[3−22]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第22話 さて……そのお姫様の今日の機嫌は如何に?
「ふあぁぁぁ……眠い……」
よく考えたら久しぶりの早起きに、アルデは大きな欠伸をしてからベッドから起きる。
これまでも、そこまで寝坊していたつもりはないが、農民の朝は早いからなぁ。日が昇ると同時に起きるなんて久しぶりだ。もっとも村人たちは、日が昇る前から仕事の準備をしているはずだが。
そう考えると、ティスリの護衛という仕事がどんだけラクなのか思い知らされるな──まぁ、たまに死にそうな目に遭うけど。
けど最近はそんなことも減ったか。ヘソを曲げられることはまだまだ多いけど、農民の苦労に比べたら可愛いものかもしれない。何しろ給金はメチャクチャいいわけで。
お姫様のちょっとしたわがままに付き合う程度で破格の給金がもらえるのに、文句を言っていたら罰が当たるかもなぁ……などと考えながらオレは着替えを終える。
さて……そのお姫様の今日の機嫌は如何に?
そう思いながらリビングに降りると、サスペンダー付きのカーゴズボンと黒の長袖、それに麦わら帽子をかぶり、髪は一束にまとめる……という姿のティスリがすでに待機していた。
作業着だというのに、なんでもサマになるヤツだなぁ……
オレがそんなことを考えていたら、ティスリが腰に手を当てて言ってくる。
「遅いですよアルデ」
「悪い悪い……ってかティスリが早すぎだろ?」
「何事も、早めの行動に越したことはありません」
「そうかい。で、ユイナスは?」
「もう魔動車に乗り込んでいます」
のっけから文句を言われるも、その声音は浮かれ気味だ。どうやら、昨日までの不機嫌は治ったようだな。
これは……たぶんユイナスのおかげか。
ティスリのヤツ、どういうわけかユイナスとは仲良くしたがっていたからな。昨夜、ユイナスに「仲良くしたい」と言われたことが、未だに嬉しいのだろう。
ぼっちのティスリに友達ができるのはいいことなんだが……かなり変わっているオレの妹がその相手というのは、いささか心配だったりする。
例えば、領都で知り合ったグレナダ姉弟とは、いい友達になれそうな感じだったけど、たいした目的もないこの旅に連れ回すわけにもいかなかったし。
とはいえ、相手がユイナスではなぁ……
いずれ、ティスリの堪忍袋が破裂しないかが心配だ。
「なぁ……ティスリ。お前って、なんでユイナスと仲良くしたいの?」
「え……?」
小さな村だけど、ティスリと同世代の女子は何人かいる。できればユイナスよりは、彼女たちと交友を深めてもらいたいもんだが……
でも温厚なミアとは、なんとなくソリが合わなかった感じだし……
なのになぜ、性格がキツすぎるユイナスなのか? 普通の女子と仲良くしたほうがラクだと思うんだけど。
だからオレは疑問が浮かんでティスリに問いかけたわけだが、当のティスリは首を傾げるばかりだった。
「なぜ、と言われても。わたしは、誰とだって仲良くしていますが?」
「………………は?」
「………………なんです、そのマヌケ面は?」
思わず素が出たオレの態度に、ティスリの瞳が剣呑になる。
「まるでこのわたしが、いつでもどこでも無愛想でケンカっ早いとでも言いたげですね?」
なんだ、自分のことをよく分かってるじゃないか──などとは口が裂けても言えない。
「いやいやいや! 別にそんなこと一言も言ってないだろ!?」
「アルデの目がそう語っているのですよ、目が」
「とんだ言いがかりだ!」
まぁ実際、そんな感じに思ってはいたが、言っていないのだから証拠はない。ギリギリセーフだ。
だからオレは、元々の疑問を口にする。
「オレが言いたかったのは、ユイナスみたいな気むずかしいのを相手にしなくたって、友達を作りたいなら、ミアとかいるじゃんって話……で……」
オレがミアの名前を出した途端、またぞろティスリの不機嫌がぶり返したようで、剣呑だった瞳がさらに細まる。
「もちろん、ミアさんとも仲良くしようと思っていますが? そもそも今日の段取りを付けてくれたのはミアさんですし、感謝してもしきれないくらいです」
「あ、ああ……だよな?」
その台詞とは裏腹に、ティスリの機嫌は明らかに斜めっていた。それはもういきなり直滑降になるほどに。
な、なんでだ……?
どう考えても、友達になるならミアのほうが断然いいと思うんだが……
もしかしてあれか? 類は友を呼ぶとはやっぱり真実で、変わり者は変わり者に惹かれあうということなのだろうか?
などと考えていたら、オレは、目つきを鋭くしたティスリの接近を許してしまう。
コ、コイツ……考え事をしていたとはいえ、こうもあっさり間合いを詰めてくるとは……! やはり、ティスリ相手に仕事していたら、いくつ命があっても足りないんじゃないか……!?
そんなティスリが、体が触れるか触れないかの距離でオレを見上げてくる……!
「最近ずっと、良からぬことを考えていますよね、アルデは」
くっ……こうもあっさり懐に入られては、回避行動もままならない!
「そ、そんなことないぞ……?」
「どうせまた、わたしのことを『友達のいないぼっち』とか決めつけていたんでしょう?」
「な、なんで分かった!?」
思わず言ってしまった一言に、いよいよティスリが怒り出す。
「やっぱり! だいたいあなたは、わたしに対して偏見が過ぎるのです……!」
興奮するティスリに、オレは半歩退きながらも抗弁を試みた。
「だって、ぼっちなのは事実なんだから仕方がないだろ?」
「事実無根にも程があります! わたしが仕事をしていたときはこれでも──」
「それは仕事の付き合いで、友達とは言わないだろーが」
オレがごく当たり前のことを言うと、ティスリがそっぽを向いてなおも言ってくる。
「メリットもない友人なんて必要ありません」
「なら、ユイナスとはどんなメリットがあるってんだよ?」
「そ、それは──」
あ、あれ……?
ティスリのその反応に、オレは思わず首を傾げる。
口論になって、ティスリが口ごもるなんて珍しかったから──と思ったところで玄関から、バタン!という音が聞こえたと思ったら、すぐさまやかましい声が飛び込んできた。
「ちょ、ちょっとあなたたち!? そんなに接近して何してるのよ!?」
そう言われて、ティスリはハッとした表情になるとオレから飛び退いた。
「ユ、ユイナスさん……これはその……」
魔動車に乗り込んでいたユイナスが、どうやらしびれを切らしてやってきたようだ。そこにちょっと口喧嘩をしていたオレたちを目撃して、またぞろ絡み始めてしまう。
さきほどの勢いはどこへやら、ティスリは急にしおらしくなって、髪の毛を弄りながらつぶやいた。
「朝の挨拶みたいなもので……」
「キスをする距離で挨拶なんてしないでしょ!?」
「キ、キスなんてしませんよ元より!?」
「とにかく! お兄ちゃんの半径3メートル以内に接近するの禁止!」
ってか半径3メートル接近禁止なんてことになったら、ティスリの護衛ができないじゃないか。まぁ、護衛する必要があるのかはさておき。
いずれにしても、このままユイナスを喚かしていては遅刻してしまうのでオレは割って入った。
「あー、はいはい。そこまでにしとけ。そろそろ家を出ないと間に合わないだろ」
「お兄ちゃんたちが遅れてたんでしょ!?」
「分かった分かった。悪かったからさっさと行くぞ」
ユイナスの怒りはまだくすぶっていそうだったが、しかしオレは強引に外へと連れ出す。
はぁ……朝の集合からこれでは、今日一日が思いやられるな、とオレは内心でぼやくのだった。
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