿が消えたかと思うと間男に強烈な一撃を入れてまた離脱、したかと思うと消えて一撃──わたしが見て取れる範囲では、そんな一撃離脱を繰り返しています。
対する間男は、ごくわずかな動きでお姉様の斬撃を紙一重で凌いでいるようで……先ほどまでは後退をしていましたが、今は微動だにしていませんね……?
わたしはさらに、この決闘に立ち会っている将校たちにも視線を巡らせますが……その全員が一様に、目と口を大きく開けて、呆然とした様子でした。
「ラーフル。将軍達は何をそんなに驚いているんですの?」
「自分と同じだと思います。殿下の斬撃をこれほどまでに受け止めた騎士など、かつて存在していませんでしたので……」
………………はて?
ということは……えっと……どういうことかしら?
「ラーフル……武芸に疎いわたしに分かるよう、ハイかイイエで答えて欲しいのだけれど。あの間男、もしかして強いのですか?」
「……ハイ」
「どれほどに?」
「おそらく……剣技だけならば、殿下に次ぐ強さかと」
「はぁ!?」
わたしが驚愕の声を上げると同時、間男が声を上げました。
「おいティスリ! ずいぶんと息が上がっているようだな!」
間男から離脱したお姉様を見ると、確かに肩で息をしています。素人目に見ても、一撃離脱を繰り返していたお姉様のほうが消耗しているのが分かりました。
お姉様がらしくもなく……顔をしかめて言いました。
「な、なんなのですあなたは……!? 多少は鍛錬を積んでいると思ってましたが──」
「へへん? ずいぶんとオレを舐めてたようだな。こう見えてもオレはな……」
こう見えても……なんだというのです?
あのお姉様が息を切らせたお姿なんて、わたしは見たこともないのですよ!?
いったいあの間男、何者だというのです!?
ニヤリと笑う間男の次の台詞に、お姉様はもちろんのこと、この場にいた数百人の人間が注目し、無意識に生唾を飲み込みました。
ま、まさか……あの間男……
伝説の勇者だとでも言うつもりですか!?
わたしが勇者の存在を思い出したそのとき、間男はいよいよ言い放ちます。
「こう見えてもオレは──村一番の剣豪だったんだからな!」
…………。
……………………。
…………………………………………。
はいぃ?
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
まったくもって意味不明な間男の台詞に、わたしは思わず声を張り上げました。
間男とお姉様がこちらに視線を向けます。
「そこな間男! 村一番の剣豪とはどういう意味ですか!?」
「どういう意味も何も……そのまんまの意味だが?」
「もっと詳しく説明なさい!」
「いやだから……オレ、なぜか村で一番強かったんだよ。うちの村の祭では武闘大会なんて催されるんだけど、オレは子供の頃から、大人相手でも圧勝だったんだ。だから付いたあだ名が『村一番の剣豪』ってわけだ」
「む……む……村の祭り!?」
「そうだよ。じゃなかったらただの村人が衛士を目指したりしないだろ? 村のみんなに『お前なら、きっと衛士になれる!』って言われたから、わざわざ上京してきたんだし」
「村のみんなに言われたから!?」
「……なぁ? さっきから何を驚いているんだ? 別にオレ、何もおかしなコト言ってないだろ……」
「おかしなコトだらけですわよ!!」
た、たかが村一番というだけで、あのお姉様と対等に渡り合うとか……
「あなたの村は戦闘民族か何かですの!?」
「いや、ただの村民だが……」
ただの村民の中に、ただの村の子供に……
お姉様に匹敵するほどの能力を備えた人間が……生まれたというんですの!?
王侯貴族の血も引いていない、たんなる平民の中に!?
「う、う〜〜〜ん……」
わたしは立ちくらみを覚え……体をラーフルに支えられたのでした……
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