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[4−41]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

番外編2 ティスリの二日酔い(その2)

 ティスリわたしが禁酒を決意していると、アルデが言ってきました。

「やっちまったもんは仕方がないだろ。大切なのは今後だよ」

「………………それは、そうですが……」

 そうしてアルデは、どうしてわたしがユイナスさんを気に掛けるのかと聞いてくるのですが……

「そ、それは……」

 ユイナスさんだって、この国の民なのですから、わたしが気に掛けるのは当然だと説明していると、アルデは、まだなんとなく釈然としない様子で聞いてきます。

「いや、お前がオレたち平民を大切にしてくれるのはありがたいけど、とは言ったって、お前がユイナスに執着しているのはちょっと違う話じゃね?」

「うっ……そ、それは……」

 言われてみれば確かにその通りなんですが……

 しかし人に対する好悪の感情なんて、そもそも理由があるかも怪しいわけで……

 だからわたしがハッキリ答えられずにいると、アルデは「ユイナスは友達に勧められない」なんてことを言ってきます。

 だからわたしは、そんなことないとユイナスさんを庇っていると、アルデは思いがけぬことを言いました。

「しばらく村に滞在するならミアとかどうよ? ユイナスと比べるべくもなく、アイツはまともな性格だぜ?」

 と、そこで……

 どうしてかわたしの感情は……

 真っ白になっていました。

 だからわたしは、反射的に言っていました。

「も、もちろん……ミアさんとも仲良くしたいと思ってます」

 わたしが、なんの考えも無しに言葉を口にするなんて……

 それだけでも驚きなのですが……

 いえもちろん、ミアさんはとてもよい人だと思いますし、仲良くしたいとも思っています。

 しかしどうしてか、これまでのミアさんの言動を思い浮かべると……心に引っかかるものがあって。

 もちろんそれは、嫌悪感ではありません。例えば悪徳貴族と接するときは、きまって嫌悪感を覚えたものですが、そういった類いのものではないのです。そもそもミアさんと仲良くしたいのは本当ですし……

 でもどうしてか……

 何かが引っかかって……

 わたしはその引っかかりの理由が分からず、しかもそれ以上考えたくなくて……

 だから話を逸らすべく、覚悟を決めて、いよいよ本題を切り出すことにしました。

「そ、それで、その………………ユイナスさんの様子は……どうですか?」

 わたしのそんな覚悟を知りもしないアルデは、やっぱり無神経にもズゲズゲと言ってきました。

「ぶっちゃけ……めっちゃ怒ってる」

「………………!?」

「お前のダル絡みが、相当にイヤだったらしい」

「………………!!」

 くっ……!

 や、やはり……

 そうですよね!?

 わたしは、知りたくなかった現実を突きつけられ……思わず歯を食いしばりました!

 かつて、これほど後悔したことなんてなかった──というよりわたしは後悔なんてしたことなくて、強いていえば、これまでにもアルデには泥酔状態を何度か見られてしまったことが後悔と言えなくもないですが、しかしそれは「所詮はアルデだし、まぁいっか」程度で済んでいたというのに……

 まさかユイナスさんにまで、泥酔したわたしを晒してしまうとは!

「ど、どうすればいいんですか!?」

 だからわたしは、いてもたってもいられなくなって身を乗り出します!

「どうすればユイナスさんの許しを得られるのです!?」

「う〜〜〜ん……そうだなぁ……」

「アルデ! ちゃんと考えてくださいよ! もはやこうなっては、兄であるあなただけが頼りなのですよ!?」

 そうしてわたしは、血の巡りが悪そうなアルデの頭を必死に揺すって、なんとか打開策を捻り出させようとしました!

 やがてアルデは、頭に血を通わすことが出来たのか答えてきます!

「そうだなぁ……何か詫びの品でもあれば、あるいは。ユイナスは、オシャレでハイソな生活を夢見ている節があるから、例えば──」

「なるほど分かりました!」

 そんなことならお安いご用です!

 だからわたしは張り切って答えました!

「であれば、わたしの屋敷を進呈しましょう!」

 何しろわたしには、無駄な屋敷がたくさんあります。

 国家予算をゆうに超えるキャッシュを寝かせておいては経済に悪影響しかありませんから、わたしはやむを得ず、不動産を始めとする多くの資産を個人的に所有していますが、ぜんぜん使っていなかったのです。そもそも使う時間もありませんでしたし。

 だから、個人的な資産は国民に解放しようと思っていたのですが、大臣達が「民が詰めかけ現地が大混乱するからやめてくだされ!」と泣いて懇願してくるものですから、やむを得ず保留としていました。

 ですから、それらがユイナスさんの役に立つというのなら、譲渡はぜんぜん構いません!

 しかしそんな不用品をユイナスさんに差し上げても詫びになるかどうか……というかそもそも、不用品を詫びの代わりにするなんて失礼ですよね?

 であれば、わたしが保有する様々な会社の所有権も付けましょう!

 ただいま現在ですと、やはり最先端技術を扱っている魔動車会社が最も高い価値となっていますから、そこの独占販売権なら、なんとかお詫びになるかもしれません!

 もちろん、販売事業の細かなオペレーションは商会の人間がやりますから、ユイナスさんは特に何もすることなく、銀行口座にお金が振り込まれるのを日々見ているだけでいいのです!

 うん、これなら詫びになりますね!

 ということをアルデに説明していたら、気づけばアルデは慌てふためいていました。

「ちょっと待て待て!? おまいはいったい何を言ってるんだ!?」

「何をって……お詫びの品が必要なのでしょう?」

「どこの世界に、悪酔いしただけで家屋敷や車を渡すヤツがいるんだよ!?」

 というわけでアルデに反対されてしまいます。曰く「ユイナスにそんな大金掴ませたら、何をしでかすか分からない」とのこと。

 悪徳貴族じゃあるまいし、ユイナスさんが悪さをするなんて思えませんが、しかしアルデがどうしてもやめてくれと言ってきます。だからわたしはアルデに問いました。

「ならアルデは、どんな品物ならいいというのですか?」

 するとアルデは、文房具とか鞄とか服とかいう始末。

 そんなの、詫びどころかただの粗品じゃないですか。

 だからわたしは納得がいかず、アルデと議論を続けた結果、ユイナスさんに直接尋ねることになりました。

 そうして、お詫びなら出来る限り早い方がいいということになり、だからわたしは立ち上がろうとしたのですが──

 ──まだ昨日の酒精が残っていたのか、わたしは思わずよろめいてしまいます。

 それを咄嗟にアルデが支えてくれました。

「おい、大丈夫か?」

「うう……まだ酒精が残っているようで……」

 アルデがすぐ間近にいることに、わたしは思わずドキリとしますが、それ以上に目眩が酷くて、わたしはアルデを引き離すこともできません。

 そんなわたしにアルデが言ってきます。

「なら詫びは、お前が完全に回復してからでいいよ」

「ですが……少しでも早い方が……」

「調子悪いのに詫びようとしても、誠意が伝わらないかもしれないだろ。お前が謝りたがっていることは、オレからそれとなく伝えておくから」

「そうですね……ではそのようにお願いします」

 それからわたしは、アルデに支えられながら、再び横になりました。

 わたしの背中にアルデの手が添えられて……その暖かさが、パジャマの生地を通して伝わってきて……

 だ、大丈夫ですよね……?

 わたしの心音が、アルデにまで伝わったりはしてませんよね……!?

 そもそもドキドキしているのは二日酔いのせいですが!

「じゃ、オレはユイナスに話を付けてくるわ」

 わたしがベッドの上で心を落ち着かせていると、アルデが部屋を出て行こうとします。

 そんなアルデを、気づけばわたしは呼び止めていました。

「あの……アルデ……」

「なんだよティスリ。まだ何か用があるのか?」

「ユイナスさんに話をしたら……」

「話をしたら?」

「戻ってきてください」

 ……え?

 いやあの、わたし?

 いったい何を言い始めましたか……!?

「戻れって……いったいなんで?」

 アルデは、ちょっと戸惑いながら聞いてきます。

 いったいなんでって……それはわたしが聞きたいくらいですよ……!

 だからわたしは、二日酔いで機能停止している脳細胞を強制的に動かして、無意識にしていた今の言動に、整合性の取れたもっともらしい理由を考え始めます!

 そうして思いついたキーワードは──やはり『後悔』ですか!

「一人でいると……後悔で押し潰されそうになるんです……でも……」

 そう──昨日の後悔を打ち消すためには、今この瞬間に意識を集中させることが肝要です。いかに超絶天才美少女たるわたしと言えども、会話をしながら昨日のことを思い出すことは出来ませんからね。

 だから、内容はなんでもいいので誰かとおしゃべりしていたいわけですが……

 アルデの地元で実家にいると、その相手はアルデ以外にいません。アルデのご両親とではさすがに気疲れしてしまいますし、ユイナスさんと顔を合わせるのは謝罪するときですし……

 それに、アルデの顔を見ていると……

 なんだか、とっても……

 ホッとするわけで……

 だからわたしは、正直な気持ちを言いました。

「あなたのアホ面を見ているとホッとするんです。だから──」

「二度と来ないからな!?」

「ああ!? ちょっとアルデ──」

 どういうわけか、アルデは怒って部屋を出ていってしまいました!

 な、なんでですか!

 わたし、今だかつて無いほどアルデを褒めたというのに!

 アルデがアホ面なのは元からで仕方のない事でしょう!?

 それよりも『アルデを見ているとホッとする(アホ面だけど)』ということの方が大切でしょう!?

 だというのにアルデは、重要な文脈をちっとも理解せず、ちょっとしたことで怒り出す始末!

 やっぱりアルデは狭量きょうりょうにも程があります!

 などと──怒り心頭でいたら昨日のことを忘れられていて、それから少しして、結局はアルデが部屋に戻ってきたので、わたしはいっときの間、後悔を忘れることが出来たのでした。

 とはいえ……いずれにしても……

 もう、人前でお酒を呑むのはやめにしましょう……

 酒精は、体質や気質によってその反応が変わるといいますし、わたしの体質では酒精は受け付けられないのでしょうね。

 お酒の味は嫌いじゃないのですが……残念です。

 それと、飲酒魔法自体は成功していたんですけどね。

 飲酒魔法が想定する以上に、わたしの酒精許容量が少なかったというだけで。

 あ、であれば……

 今後もちょくちょく飲酒して、その許容量を正確に測って、それを飲酒魔法にフィードバックすれば……

 悪酔いや二日酔いすることなく、最終的にはわたしもお酒を楽しめるかも?

 もちろん、そんなことを人前で試したりは今後二度と絶対にしませんが、さりとて一人でやるには、酔い潰れてしまったときのリスクが高いわけで……

 であれば……

 アルデの前だけでなら……

 いいかも?

 なぜなら……

 なぜならアルデは……

 所詮、アルデですしね!

(ティスリの二日酔い・おしまい)

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